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21 愛する人はあなただけ
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夢を見ていた。
アスラン様がいる。
100年以上前の幸せだった時の夢だ。
「フェリシティ!」
びしょ濡れになった私を助けに来てくれた。
いつも、泣いている私を探し出してくれるのは、優しいアスラン様だけだった。
「また王太子にやられたのか? おいで、服を着替えよう。そのままだと風邪をひくよ」
「でも、着替えがないの」
「洗濯室に何かあるはずだ。ほら」
アスラン様は私の手を取る。こんなところをカルミラに見られたら怒られるのに。
でも、彼の温かい手を放すことができなかった。
この冷たい王宮で、私にぬくもりをくれるのはアスラン様だけだから。
「誰も止めないのか?」
「だって、お兄様の言ってることは全部正しいもの」
噴水の中に突き飛ばされた。
でも、それは私が悪い子だから仕方ないの。
「私は私生児だから。私は悪い子なの。生きているだけで、王妃様を苦しめているから。私は罰を受けないといけないの」
いつもみんなに言われていることを告げたら、アスラン様は紺碧の瞳を悲しそうに曇らせた。
「フェリシティは悪い子なんかじゃない。責められるべきは陛下の不貞だ」
「ふていって何?」
「配偶者のある者が配偶者以外と性的関係を結ぶことだよ」
「はいぐう……? せいてき……? すごいね。アスラン様は難しい言葉をいっぱい知ってるね」
私たちは手をつないだまま、庭をぽとぽと歩いた。
柔らかな日差しの中で、つないだアスラン様の手は少し汗ばんでいる。
「私ね、まだ本を上手く読めないの。先生はね、妹の方がもっと上手に読めるって叱るの」
「カルミラが上手だって? はっ、まさか。初等教科書すらも暗唱できないんだぞ。発音もめちゃくちゃだ。あんな愚か者が婚約者だなんて僕は恥ずかしいよ」
妹のカルミラとアスラン様はあまり仲が良くない。「顔の良い騎士を侍らす恥知らずだ」って、アスラン様はカルミラを嫌っているの。確かに、カルミラは若くてかっこいい騎士が大好きみたい。いつも大勢の綺麗な顔の護衛騎士を連れ歩いている。
カルミラの方もアスラン様のことを「本ばかり読んでいる嫌味な引きこもり」って悪く言うの。
アスラン様は、お茶会には参加しないで、いつも図書室にいる。でも、とっても頭が良くて、いろんな難しいことを知ってる。それにとっても優しい。
王宮の人はみんな意地悪だけど、アスラン様だけは私とお話してくれる。
「フェリシティは精霊経典を全て覚えたんだろう? 才能あるよ。それに努力家だ。あーあ、僕の婚約者が君だったらよかったのに」
私もアスラン様が婚約者だったら嬉しい。でも、私は罪の子だから。贖罪のために、精霊王様に一生お仕えする聖女にならないといけないの。
昔は聖女がいっぱいいて、結婚もできたみたいだけど。今は、神聖力を持った人がほとんど生まれなくなってしまったから、私は聖女になったら、一生を教会で過ごすんだって。
だから私は、アスラン様の婚約者にはなれない。
教会で、朝早くから雑巾がけするのと、夜中まで食器磨きするのは大変だけど、でも、私の罪が許されるにはそうするしかないんだって。
「さっきも言ったけど、君には罪なんてないよ。陛下が侍女に不埒な行為をしたせいなんだ。だから、罪を償うべきは君じゃなくて陛下の方だ。それなのに、教会に入れられるなんて」
アスラン様は、私の手をぎゅっと強く握った。
アスラン様の言ってる言葉は難しくてよく分からない。
でも、私のお母様は泥棒なんだって。王妃様からお父様を盗んだ罪人。だから、王妃様がお母様を処刑したのは、正しい行いだって。本当は私も一緒に死なないといけないってみんな言うの。でも、お父様は生まれたばかりの私を助けてくれたわ。だから、お父様に恩返しをしなきゃいけないの。りっぱな聖女になって、この国のために尽くすように言われてるの。
「私は、精霊教会にいられて幸せよ。だって、神聖力を捧げるのって、すごく簡単だもの。だから、他のみんなの分も、全部私が捧げてるの。人の役に立てるのって、すごくうれしいの」
掃除も、食器磨きも叱られてばかりだけど、神聖力だけはたくさんあるから、それだけは褒められるの。私にもできることがあってよかった。罪を償って、この国に恩返しするのよ。
「君の神聖力は特に強いからね。もう少ししたら、聖女の任命式があるんだろう? 精霊王様が教会に降りられて、君に聖女の印を捧げる。楽しみだな。精霊王様は太陽のような金色の目をしているそうだね。きっと君みたいに綺麗な心の持ち主は、精霊王様に気に入られて、最強の聖女になるよ」
傾き始めた太陽がアスラン様と私の影を伸ばす。
青銀の髪が輝くアスラン様は、地面に長い影を作っている。私の影は、細くて小さい。
私はすごく痩せていて、びしょ濡れのワンピースからは、あばら骨が透けて見える。13歳になるのに、カルミラとは違って、まだ女の子の体になってない。
私は足を延ばして、アスラン様の影を踏むように歩いた。
アスラン様がいる。
100年以上前の幸せだった時の夢だ。
「フェリシティ!」
びしょ濡れになった私を助けに来てくれた。
いつも、泣いている私を探し出してくれるのは、優しいアスラン様だけだった。
「また王太子にやられたのか? おいで、服を着替えよう。そのままだと風邪をひくよ」
「でも、着替えがないの」
「洗濯室に何かあるはずだ。ほら」
アスラン様は私の手を取る。こんなところをカルミラに見られたら怒られるのに。
でも、彼の温かい手を放すことができなかった。
この冷たい王宮で、私にぬくもりをくれるのはアスラン様だけだから。
「誰も止めないのか?」
「だって、お兄様の言ってることは全部正しいもの」
噴水の中に突き飛ばされた。
でも、それは私が悪い子だから仕方ないの。
「私は私生児だから。私は悪い子なの。生きているだけで、王妃様を苦しめているから。私は罰を受けないといけないの」
いつもみんなに言われていることを告げたら、アスラン様は紺碧の瞳を悲しそうに曇らせた。
「フェリシティは悪い子なんかじゃない。責められるべきは陛下の不貞だ」
「ふていって何?」
「配偶者のある者が配偶者以外と性的関係を結ぶことだよ」
「はいぐう……? せいてき……? すごいね。アスラン様は難しい言葉をいっぱい知ってるね」
私たちは手をつないだまま、庭をぽとぽと歩いた。
柔らかな日差しの中で、つないだアスラン様の手は少し汗ばんでいる。
「私ね、まだ本を上手く読めないの。先生はね、妹の方がもっと上手に読めるって叱るの」
「カルミラが上手だって? はっ、まさか。初等教科書すらも暗唱できないんだぞ。発音もめちゃくちゃだ。あんな愚か者が婚約者だなんて僕は恥ずかしいよ」
妹のカルミラとアスラン様はあまり仲が良くない。「顔の良い騎士を侍らす恥知らずだ」って、アスラン様はカルミラを嫌っているの。確かに、カルミラは若くてかっこいい騎士が大好きみたい。いつも大勢の綺麗な顔の護衛騎士を連れ歩いている。
カルミラの方もアスラン様のことを「本ばかり読んでいる嫌味な引きこもり」って悪く言うの。
アスラン様は、お茶会には参加しないで、いつも図書室にいる。でも、とっても頭が良くて、いろんな難しいことを知ってる。それにとっても優しい。
王宮の人はみんな意地悪だけど、アスラン様だけは私とお話してくれる。
「フェリシティは精霊経典を全て覚えたんだろう? 才能あるよ。それに努力家だ。あーあ、僕の婚約者が君だったらよかったのに」
私もアスラン様が婚約者だったら嬉しい。でも、私は罪の子だから。贖罪のために、精霊王様に一生お仕えする聖女にならないといけないの。
昔は聖女がいっぱいいて、結婚もできたみたいだけど。今は、神聖力を持った人がほとんど生まれなくなってしまったから、私は聖女になったら、一生を教会で過ごすんだって。
だから私は、アスラン様の婚約者にはなれない。
教会で、朝早くから雑巾がけするのと、夜中まで食器磨きするのは大変だけど、でも、私の罪が許されるにはそうするしかないんだって。
「さっきも言ったけど、君には罪なんてないよ。陛下が侍女に不埒な行為をしたせいなんだ。だから、罪を償うべきは君じゃなくて陛下の方だ。それなのに、教会に入れられるなんて」
アスラン様は、私の手をぎゅっと強く握った。
アスラン様の言ってる言葉は難しくてよく分からない。
でも、私のお母様は泥棒なんだって。王妃様からお父様を盗んだ罪人。だから、王妃様がお母様を処刑したのは、正しい行いだって。本当は私も一緒に死なないといけないってみんな言うの。でも、お父様は生まれたばかりの私を助けてくれたわ。だから、お父様に恩返しをしなきゃいけないの。りっぱな聖女になって、この国のために尽くすように言われてるの。
「私は、精霊教会にいられて幸せよ。だって、神聖力を捧げるのって、すごく簡単だもの。だから、他のみんなの分も、全部私が捧げてるの。人の役に立てるのって、すごくうれしいの」
掃除も、食器磨きも叱られてばかりだけど、神聖力だけはたくさんあるから、それだけは褒められるの。私にもできることがあってよかった。罪を償って、この国に恩返しするのよ。
「君の神聖力は特に強いからね。もう少ししたら、聖女の任命式があるんだろう? 精霊王様が教会に降りられて、君に聖女の印を捧げる。楽しみだな。精霊王様は太陽のような金色の目をしているそうだね。きっと君みたいに綺麗な心の持ち主は、精霊王様に気に入られて、最強の聖女になるよ」
傾き始めた太陽がアスラン様と私の影を伸ばす。
青銀の髪が輝くアスラン様は、地面に長い影を作っている。私の影は、細くて小さい。
私はすごく痩せていて、びしょ濡れのワンピースからは、あばら骨が透けて見える。13歳になるのに、カルミラとは違って、まだ女の子の体になってない。
私は足を延ばして、アスラン様の影を踏むように歩いた。
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