黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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騎士団と皇女

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 チェスカールは昨日のヴェルトとの会話を思い出しながら、城に務めていた。

(ごろつき風情が……! この私に逆らったこと、後悔させてやるぞ……!)

 ああいった組織は、貴族と仲良くしているところもあれば、怒らせたことが原因で帝都を追われる者もいる。

 そして違法の証拠を掴めば、騎士団が直接乗り込むケースもあるのだ。チェスカールもこの伝手を辿って黒狼会を潰す画策を立てていた。

「チェスカールです」

「ああ。入ってくれ」

 チェスカールは王城の中にある一室へと足を踏み入れる。あらかじめある貴族にアポを取っていたのだ。

 現在の城は皇帝の住まう所というより、貴族たちの勤務先としての機能が主だ。皇族は皇族で、皇宮に住んでいる。

「ディナルド様、お久しぶりでございます。……おや。正剣騎士団の団長殿もご一緒でしたか」

「……お邪魔でしたら席を離しますが」

「構わん。チェスカール、問題ないな?」

「はい。むしろ騎士の方々にも聞いていただきたいのです」

 ディナルド・アドルナーはチェスカールの話に耳を傾ける。内容は帝都に巣くう裏組織についてだった。

 チェスカールは黒狼会という組織が最近台頭してきたこと、そしてこの組織が問題のあるごろつきの集団である事を訴える。

「ほう……違法奴隷か……」

「はい。奴らは禁止されているフェルグレット聖王国民の奴隷を扱っております。至急、騎士団による立ち入り調査が必要かと」

 フェルグレット聖王国民の奴隷は惜しい。だがヴェルトから与えられた屈辱はそれに勝る。

 チェスカールは騎士団を動かす権限を持つディナルドに黒狼会のことを訴え、間接的に潰そうと考えていた。

「……分かった。こちらでも調査をしておく。要件が終わったのならもう下がっていい」

「……は? いえ、今から騎士団を動かされては……」

「騎士団を動かすという事は、皇帝陛下の兵を動かすという事だ。軽はずみなことに使える訳がないだろう」

 ディナルドはややため息を吐きながら答える。だがチェスカールは納得がいかなかった。

「しかし……! 黒狼会は恐れ多くも皇帝陛下の治めるこの帝都で、法に抵触しているのですよ!」

 チェスカールは自分が騎士団を動かすと言うまで下がる気がない。そう悟ったディナルドは、鋭い目つきでチェスカールに視線を移した。

「チェスカール。どこでそのフェルグレット聖王国民の話を聞いた?」

「私は市井にも付き合いのある商人たちがおります。彼らから聞いたのですよ」

「つまり伝聞であり、証拠は持っていないのだろう?」

「い、いえ……! 確かに証拠はないのですが、奴らが奴隷を運んでいるのは確実なのです……!」

「証拠もないのに確実と言われても、それだけで騎士団は動かせん。……そう言えばクインシュバイン。先ほど面白い話をしておったな」

 正剣騎士団という騎士団の団長を務めるクインシュバインは、ゆっくりと頷いた。

「一部の貴族たちの間で、話題に上っている様ですね。近くフェルグレット聖王国民の奴隷のお披露目会をする貴族がいるとか……」

「…………!」

 チェスカールの表情が引きつる。ディナルドとクインシュバインの二人は、チェスカールをジッと見つめていた。

「こちらもあくまで噂であり、まだ本格的な調査に乗り出していなかったのですが。もしかしたらチェスカール殿の言うことも、あながち間違いではないのかもしれませんな。黒狼会から奴隷を買う貴族がいるのかもしれません」

「皇帝陛下の定められた法を破る貴族が、身内にいるとは考えられないが。念のため黒狼会を訪ねた貴族がいないか、確認してみるべきか」

 話が良くない方向に向かっている。このことは流石にチェスカールにも理解できた。脂汗を大量に流しながら、引きつる笑みで口を開く。

「そ、そういえば、確かに人づてに聞いた話であり証拠は何もありませんでしたな。すみません、どうやら私の早とちりだったようです……。きっと黒狼会に恨みを持つ商人の戯言でしょう」

「そうか。ならもういいな?」

「は、はい! お時間を取らせて、申し訳ございませんでした……!」

 これ以上何か突っ込まれる前に、チェスカールは部屋を出る。ここにきてチェスカールは、下手に調査に乗り出されたら困るのは自分だという事を自覚した。

(おのれ……! 一体どこの誰だ、奴隷のことを話したのは……! それにクインシュバインめ……! 併合された国の貴族が、偉そうに……!)




 
 チェスカールの居なくなった部屋で、ディナルドは溜息を吐いていた。

「ふぅ……。たまにああいう奴がいるから、中々この椅子を後任に譲って隠居する気にもなれんのだ」

「はは……。義兄上の苦労も絶えませんね」

 ディナルドとクインシュバインは丁度、この違法奴隷について話していたところだった。

 既にいくらか調べもついている。当然、チェスカールが水迅断を通して、違法奴隷を購入しようとしていた事も調べがついている。

「放っておいてよろしいので?」

「構わん。まだ未遂だし、小心者相手に一々割く労力はない。しかし水迅断に黒狼会か……」

「水迅断は潰しあぐねていた組織の一つですね。黒狼会に先を越されましたが、結果だけを見ると悪い様にはなっていません」

「今はまだ、な」

 ディナルドたちも、帝都にいくつかこうした裏組織が存在している事は承知している。そして恐喝や強盗、詐欺などをしつつも、潰すのが難しいという認識だった。

 そういった組織はだいたい冥狼か影狼の派閥に属している。そして二大組織は帝都の貴族とも繋がりが深い。

 下手に手を出せば、逆に報復を受けかねない。しかも最近では、貴族街に住む貴族が暗殺者に殺されている上に、皇女殿下まで巻き込まれているのだ。

 悔しいが、突っつくにはリスクのある相手だった。

「水迅断も元は悪辣な金儲けをしていた組織です。しかし黒狼会は……」

「真っ当な体裁を取り繕ってはいるな」

 ディナルドはまとめられた資料に目を通す。黒狼会が水迅断を乗っ取った際に、ボスであったヒアデス他幹部の二人は死んでいる。

 そして残った者たちはいくつか商売を閉じ、今は比較的真っ当な商売で金を稼いでいた。また住民からの評判も上々であると資料には記載されている。

「違法奴隷を仕入れていたのは、元水迅断の幹部にして現黒狼会でも幹部のダグドです。しかしダグド自身は、黒狼会のボスから違法奴隷を扱う商売を止められていますね」

「……黒狼会のボスは洗えたか?」

「いいえ。最高幹部の6人は最近帝都に来たようですが。それ以上の事は何も……」

 黒狼会のことは、ディナルドたちの間でも少し話題に上っていた。

 何せぽっと出の者たちが短期間で水迅断を潰し、一気に裏社会で名を高めたのだ。体制側としては一応の確認はする。

「まぁ黒狼会のことは一先ずはどうでもいい。それよりも重要な事があるからな」

「閃刺鉄鷲ですね」

「そうだ。ハイラント家の娘を狙ったばかりか、皇女殿下まで巻き込まれたのだ。騎士団が動かない訳にはいかん」

 帝国を代表する大貴族の娘と、その皇女を暗殺者が襲撃した。この事実は一部の貴族たちの間で話題に上っていた。

 さすがにここまでされて、大人しくしていては騎士団の名折れというもの。ディナルドはまた厄介な仕事が舞い込んできたと眉間にしわを寄せていた。

「おそらく裏で糸を引いたのは、ミドルテア家に連なる者でしょう。原因は先日の会議の内容かと」

「ミドルテア派閥は慎重路線だからな……。意見を全面的に封じにきている、ハイラント派閥に対する脅しが目的か。それにしては短絡的だと思えなくもないが」

「自派閥の者が動いたのを、抑えられなかったのでしょう。しかし相手は閃刺鉄鷲です。彼の組織は……」

「分かっておる。おそらく大陸で最高峰の実力を誇る暗殺者集団だ。こいつらが今も帝都に潜伏していると思うと、腸が煮えくり返る思いだ」

 ごろつきが集って立ち上げた裏組織なんかより、よっぽど厄介な集団だ。しかも帝国内外を含め、多数の組織や貴族とも繋がりがある。

 先日貴族街であと一歩のところまで仕事をこなしたことと言い、今の騎士団では手が余る相手ではあった。

「腕の方は噂通りのものです。だからこそ気になるのですが……」

「例の噂だな。閃刺鉄鷲の仕事を邪魔したという少女の」

「はい。少女の存在自体は間違いありません。皇女殿下も直接見ておりますので。しかしその噂が出回っているという事は……」

「意図して流されたものだろう。それだけ閃刺鉄鷲も、この帝都で人1人を探しだすのは大変だという事だ。しかし伝説の暗殺者集団に、それらを複数相手取った上でそのさらに上をゆく少女か……」

 ディナルドはこの少女に対し、多少の好感を抱いていた。ヴィローラ殿下の話によると、少女はどこかの組織に所属している様な話ぶりだったという。

 閃刺鉄鷲の暗殺者たちを抑え込める技量を持つ謎の少女。だが本人を含めて、どこの組織からも自分たちが皇女殿下たちを守ったのだという話題は上ってこない。

(つまり損得関係なく、純粋に義侠心から暗殺者たちと戦ってくれた可能性もある。それに殿下の話では、少女は偶然通りかかったのだという。それで見事に相手を圧倒した上で助けてみせるのだから、大した者だ)

 今の帝国貴族に、一体どれほどの者がこれだけの勇気と力を持っているだろうか。そう考えると、どことなくディナルドは空しくなった。

「クインシュバイン。引き続き閃刺鉄鷲の捜索を進めろ。だが潜伏場所を見つけても、決して手は出すなよ。どこの誰が雇ったものなのか、その背後関係を暴かねばならん」

「は……」

 しかし暴いたところで、それで罪に問えるとは考えていない。これだけ有名な組織だ、背後には十中八九ミドルテア家かその派閥が関係している。

 そして帝国は良い意味でも悪い意味でも、この二つの派閥の均衡と、その他派閥で回っている。どの均衡も崩すことは容易なことではない。

(立ち回りを誤れば、騎士団は一気に片方の派閥を中心にした人事が行われるだろう。……まったく。どこかにこの椅子を任せられる後継者はいないものか……)

 ディナルドはクインシュバインと打ち合わせを進める。最後にクインシュバインはある報告を行った。

「……怪物?」

「はい。最近城下町で現れるという評判なのです。何でも見た目は文字通り怪物で、襲われた住民は見るも無残な姿で発見されるとか……」

「何年か前にも、似た様な話があったな……」

 その時は結局怪物は発見されず、犠牲者も1人だけだったので、見間違いか何かだろうと調査は行われなかった。だがその時の犠牲者も酷いあり様だったのは覚えている。

「まだ詳しいことは分かっていないのですが、最近騎士団に届け出がございまして」

「場所は?」

「城壁内南西部から南部にかけてですね」

「……一応留意しておく」

 帝都では毎日どこかで事件が起こっているし、その全てに騎士団が対応できる訳ではない。

 ディナルドはこの時点では、騎士団が対応する案件ではないだろうと判断していた。





「帝都に存在する組織の情報を知りたい、ですか? 一体何故……」

 ヴィローラはジークリットに対し、組織の情報を集めて欲しいとお願いをしていた。

 ジークリットからすれば、皇女たるヴィローラが気にするにはあまりにも下賤な人種、できれば耳に入れたくないというのが本音だ。

「だって貴族院にも行けませんし、退屈なんですもの。それにあの時の少女。彼女ともう一度会って話がしたいの。お礼も伝えたいですし……」

「はぁ……」

 フィンの事は騎士団も追ってはいた。噂のこともあるが、閃刺鉄鷲の襲撃事件について、重要な参考人でもある。詳しく話は聞きたいのだ。しかし騎士団もその行方は掴めていなかった。

「あれだけの技量を持っていても、年齢は私とそう変わらないのです。もしかしたらどこかの組織に良い様に使われているのかもしれません。彼女さえよければ、ジークリットの様に私の専属護衛として召し抱えたいのです」

「平民をですか……? 姫様が良くても、他が許しませんよ。ですが分かりました。おおよその情報は集めておきます。ただし、この間の暗殺者集団の様な闇組織とは別ものである事はご承知下さい」

 このままヴィローラにごろつき共の情報が入るのは避けたい。

 護衛体制をさらに強化して貴族院に通う事を了承させた方がいいかもしれないな、とジークリットは頭の片隅で考えた。は
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