20 / 58
「先輩の彼氏になりたい」
5
しおりを挟む
「そうだ、今日は先輩に渡したいものがあって」
「ん? なに?」
水筒をひとくち飲んだ瀬名が、気を取り直したようにそう言った。もういつもの表情に見える。それに安堵しながら尋ねると、弁当とは別のひと回り小さな容器を瀬名が取り出した。その蓋を開け、差し出される。
「これ、よかったら食べてください」
「わ、エビフライじゃん」
レタスの上にミニトマト、それからエビフライが三本。思わず感嘆の声が出た。
なにを隠そう、エビフライは桃輔の好物だ。母がたまに弁当のおかずにもしてくれるが、今日のメインは桜輔の好きな唐揚げだ。
「俺、エビフライ好きなんだよなー」
「ですよね」
「え?」
「あー、いや……ほら、お弁当にエビフライ入ってる時嬉しそうだったから」
「うわ、俺そんなだった? なんか恥ずいな……えっと、食っていいの?」
「もちろんです。先輩に食べてほしくて頑張ったんで」
「え……もしかしてこれ、瀬名が作ったのか!?」
「はい。初めて作ったし、ちょっと焦げちゃったけど……」
「初めて? マジ? これもうプロが作ったみたいじゃん」
「大袈裟っすよ」
「そんなことないって。えっと、じゃあいただきます」
誰かの手料理なんて、母や祖母のものしか食べたことはないのに。できたばかりの後輩の、ましてや自分のために作ってくれた好物、だなんて。
容器を受け取って箸で持ち上げてみたけれど。そのまままじまじとエビフライを見つめてしまう。
「モモ先輩? どうしたんすか?」
「いやなんか、食べるの勿体ないなって」
「はは、なんでですか」
「瀬名が作ってくれたって思うとそうなんだよ」
「っ、モモ先輩……」
「でも、食べないほうが勿体ないよな。食う、マジで。うん」
覚悟を決めるようにそう言って、ひとくち齧ってみる。気合を入れたくせに、普段より小さなひとくちになってしまった。せめて長く味わいたい気持ちの表れだ。
口の中に広がる衣の香ばしさと、エビの食感。たしかに多少の焦げはあるが、なにも問題はない。丁寧に咀嚼しながら、ついうんうんと頷く。
「どう、すか?」
「美味い」
「マジすか!?」
「すげーマジ。うわー、やっぱ食い終わるの勿体ないなこれ」
「よかったー……一応味見用にもう一本揚げて食べて、多分大丈夫だとは思ったんすけど。モモ先輩の口に合うかなって、かなり緊張した」
天井を仰ぎ安堵の息を大きく長く吐きながら、瀬名は後ろの壁に背を凭れた。
一体、どれだけこの瞬間のことを考えていたのだろうか。これを作った今朝から? 買い物もわざわざしてくれたのだろうかと考えると、胸がくすぐったい。緩む口角をどうにも抑えられない。
「ありがとな、瀬名。これすげー嬉しい」
「こちらこそありがとうです」
「はは、なんでだよ」
「モモ先輩の喜んでくれた顔見れたから」
「そ、そっか」
「はい、そうっす」
胸いっぱいで食欲どっかいった、という瀬名に、絶対に食べなきゃだめだと勧めた。
音楽が流れる中、最後の一本のエビフライを噛みしめるように食べて。容器は洗って返すと言ったのに、気にしないでと押しの強い瀬名に負けて言葉に甘えることにした。
ごちそうさまともう一度礼を言ったら、あと十分ほど昼休みが残っていることを確認した瀬名は、今なぜか、桃輔の膝の上に気持ちよさそうに頭を乗せている。
「いや、さすがに近すぎん?」
「そこはエビフライのご褒美ってことでひとつ」
「あ、自分から言っちゃう感じ?」
「はは、はい。ここぞとばかりに付け入ってます」
「ふ、お前なあ」
初めて手を繋いだ日以来、瀬名が言うところのアピールであるスキンシップは、日々の定番になってしまっていた。
とは言っても以前のように手を繋いだり、寄りかかるようにくっつかれて一緒にスマホで音楽情報を見たりと、その程度だったのだけれど。いわゆる膝枕を求められたのは初めてだ。だが、戸惑いはするが嫌ではない。それがまた厄介だな、なんて桃輔は思う。
「犬みたいだよな、瀬名って」
「ええ、犬?」
「ん? なに?」
水筒をひとくち飲んだ瀬名が、気を取り直したようにそう言った。もういつもの表情に見える。それに安堵しながら尋ねると、弁当とは別のひと回り小さな容器を瀬名が取り出した。その蓋を開け、差し出される。
「これ、よかったら食べてください」
「わ、エビフライじゃん」
レタスの上にミニトマト、それからエビフライが三本。思わず感嘆の声が出た。
なにを隠そう、エビフライは桃輔の好物だ。母がたまに弁当のおかずにもしてくれるが、今日のメインは桜輔の好きな唐揚げだ。
「俺、エビフライ好きなんだよなー」
「ですよね」
「え?」
「あー、いや……ほら、お弁当にエビフライ入ってる時嬉しそうだったから」
「うわ、俺そんなだった? なんか恥ずいな……えっと、食っていいの?」
「もちろんです。先輩に食べてほしくて頑張ったんで」
「え……もしかしてこれ、瀬名が作ったのか!?」
「はい。初めて作ったし、ちょっと焦げちゃったけど……」
「初めて? マジ? これもうプロが作ったみたいじゃん」
「大袈裟っすよ」
「そんなことないって。えっと、じゃあいただきます」
誰かの手料理なんて、母や祖母のものしか食べたことはないのに。できたばかりの後輩の、ましてや自分のために作ってくれた好物、だなんて。
容器を受け取って箸で持ち上げてみたけれど。そのまままじまじとエビフライを見つめてしまう。
「モモ先輩? どうしたんすか?」
「いやなんか、食べるの勿体ないなって」
「はは、なんでですか」
「瀬名が作ってくれたって思うとそうなんだよ」
「っ、モモ先輩……」
「でも、食べないほうが勿体ないよな。食う、マジで。うん」
覚悟を決めるようにそう言って、ひとくち齧ってみる。気合を入れたくせに、普段より小さなひとくちになってしまった。せめて長く味わいたい気持ちの表れだ。
口の中に広がる衣の香ばしさと、エビの食感。たしかに多少の焦げはあるが、なにも問題はない。丁寧に咀嚼しながら、ついうんうんと頷く。
「どう、すか?」
「美味い」
「マジすか!?」
「すげーマジ。うわー、やっぱ食い終わるの勿体ないなこれ」
「よかったー……一応味見用にもう一本揚げて食べて、多分大丈夫だとは思ったんすけど。モモ先輩の口に合うかなって、かなり緊張した」
天井を仰ぎ安堵の息を大きく長く吐きながら、瀬名は後ろの壁に背を凭れた。
一体、どれだけこの瞬間のことを考えていたのだろうか。これを作った今朝から? 買い物もわざわざしてくれたのだろうかと考えると、胸がくすぐったい。緩む口角をどうにも抑えられない。
「ありがとな、瀬名。これすげー嬉しい」
「こちらこそありがとうです」
「はは、なんでだよ」
「モモ先輩の喜んでくれた顔見れたから」
「そ、そっか」
「はい、そうっす」
胸いっぱいで食欲どっかいった、という瀬名に、絶対に食べなきゃだめだと勧めた。
音楽が流れる中、最後の一本のエビフライを噛みしめるように食べて。容器は洗って返すと言ったのに、気にしないでと押しの強い瀬名に負けて言葉に甘えることにした。
ごちそうさまともう一度礼を言ったら、あと十分ほど昼休みが残っていることを確認した瀬名は、今なぜか、桃輔の膝の上に気持ちよさそうに頭を乗せている。
「いや、さすがに近すぎん?」
「そこはエビフライのご褒美ってことでひとつ」
「あ、自分から言っちゃう感じ?」
「はは、はい。ここぞとばかりに付け入ってます」
「ふ、お前なあ」
初めて手を繋いだ日以来、瀬名が言うところのアピールであるスキンシップは、日々の定番になってしまっていた。
とは言っても以前のように手を繋いだり、寄りかかるようにくっつかれて一緒にスマホで音楽情報を見たりと、その程度だったのだけれど。いわゆる膝枕を求められたのは初めてだ。だが、戸惑いはするが嫌ではない。それがまた厄介だな、なんて桃輔は思う。
「犬みたいだよな、瀬名って」
「ええ、犬?」
32
あなたにおすすめの小説
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
泣き虫で小柄だった幼馴染が、メンタルつよめの大型犬になっていた話。
雪 いつき
BL
凰太朗と理央は、家が隣同士の幼馴染だった。
二つ年下で小柄で泣き虫だった理央を、凰太朗は、本当の弟のように可愛がっていた。だが凰太朗が中学に上がった頃、理央は親の都合で引っ越してしまう。
それから五年が経った頃、理央から同じ高校に入学するという連絡を受ける。変わらず可愛い姿を想像していたものの、再会した理央は、モデルのように背の高いイケメンに成長していた。
「凰ちゃんのこと大好きな俺も、他の奴らはどうでもいい俺も、どっちも本当の俺だから」
人前でそんな発言をして爽やかに笑う。
発言はともかく、今も変わらず懐いてくれて嬉しい。そのはずなのに、昔とは違う成長した理央に、だんだんとドキドキし始めて……。
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる