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中央貴族チェスカールとの対談
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そして次の日。俺はフィンたちを集めて話をしていた。内容はダグドから聞いた話の共有だ。
「二本の剣に大鷲を模った刺青をした暗殺者集団ねぇ……」
「そいつらがフィンを探していると?」
「ふぉっふぉ。そりゃ是非見てみたいのぉ」
ダグドの話の中で、皆が食いついたのはやはり暗殺者たちの話だった。じいさんは見た瞬間、刀を抜くだろうな……。
「そっかー、あの時どこかに見届け人がいたのかー。全然気づかなかったよー」
「フィンの魔法も見られただろうが、まぁ超高速移動技法の一種だと思われているかな」
「僕たちの力を見たところで、それを魔法だと考えられる者はいないでしょうからね」
しかし用心に越したことはない。魔法は使うにしても、そうだと気づかれない様にしなければ。
「暗殺者たちはどうするのだ?」
「放置しかないだろ。これだけの大都市だ、まず鉢合うことはない。でも貴族街は張られている可能性があるからな。フィン、しばらくそっちには行かなくていい」
「はーい」
ここは大陸最大の都市、そしてその人口は数十万にものぼる。街中を出歩くくらいならまず遭遇することはない。
だが組織の情報網を使って、探ってはくるだろう。暗殺者たちもフィンの事は、どこかの組織に所属する者か、貴族が秘密裏に雇った護衛かと考えているだろうしな。
「それで? 暗殺者の方はそれで良いとして、今日来るっていう貴族はどうするんだ?」
「要件は分かっている。こっちはダグドと俺で相手するよ」
この時代に来て初めてとなる貴族との対面だ。水迅断でも直接やり取りしていたのはヒアデスであり、ダグドもその人となりは知らないとの事だった。
「奴隷は断るんだろうが、大丈夫なのか? 一応貴族なんだろ?」
「だからこそだな。ここで黒狼会の方針は強く表明しておく。まぁチェスカールとかいう貴族も、違法奴隷を譲ってもらえなかった、許さん! て大騒ぎすることはないだろ」
そんなことで騒いでは、不利になるのは自分自身だ。貴族でありながら法を犯したことを宣伝する様なものだからな。
「フィンには別件を頼みたい。雷弓真とかいう組織を探って欲しいんだ」
「りょうかーい。今度会う奴らだね」
「ああ。だが深追いはしなくていい。例の暗殺者組織が裏組織辺りを探っている可能性もあるからな」
フィンは俺たちの中でも殺気の類には敏感だし、いざという時には姿を隠す能力も優れている。問題はないかと思うが、相手は遅効性の毒を用意している程度には狂った奴らだからな。
「俺もついて行ってやろうか?」
「えー、1人の方が動きやすいから、アックスは別にいいよー。ていうか邪魔だしー」
「く……人が気を使ってやっているってのに……」
かつて群狼武風にもあった、諜報活動を中心にした部署が欲しいところだな。
現状、情報収集はフィンとダグド頼みになりがちだ。まぁこれからの課題の一つとして意識しておこう。
■
そしてその日の夜。チェスカールはそこそこ綺麗な馬車でやってきた。出迎えるのは俺とダグドだ。
しかし貴族街に屋敷を持つ貴族が、夜にこそこそと俺たちみたいな組織を訪ねるとはね……。
チェスカールは、貴族らしく高そうな服を身にまとった年上の貴族だった。俺たちが戦っていた時代の貴族よりも立派な服だ。
時代が進んだにつれて服飾技術も上がったんだろうが、戦乱がない事もあり、金が戦争よりもこういう部分にいきやすいのだろうか。
「初めまして、チェスカール様。私がダグドでございます。そしてこちらが……」
「黒狼会の代表、ヴェルトです。今日はご足労いただきまして、ありがとうございます」
「ほう……お前がヴェルトか。普段は甲冑を身に纏い、なかなか顔を見せない男だと聞いたが……」
「はは。流石にチェスカール様と会うのに、甲冑を着こむ訳にはいきませんからね」
俺たちは場所を応接室へと移す。給仕が茶を運び終わったところで、チェスカールは口を開いた。
「ヴェルト。お前はどこから来たのだ? 帝都に来て短期間で水迅断をごっそり乗っ取ったのだ。どこか他の国でこうした組織を築いていたが、競争に負けて帝都で再起を図るために旗揚げでもしたか?」
「さて……。私の様な者の素性など、チェスカール様が覚える必要もないでしょう」
「ふん。若いのに胆が座っておる。私以外の貴族とも話してきた経験があるな?」
まずは俺の素性を探ってきたか。だが裏組織のボスの素性などそれとなくはぐらかしておけば、後は向こうが勝手に想像するだろう。
俺から何か情報を足す意味はないので黙っておく。ダグドはどこか緊張した表情で俺たちのやり取りを見守っていた。
「さて。私がわざわざここまで来てやった要件は聞いていると思うが。元々ヒアデスと話していた奴隷について、今日は話し合いたい」
「その件ですか……。ヒアデスの部下であったダグドからも話は聞いています。何でもフェルグレット聖王国民の奴隷をチェスカール様が買い取る予定だったとか」
「その通りだ。ヒアデスは死に、水迅断は黒狼会へと変わったが。お前が奴隷を渡すのであれば、引き続き黒狼会とは関係を続けてやってもいい」
ダグドにも確認はしたが、水迅断にとってチェスカールは、客以外の何者でもない。個人的に金を出してもらっている訳でもないとのことだった。
だが貴族というのは、そういう付き合いがあるというだけでも価値が発生する。ヒアデスはチェスカールを通じて、貴族界隈にさらに客を増やそうとしていたらしい。
また領地を持たない貴族は、基本的に私兵の類を多くは抱えていない。間接的な自身の武力として、俺たちの様な組織を活用するケースもあるとのことだった。
(つまり俺……というか黒狼会にとっては、あまりメリットがない奴らだ)
積極的に貴族界隈に知り合いを増やすつもりはないし、金だけ出してくれるのならともかく、向こうも付き合う上でのメリットを要求してくる。
得られる利益に対し、面倒の方が割合が大きい。こうして直接対面してみても、やはり結論は変わらないな。
「チェスカール様。黒狼会はれっきとした商業団体でございます」
「……なに?」
「いわゆる暴力組織と呼ばれる様な、怪しい集団ではございません。この帝都において、真っ当に商売をさせてもらっています。そして禁制品を扱う様なこともいたしておりません」
チェスカールの表情が変わっていく。もちろん良い意味ではない。
「貴様……。だが奴隷商売は水迅断から引き継いで続けておるだろう。それに水迅断を乗っ取る時に、死人も出しておる。それが真っ当な組織ぶるつもりか?」
「奴隷商売自体は違法ではありますまい。黒狼会はあくまで法の定める範囲内で商いをしています。それに死人が出たとは物騒な。私はあくまで平和的な話し合いの上でこうして水迅断を併合したまで。死んだ者もいる様ですが、自殺でもしたのでしょう。組織に属する者が謎の死を遂げるのは、帝都ではよくある事でしょう?」
我ながら何という暴論だ。だがここで重要なのは、論理性や話の整合性ではない。チェスカールに対し、はっきりと否の姿勢を見せることだ。
そしてチェスカールは、そんな俺の考えを理解している。
「奴隷を私に渡すつもりはないのだな?」
「真っ当な奴隷でしたらお売りいたしますよ」
「……平民如きがこの私に恥をかかせる意味。理解できているのか?」
「黒狼会がチェスカール様に何か恥をかかせたことがございましたか? 我々とはまだ一度も取引をした事がないのですが」
大方、他の貴族にフェルグレット聖王国民の奴隷を見せてやる的な話をしていたのだろう。
しかし水迅断がなくなったことで、チェスカールは奴隷のお披露目会ができなくなった。
「ヴェルト。私がその気になれば、黒狼会を潰すことなど容易いのだぞ?」
「これはまた分かりやすいですね。ですが何と言われようと、黒狼会は法を犯すことはいたしません。そして法を守っているのは、貴族であるチェスカール様も同様なのでは?」
「貴様……! ごろつきの頭如きが、帝国貴族である私に法を語るか……!」
チェスカールは顔を真っ赤にしながら立ち上がる。そして俺を強く睨みつけていた。
「中央貴族たる私を怒らせたこと、後悔させてやるぞ……!」
チェスカールはその後も口だけの脅し文句を並べ、貴族街へと帰って行った。後に残ったダグドは顔中に汗をかいている。
「ヴェルト様。良かったのですか……?」
「何度も言わせるな。チェスカールはあれで良い。第一、お前が面倒な事をしていなければだな……」
「す、すみません……!」
それに予想していた通り、チェスカール自身は大した貴族ではないだろう。従者の一人も連れていなかったし、貴族という身分以外に自身を定義づける何かを持っている様子もなかった。
きっと生まれながらの身分だけが、心と自信の拠り所なのだろう。
「ところであいつが言っていた中央貴族ってのはなんだ?」
「貴族街に住居を持ち、帝都で働く貴族のことです。帝国は広大な地を納めていますからね。呼び方を変えることで、地方領主や併合した国の元王都に住む貴族たちと差別化が行われているのですよ」
なるほど。領地を持たない貴族は多いが、その中でも帝都で働いている者たちは、自分たちを中央の貴族だと位置付けているっていうだけの話か。
「で、うるさくまくしたてていったあいつに何かできると思うか?」
「分かりません……。ですが他に大きな権力を持つ貴族が背後に控えていれば、厄介なことにはなると思いますが……」
「まぁ小者は小者同士で集まるだろ。そんな奴はいないと願おう」
それに大物が控えていたとしても、やっぱり俺の結論は変わらない。
その大物が直接俺たちの後ろ盾になり、金を回してくれるのならまだ検討の余地はあるのだが。
とにかくそこまでされなくては、こちらからわざわざリスクを取るつもりはない。
「例の奴隷はいつ帝都に到着する?」
「はっきりとした時期までは。もう少しだとは思うのですが」
「……何人か迎えに寄越せ。あと決して帝都に入れるな。帝都近郊の農村にかくまえ」
「は、はい」
いずれ奴隷が帝都に来ることは、チェスカールも承知しているはずだ。運ばれている途中を狙われたらたまらない。
それにいつ入荷するか、屋敷回りを探られる可能性もある。
「さて……。次の予定はいつだったかな」
「四日後の雷弓真との会合です。その二日後には商人との席を設けています」
「有益そうなのは商人の方だけだな……」
しかしダグドの顔を見ると、最近は疲れも溜まっている様に見える。黒狼会の運営に加え、俺のスケジュール調整など秘書みたいなこともしているからな。
誰か別に秘書を用意した方がいいかもしれない。
「二本の剣に大鷲を模った刺青をした暗殺者集団ねぇ……」
「そいつらがフィンを探していると?」
「ふぉっふぉ。そりゃ是非見てみたいのぉ」
ダグドの話の中で、皆が食いついたのはやはり暗殺者たちの話だった。じいさんは見た瞬間、刀を抜くだろうな……。
「そっかー、あの時どこかに見届け人がいたのかー。全然気づかなかったよー」
「フィンの魔法も見られただろうが、まぁ超高速移動技法の一種だと思われているかな」
「僕たちの力を見たところで、それを魔法だと考えられる者はいないでしょうからね」
しかし用心に越したことはない。魔法は使うにしても、そうだと気づかれない様にしなければ。
「暗殺者たちはどうするのだ?」
「放置しかないだろ。これだけの大都市だ、まず鉢合うことはない。でも貴族街は張られている可能性があるからな。フィン、しばらくそっちには行かなくていい」
「はーい」
ここは大陸最大の都市、そしてその人口は数十万にものぼる。街中を出歩くくらいならまず遭遇することはない。
だが組織の情報網を使って、探ってはくるだろう。暗殺者たちもフィンの事は、どこかの組織に所属する者か、貴族が秘密裏に雇った護衛かと考えているだろうしな。
「それで? 暗殺者の方はそれで良いとして、今日来るっていう貴族はどうするんだ?」
「要件は分かっている。こっちはダグドと俺で相手するよ」
この時代に来て初めてとなる貴族との対面だ。水迅断でも直接やり取りしていたのはヒアデスであり、ダグドもその人となりは知らないとの事だった。
「奴隷は断るんだろうが、大丈夫なのか? 一応貴族なんだろ?」
「だからこそだな。ここで黒狼会の方針は強く表明しておく。まぁチェスカールとかいう貴族も、違法奴隷を譲ってもらえなかった、許さん! て大騒ぎすることはないだろ」
そんなことで騒いでは、不利になるのは自分自身だ。貴族でありながら法を犯したことを宣伝する様なものだからな。
「フィンには別件を頼みたい。雷弓真とかいう組織を探って欲しいんだ」
「りょうかーい。今度会う奴らだね」
「ああ。だが深追いはしなくていい。例の暗殺者組織が裏組織辺りを探っている可能性もあるからな」
フィンは俺たちの中でも殺気の類には敏感だし、いざという時には姿を隠す能力も優れている。問題はないかと思うが、相手は遅効性の毒を用意している程度には狂った奴らだからな。
「俺もついて行ってやろうか?」
「えー、1人の方が動きやすいから、アックスは別にいいよー。ていうか邪魔だしー」
「く……人が気を使ってやっているってのに……」
かつて群狼武風にもあった、諜報活動を中心にした部署が欲しいところだな。
現状、情報収集はフィンとダグド頼みになりがちだ。まぁこれからの課題の一つとして意識しておこう。
■
そしてその日の夜。チェスカールはそこそこ綺麗な馬車でやってきた。出迎えるのは俺とダグドだ。
しかし貴族街に屋敷を持つ貴族が、夜にこそこそと俺たちみたいな組織を訪ねるとはね……。
チェスカールは、貴族らしく高そうな服を身にまとった年上の貴族だった。俺たちが戦っていた時代の貴族よりも立派な服だ。
時代が進んだにつれて服飾技術も上がったんだろうが、戦乱がない事もあり、金が戦争よりもこういう部分にいきやすいのだろうか。
「初めまして、チェスカール様。私がダグドでございます。そしてこちらが……」
「黒狼会の代表、ヴェルトです。今日はご足労いただきまして、ありがとうございます」
「ほう……お前がヴェルトか。普段は甲冑を身に纏い、なかなか顔を見せない男だと聞いたが……」
「はは。流石にチェスカール様と会うのに、甲冑を着こむ訳にはいきませんからね」
俺たちは場所を応接室へと移す。給仕が茶を運び終わったところで、チェスカールは口を開いた。
「ヴェルト。お前はどこから来たのだ? 帝都に来て短期間で水迅断をごっそり乗っ取ったのだ。どこか他の国でこうした組織を築いていたが、競争に負けて帝都で再起を図るために旗揚げでもしたか?」
「さて……。私の様な者の素性など、チェスカール様が覚える必要もないでしょう」
「ふん。若いのに胆が座っておる。私以外の貴族とも話してきた経験があるな?」
まずは俺の素性を探ってきたか。だが裏組織のボスの素性などそれとなくはぐらかしておけば、後は向こうが勝手に想像するだろう。
俺から何か情報を足す意味はないので黙っておく。ダグドはどこか緊張した表情で俺たちのやり取りを見守っていた。
「さて。私がわざわざここまで来てやった要件は聞いていると思うが。元々ヒアデスと話していた奴隷について、今日は話し合いたい」
「その件ですか……。ヒアデスの部下であったダグドからも話は聞いています。何でもフェルグレット聖王国民の奴隷をチェスカール様が買い取る予定だったとか」
「その通りだ。ヒアデスは死に、水迅断は黒狼会へと変わったが。お前が奴隷を渡すのであれば、引き続き黒狼会とは関係を続けてやってもいい」
ダグドにも確認はしたが、水迅断にとってチェスカールは、客以外の何者でもない。個人的に金を出してもらっている訳でもないとのことだった。
だが貴族というのは、そういう付き合いがあるというだけでも価値が発生する。ヒアデスはチェスカールを通じて、貴族界隈にさらに客を増やそうとしていたらしい。
また領地を持たない貴族は、基本的に私兵の類を多くは抱えていない。間接的な自身の武力として、俺たちの様な組織を活用するケースもあるとのことだった。
(つまり俺……というか黒狼会にとっては、あまりメリットがない奴らだ)
積極的に貴族界隈に知り合いを増やすつもりはないし、金だけ出してくれるのならともかく、向こうも付き合う上でのメリットを要求してくる。
得られる利益に対し、面倒の方が割合が大きい。こうして直接対面してみても、やはり結論は変わらないな。
「チェスカール様。黒狼会はれっきとした商業団体でございます」
「……なに?」
「いわゆる暴力組織と呼ばれる様な、怪しい集団ではございません。この帝都において、真っ当に商売をさせてもらっています。そして禁制品を扱う様なこともいたしておりません」
チェスカールの表情が変わっていく。もちろん良い意味ではない。
「貴様……。だが奴隷商売は水迅断から引き継いで続けておるだろう。それに水迅断を乗っ取る時に、死人も出しておる。それが真っ当な組織ぶるつもりか?」
「奴隷商売自体は違法ではありますまい。黒狼会はあくまで法の定める範囲内で商いをしています。それに死人が出たとは物騒な。私はあくまで平和的な話し合いの上でこうして水迅断を併合したまで。死んだ者もいる様ですが、自殺でもしたのでしょう。組織に属する者が謎の死を遂げるのは、帝都ではよくある事でしょう?」
我ながら何という暴論だ。だがここで重要なのは、論理性や話の整合性ではない。チェスカールに対し、はっきりと否の姿勢を見せることだ。
そしてチェスカールは、そんな俺の考えを理解している。
「奴隷を私に渡すつもりはないのだな?」
「真っ当な奴隷でしたらお売りいたしますよ」
「……平民如きがこの私に恥をかかせる意味。理解できているのか?」
「黒狼会がチェスカール様に何か恥をかかせたことがございましたか? 我々とはまだ一度も取引をした事がないのですが」
大方、他の貴族にフェルグレット聖王国民の奴隷を見せてやる的な話をしていたのだろう。
しかし水迅断がなくなったことで、チェスカールは奴隷のお披露目会ができなくなった。
「ヴェルト。私がその気になれば、黒狼会を潰すことなど容易いのだぞ?」
「これはまた分かりやすいですね。ですが何と言われようと、黒狼会は法を犯すことはいたしません。そして法を守っているのは、貴族であるチェスカール様も同様なのでは?」
「貴様……! ごろつきの頭如きが、帝国貴族である私に法を語るか……!」
チェスカールは顔を真っ赤にしながら立ち上がる。そして俺を強く睨みつけていた。
「中央貴族たる私を怒らせたこと、後悔させてやるぞ……!」
チェスカールはその後も口だけの脅し文句を並べ、貴族街へと帰って行った。後に残ったダグドは顔中に汗をかいている。
「ヴェルト様。良かったのですか……?」
「何度も言わせるな。チェスカールはあれで良い。第一、お前が面倒な事をしていなければだな……」
「す、すみません……!」
それに予想していた通り、チェスカール自身は大した貴族ではないだろう。従者の一人も連れていなかったし、貴族という身分以外に自身を定義づける何かを持っている様子もなかった。
きっと生まれながらの身分だけが、心と自信の拠り所なのだろう。
「ところであいつが言っていた中央貴族ってのはなんだ?」
「貴族街に住居を持ち、帝都で働く貴族のことです。帝国は広大な地を納めていますからね。呼び方を変えることで、地方領主や併合した国の元王都に住む貴族たちと差別化が行われているのですよ」
なるほど。領地を持たない貴族は多いが、その中でも帝都で働いている者たちは、自分たちを中央の貴族だと位置付けているっていうだけの話か。
「で、うるさくまくしたてていったあいつに何かできると思うか?」
「分かりません……。ですが他に大きな権力を持つ貴族が背後に控えていれば、厄介なことにはなると思いますが……」
「まぁ小者は小者同士で集まるだろ。そんな奴はいないと願おう」
それに大物が控えていたとしても、やっぱり俺の結論は変わらない。
その大物が直接俺たちの後ろ盾になり、金を回してくれるのならまだ検討の余地はあるのだが。
とにかくそこまでされなくては、こちらからわざわざリスクを取るつもりはない。
「例の奴隷はいつ帝都に到着する?」
「はっきりとした時期までは。もう少しだとは思うのですが」
「……何人か迎えに寄越せ。あと決して帝都に入れるな。帝都近郊の農村にかくまえ」
「は、はい」
いずれ奴隷が帝都に来ることは、チェスカールも承知しているはずだ。運ばれている途中を狙われたらたまらない。
それにいつ入荷するか、屋敷回りを探られる可能性もある。
「さて……。次の予定はいつだったかな」
「四日後の雷弓真との会合です。その二日後には商人との席を設けています」
「有益そうなのは商人の方だけだな……」
しかしダグドの顔を見ると、最近は疲れも溜まっている様に見える。黒狼会の運営に加え、俺のスケジュール調整など秘書みたいなこともしているからな。
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