【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ

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 大きく息を吸いこんだ後、どうにでもなれと瀬名の名を叫んだ。すると、瀬名が勢いよく振り返る。見開かれたまぶたの上で、眉がくしゅっと寄せられた。

 ああ、怖い。今更なんだよ、と思われているかもしれない。だが強張る膝に力を入れ、一歩踏み出す。

 現状を打破したいなら、それは背中を向けた自分にしかできないことだ。

「瀬名……あの、急にごめん。話、したくて」
「先輩……ちょっと待ってくださいね」

 外へ出ていた友人たちのところへ駆けていって、瀬名はすぐに戻ってきた。昇降口に散らばる砂粒が、瀬名の靴の下でザラザラと音を立てる。一歩、また一歩と目の前まで来てくれる。

「友だちと帰るとこだったんで、先に帰ってって言ってきました。モモ先輩……あー、どうしよ。声かけてくれて、すげー嬉しい。もう話せないと思ってたから」
「瀬名……」

 そんな風に言ってもらえるなんて、思ってもみなかった。一瞬でこみ上げてくる涙をうまく飲みこめない。だが鼻を啜る音は、自分じゃなくて目の前から聞こえてくる。顔を上げると、瀬名の目も潤んでいた。早く、早く言わなければ。だが口を開いた瞬間、他の生徒が気まずそうに横を通った。

「あー……外出てもいい?」
「っすね」

 靴を履くのも忘れていたと、今更気がついた。自身の靴箱に一旦移動し、瀬名のもとへ走り寄る。このたった数歩すら、進む足がぎこちない。

 昇降口を出て、少し離れたところの木のそばへ移動する。空気は痛いほど冷えていて、でも体は熱くて。変な感覚だ。

「瀬名……俺、瀬名に謝らなきゃいけないことがいっぱいある」

 ようやく切り出したら、瀬名の名前が掠れてしまった。だがそんなことに構っていられない。勢いに任せて、最後まで言い切った。

「謝ること?」
「体育祭の後、ずっと無視してごめん。ラインも電話も、教室まで会いに来てくれたのも。瀬名の気持ちより、自分が怖いの優先した。ほんと、ごめん」
「…………? 怖い?」
「瀬名といるのが楽しかったからって、最低だった。瀬名が勘違いしてんの利用して、こんなにずっと……」
「……モモ先輩、えっと。オレ、先輩がなにを言ってるのか全然分かってない、と思う」
「そんなことねえだろ。だって……違えじゃん。瀬名が一目惚れしたのは、俺じゃないだろ」
「……え? モモ先輩だよ。なんで?」
「なんで、って……だって、そうじゃん」
「…………?」

 なぜ話が噛み合わないのだろう。いつの間にか、ふたりして首を傾げていた。それでもちゃんと伝えなければと、瀬名へ一歩近づく。

「俺は、受験生向けの説明会に関わってない。あの日、その時間にはもう学校にはいなかった。だから、瀬名が一目惚れしたのは俺じゃない。……俺の双子の、桜輔だ。瀬名ももう分かってるよな? だって体育祭の時も、桜輔と……」

 そこまで言った時だった。いつの間にか瀬名以外は見えなくなっていたところに、別の人間の声が届いた。

「モモ?」

 桜輔だ。
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