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「先輩の彼氏になりたい」
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「そう、大型犬。ゴールデンレトリバーとか? デカくて懐っこくて、飼ったことはないけど多分こんな感じだろ」
「うーん、でもモモ先輩は猫派っすよね?」
「うん」
「じゃあ猫がよかった」
「はは、そういう問題?」
「そういう問題っす」
「てか猫って言えばさ、瀬名んちの猫の写真、いつ見せてくれんだよ」
不服そうな顔で見上げてくる瀬名に、桃輔はくすりと笑みを零す。
入学したばかりの頃より髪は少し伸びたが、染められることはなく黒いままで。まっすぐで素直な瀬名の良さが、こんなところにも表れている気がする。
それこそ犬にそうするように髪を撫でると、瀬名は目を見開いて両手で顔を覆ってしまった。
「あのー、モモ先輩? オレが先輩を好きだってこと、もしかして忘れてません?」
「えー? 忘れてないけど」
「ほんとかな……」
「なあ、猫の写真。見たい」
「……もっと仲良くなったら見せてあげます」
「もうだいぶ仲良くね?」
「だから……」
そこまで言ったところで、瀬名は腹筋に力を入れるようにして起き上がった。それからぐいと顔を近づけられる。思わず体が跳ねたが、「逃げないで、お願い」と瀬名がささやく。
さみしそうに眉を下げた顔を瀬名にされると、桃輔はやはり弱い。言われるがままでいたら、コツンと額が合わさった。
「そういう意味で仲良くなったら、ですよ」
「そういう意味で、仲良く……?」
「うん。先輩の彼氏になれたら、ってこと」
「…………」
お前が一目惚れしたのは俺じゃない。そう言おうとしたことは何度かあった。だがその度に、それを先延ばしにしてしまった。勘違いしているのは瀬名だし、だとか、もう少し一緒に過ごしてみたいだとか、身勝手な理由をくっつけて。
それが今になって、激しい後悔へと色を変えそうだ。だってやはり、酷いことをしている。瀬名はこんなに、誠実に恋をしているのに。
「モモ先輩? なんか元気ない?」
考えこんでつい俯くと、心配そうに瀬名が顔を覗きこんできた。
「いや、そんなことない。平気」
「本当に?」
「……ん、ほんとに」
瀬名のことを思えば、今すぐ教えてあげるべきだ。真実を伝えて、桜輔の元に送り出さなければならない。だがそうするには、あまりに仲良くなりすぎた。顔も合わせられなくなるなんて考えたくない――そう思ってしまうくらいには、水沢瀬名という後輩はかわいい存在になってしまった。
他人からの評価、向けられる感情――たくさんのものを諦めてきたけれど。瀬名を失うことは、今までの比にならない気がしている。想像するだけで息が詰まりそうだ。
「そうだ先輩、もうすぐ夏休みじゃないすか」
元気づけようとしてくれているのだろうか。先ほどまでよりトーンの上がった声で、瀬名がそう言った。
「ん? だな」
「どこか遊びにいきませんか?」
「俺と瀬名で?」
「そうです、ふたりで」
「それ、瀬名嬉しいヤツ?」
「当たり前じゃないすか! めっちゃ嬉しいっす!」
「そっか。じゃあ、遊ぶか」
「マジすか? やった」
本当に良いヤツだとそう思う。いい男でモテるという意味だけではなく、人間性が美しいとすら感じるくらいに。
そんな瀬名を、その心を大切にするなら、自分の感情なんかで振り回すべきではない。分かっているのに、それができない。勝手なものだとつくづく自分が嫌になる。
「……ごめんな」
「ん? なんか言いました?」
ぼそりと落ちた本音が、自分の胸に突き刺さる。
あと少しだけ、もう少し瀬名と過ごしたら必ず伝えなければ。せめてその覚悟だけはちゃんと持っていようと心に決める。
「いや、なんでもねえよ」
その瞬間に瀬名とはもう会えなくなるけれど。自業自得なのだ。
「うーん、でもモモ先輩は猫派っすよね?」
「うん」
「じゃあ猫がよかった」
「はは、そういう問題?」
「そういう問題っす」
「てか猫って言えばさ、瀬名んちの猫の写真、いつ見せてくれんだよ」
不服そうな顔で見上げてくる瀬名に、桃輔はくすりと笑みを零す。
入学したばかりの頃より髪は少し伸びたが、染められることはなく黒いままで。まっすぐで素直な瀬名の良さが、こんなところにも表れている気がする。
それこそ犬にそうするように髪を撫でると、瀬名は目を見開いて両手で顔を覆ってしまった。
「あのー、モモ先輩? オレが先輩を好きだってこと、もしかして忘れてません?」
「えー? 忘れてないけど」
「ほんとかな……」
「なあ、猫の写真。見たい」
「……もっと仲良くなったら見せてあげます」
「もうだいぶ仲良くね?」
「だから……」
そこまで言ったところで、瀬名は腹筋に力を入れるようにして起き上がった。それからぐいと顔を近づけられる。思わず体が跳ねたが、「逃げないで、お願い」と瀬名がささやく。
さみしそうに眉を下げた顔を瀬名にされると、桃輔はやはり弱い。言われるがままでいたら、コツンと額が合わさった。
「そういう意味で仲良くなったら、ですよ」
「そういう意味で、仲良く……?」
「うん。先輩の彼氏になれたら、ってこと」
「…………」
お前が一目惚れしたのは俺じゃない。そう言おうとしたことは何度かあった。だがその度に、それを先延ばしにしてしまった。勘違いしているのは瀬名だし、だとか、もう少し一緒に過ごしてみたいだとか、身勝手な理由をくっつけて。
それが今になって、激しい後悔へと色を変えそうだ。だってやはり、酷いことをしている。瀬名はこんなに、誠実に恋をしているのに。
「モモ先輩? なんか元気ない?」
考えこんでつい俯くと、心配そうに瀬名が顔を覗きこんできた。
「いや、そんなことない。平気」
「本当に?」
「……ん、ほんとに」
瀬名のことを思えば、今すぐ教えてあげるべきだ。真実を伝えて、桜輔の元に送り出さなければならない。だがそうするには、あまりに仲良くなりすぎた。顔も合わせられなくなるなんて考えたくない――そう思ってしまうくらいには、水沢瀬名という後輩はかわいい存在になってしまった。
他人からの評価、向けられる感情――たくさんのものを諦めてきたけれど。瀬名を失うことは、今までの比にならない気がしている。想像するだけで息が詰まりそうだ。
「そうだ先輩、もうすぐ夏休みじゃないすか」
元気づけようとしてくれているのだろうか。先ほどまでよりトーンの上がった声で、瀬名がそう言った。
「ん? だな」
「どこか遊びにいきませんか?」
「俺と瀬名で?」
「そうです、ふたりで」
「それ、瀬名嬉しいヤツ?」
「当たり前じゃないすか! めっちゃ嬉しいっす!」
「そっか。じゃあ、遊ぶか」
「マジすか? やった」
本当に良いヤツだとそう思う。いい男でモテるという意味だけではなく、人間性が美しいとすら感じるくらいに。
そんな瀬名を、その心を大切にするなら、自分の感情なんかで振り回すべきではない。分かっているのに、それができない。勝手なものだとつくづく自分が嫌になる。
「……ごめんな」
「ん? なんか言いました?」
ぼそりと落ちた本音が、自分の胸に突き刺さる。
あと少しだけ、もう少し瀬名と過ごしたら必ず伝えなければ。せめてその覚悟だけはちゃんと持っていようと心に決める。
「いや、なんでもねえよ」
その瞬間に瀬名とはもう会えなくなるけれど。自業自得なのだ。
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