46 / 58
恋を憶えたメロディ
2
しおりを挟む
ついそんな言葉が口をついて出たが、瀬名のことが信じられないわけじゃない。ただ、「そうだったんだ」と簡単には言えないほどの衝撃だ。アンミツとは本当にずっと、瀬名と出逢うより前からインスタでやり取りをしてきたから。
「モモ先輩の初めての弾き語り動画、見つけたのは本当にたまたまで。投稿されて二日後くらいだったかな。オレが中二の時だったから、もう二年前だ。一瞬で好きになりました」
「……そ、うだったんだ」
「歌上手いし。声もすごく好きです」
瀬名が経緯を説明し始める。面と向かって歌を褒められるのは初めてのことで、どう反応していいか分からない。頬がじわりと熱い。
「うわー……うん、わかった、うん」
「ううん、まだです」
「…………? えっと?」
ふたりの間にあったすき間を、瀬名が詰めてきた。桃輔の上でアンミツの伸ばした手が、簡単に瀬名に触れるくらいの距離だ。たったそれだけのことでも、心臓が跳ねる。
「昨年の学校説明会の日、帰りにさっきも通った公園に寄ったんです。そしたらそこに、説明を聞いてきたばかりの高校の制服を着た男の人がいて」
「…………」
説明会の日の記憶はもう定かではないが、あの公園には当時、よく寄り道をしていた。野良猫に会うのが目的だったから、姿が見えなくなってからはぱったりと行かなくなってしまったけれど。
「髪の色が茶色くて、ピアスもいっぱいしてて。不良だーって思ったんですけど、野良猫をすごくかわいがってるみたいでした。その顔が優しくて、なんだかドキドキして……もうその瞬間には一目惚れでした。ふ、なんかあれっすよね、よくある少女マンガのパターン? 読んだことないけど。恋なんてしたことなかったのに、一瞬で好きって気持ちが理解できて……自分でもびっくりでした」
「は……? 待った、いや……」
まさか、とさらに頭が混乱する。だって、瀬名が語るその生徒はたしかに自分のことだ。いやでも――と、にわかには信じられない。だが、瀬名の柔らかく笑んだ瞳は雄弁で。震えるくちびるを自覚する前に、瀬名の手が頬へ伸びてきた。
「触ってもいいですか?」
「……っ、うん」
瀬名と足がくっついて、アンミツが膝から下りた。絨毯の上で気持ちよさそうに伸びをして、どこかへと行ってしまうのが横目に映る。頬をそっと撫でてくる瀬名の手は、少し冷たくて。思わず桃輔もそこに手を重ねた。
「話の続きなんすけど……その人を見かけた時、目が離せなくなりました。知り合いでもないヤツにずっと見られてたら嫌かな、気づいたら怒るかなって思ったんですけど。ほら、一目惚れだから。どうしても目が離せなくて。そしたらその人が、鼻歌を唄いはじめたんです。平成に大ヒットしたバンドの曲。めちゃめちゃ衝撃的でした。一目惚れした人から、大好きな歌声が聴こえてきたから。運命だって思いました」
「……マジ?」
「はい、大マジです。オレが一目惚れしたのはモモ先輩だよ。ずっと、モモ先輩だけが好きです」
「っ、マジかよぉ」
ついに堪えきれず、鼻を啜る。瀬名の親指が涙を拭ってくれて、額がコツンと合わさった。
まさかの展開にたしかに思考は追いついていないはずなのに、瀬名の仕草ひとつひとつが必死に伝えてくる。モモ先輩が好きだ、というその言葉を疑いようがない。
「モモ先輩の初めての弾き語り動画、見つけたのは本当にたまたまで。投稿されて二日後くらいだったかな。オレが中二の時だったから、もう二年前だ。一瞬で好きになりました」
「……そ、うだったんだ」
「歌上手いし。声もすごく好きです」
瀬名が経緯を説明し始める。面と向かって歌を褒められるのは初めてのことで、どう反応していいか分からない。頬がじわりと熱い。
「うわー……うん、わかった、うん」
「ううん、まだです」
「…………? えっと?」
ふたりの間にあったすき間を、瀬名が詰めてきた。桃輔の上でアンミツの伸ばした手が、簡単に瀬名に触れるくらいの距離だ。たったそれだけのことでも、心臓が跳ねる。
「昨年の学校説明会の日、帰りにさっきも通った公園に寄ったんです。そしたらそこに、説明を聞いてきたばかりの高校の制服を着た男の人がいて」
「…………」
説明会の日の記憶はもう定かではないが、あの公園には当時、よく寄り道をしていた。野良猫に会うのが目的だったから、姿が見えなくなってからはぱったりと行かなくなってしまったけれど。
「髪の色が茶色くて、ピアスもいっぱいしてて。不良だーって思ったんですけど、野良猫をすごくかわいがってるみたいでした。その顔が優しくて、なんだかドキドキして……もうその瞬間には一目惚れでした。ふ、なんかあれっすよね、よくある少女マンガのパターン? 読んだことないけど。恋なんてしたことなかったのに、一瞬で好きって気持ちが理解できて……自分でもびっくりでした」
「は……? 待った、いや……」
まさか、とさらに頭が混乱する。だって、瀬名が語るその生徒はたしかに自分のことだ。いやでも――と、にわかには信じられない。だが、瀬名の柔らかく笑んだ瞳は雄弁で。震えるくちびるを自覚する前に、瀬名の手が頬へ伸びてきた。
「触ってもいいですか?」
「……っ、うん」
瀬名と足がくっついて、アンミツが膝から下りた。絨毯の上で気持ちよさそうに伸びをして、どこかへと行ってしまうのが横目に映る。頬をそっと撫でてくる瀬名の手は、少し冷たくて。思わず桃輔もそこに手を重ねた。
「話の続きなんすけど……その人を見かけた時、目が離せなくなりました。知り合いでもないヤツにずっと見られてたら嫌かな、気づいたら怒るかなって思ったんですけど。ほら、一目惚れだから。どうしても目が離せなくて。そしたらその人が、鼻歌を唄いはじめたんです。平成に大ヒットしたバンドの曲。めちゃめちゃ衝撃的でした。一目惚れした人から、大好きな歌声が聴こえてきたから。運命だって思いました」
「……マジ?」
「はい、大マジです。オレが一目惚れしたのはモモ先輩だよ。ずっと、モモ先輩だけが好きです」
「っ、マジかよぉ」
ついに堪えきれず、鼻を啜る。瀬名の親指が涙を拭ってくれて、額がコツンと合わさった。
まさかの展開にたしかに思考は追いついていないはずなのに、瀬名の仕草ひとつひとつが必死に伝えてくる。モモ先輩が好きだ、というその言葉を疑いようがない。
43
あなたにおすすめの小説
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】
カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。
逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。
幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。
友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。
まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。
恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。
ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。
だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。
煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。
レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生
両片思いBL
《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作
※商業化予定なし(出版権は作者に帰属)
この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
【短編】初対面の推しになぜか好意を向けられています
大河
BL
夜間学校に通いながらコンビニバイトをしている黒澤悠人には、楽しみにしていることがある。それは、たまにバイト先のコンビニに買い物に来る人気アイドル俳優・天野玲央を密かに眺めることだった。
冴えない夜間学生と人気アイドル俳優。住む世界の違う二人の恋愛模様を描いた全8話の短編小説です。箸休めにどうぞ。
※「BLove」さんの第1回BLove小説・漫画コンテストに応募中の作品です
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果
はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる