【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜

白崎りか

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36 黒いドレス

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 卵を両手で抱きしめて、神聖力を注ぐ。金色に光る卵は、ほんのりと温かい。
 初めて見た時は、手のひらにのるぐらい小さかったのに、毎日神聖力を込めていると、それはどんどん大きくなって、今では私と同じぐらいだ。

「たまごちゃん。どうしてここに? あの冷血宰相が探してるんじゃない?」

 きっと精霊界は大騒ぎになっているだろう。もしかして、誰かここに探しに来る? でも、精霊宰相の命令で、エヴァン王国に精霊は立ち入り禁止になっている。その決まりを破れば、二度と精霊界には戻れないって。

「たまごちゃんも、もう精霊界に戻れないってこと?」

 いや、まさか。決まりは精霊宰相が勝手に作ったものだしね。

「どうしたらいいの? ああ、もう。いいわ。早く誕生しなさいよ。神聖力をたくさんあげるから。早く生まれて、こんな国から出て行った方がいいわよ。こんな、ろくでもない民しかいない国とのつながりを断ち切った方が、精霊は幸せになれるのよ」

 100年間やっていたように、私は独り言を言いながら卵をなでる。

「ほんっと、ひどい国なのよ。私、どうしてこんな国のために今までがんばってたんだろう。全部、建国女王のせいなんだけどね。建国女王の呪いよ。神聖力が増える代わりに、国民を愛するように洗脳されるの。本当に嫌な国!」

 温かくてすべすべしている卵は、ぽうっと金色に光る。

「もうね、この国から出て行きたいの。でも、わたし、ここと精霊界しか知らないでしょう? 帝国語は習ったんだけど、一人で生きて行けるか不安で。どうしたらいいと思う?」

 ジンは私に一緒に行こうと言ってくれた。でも、彼は、信用できない。私に隠し事をしている。それに、帝国は女性にとってあまり良い国じゃない。

「私には神聖力があるでしょう? この世界には神聖教国っていう聖女のいる国もあるんだって。だから、そこに行けばなんとか暮らしていけるかな? だってね、その国の聖女って小さな治癒石を作るのに、一年もかかるんだって。それに、その石の力は病気しか治せないって。それと比べたら、私って最強じゃない?」

 そう。こんな国なんて、もう私には必要ない。外に行こう。
 そう思って、ルリに転移をしてもらおうとしたけど、精霊の結界が私をこの国から逃がさなかった。

 きっと、建国女王の炎が関係しているのだろう。
 私はこの国の王女だから、彼女が逃がしてくれないのだ。
 私にはまだ建国女王の呪いがかかっている。炎の儀式を行った、たった一人の王族を、彼女は逃がすつもりはないのだ。ここから出て行くには、王女をやめるしかない。


「王女様! 大変です!」

 どんどんと扉がたたかれた。
 マリリンがお使いから帰って来た。
 たまごちゃんをどこに隠そう?
 とりあえず、ベッドからシーツを引っ張ってきて、精霊王の卵の上にかけた。

「王妃様がいらっしゃってます!」

 大声を出して、マリリンは扉をたたく。
 ああ、また嫌な人たちに会わないといけないの?
 今度は何?
 離宮から追い出して、こんな汚い使用人部屋を与えておいて、それでも気が済まないの?
 私は、あなたたちに何かした?

 うんざりしながら、扉を開けた。

「何か用ですか?」

 王妃は赤茶色の瞳で私をじろりと見て、そして笑った。
 悪いことをたくらんでいるような笑顔だ。

「来月、パーティを開くわ。帝国の皇弟陛下がいらっしゃるのよ。盛大なパーティだから、あなたも出席してね」

 にたりと口角を上げている。でも、赤茶の瞳は全然笑ってない。私に対する憎悪にあふれている。

 何をたくらんでいるの?
 帝国の皇弟陛下ね。王妃の叔父にあたるのかしら?

「ドレスがないでしょう? ほら、持ってきてあげたわよ」

 気持ち悪い作り笑顔を浮かべて、メイドに運ばせたドレスの入った箱を置いて行った。

「わぁ! どんなドレスだろう? 部屋に入れて確認しましょうよ」

 王妃たちが帰った後、マリリンが張り切って箱を運んでくれる。
 扉を開けて、悲鳴を上げた。

「えええ?! なに? この豪華な家具! どこから運んだんですか? ええ? 掃除もできてる! なんで?」

「ちょっと、やかましい。静かにして」

 大騒ぎのマリリンをたしなめた後、さっきまで部屋で光っていた金色の卵がなくなっていたことに気が付いた。

 え? どこにいったの?
 白いシーツだけが床に落ちている。

 たまごちゃん、精霊界に帰ったのかな?

「ええーっ?! このドレス、真っ黒だ!」

 王妃の持ってきたドレスを広げて、またマリリンは大騒ぎした。

「これには、この前ジンさんがくれた黒ダイヤのペンダントが似合いますよね。うん、王女様は何色でも似合う!」

 真っ黒のドレス。帝国の皇弟。
 いやな予感を抱きながら、はしゃいでいるマリリンを眺めた。
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