黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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再戦 黒白と光の騎士

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「ヴェルト殿……! 無事でいてくれたか……!」

「ヴェルトさま……!」

「ああ。後は俺に任せて下がっていてくれ」

 ディアノーラとアデライアの2人はその場から少し距離を取る。アックスは片膝をつきながら声を飛ばしてきた。 

「ヴェルト……! やれるのか……!?」

「ああ。悪いがじいさんを診てやってくれ」

 しかしまさかじいさんまでやられているとはな。何だかんだ黒狼会最後の壁はじいさんだと思っていたんだが。

 俺はゆっくりとレクタリアに向かって歩き出す。

「さて……。お前には随分とこっぴどくやられたな。だがおかげでこうして戻ってこれたぜ」

「ヴェルト……。あちらの世界で何を見たのです……?」

「知りたけりゃ自分で行ってみりゃどうだ? 行ったところでお前を強く敵視している奴が待ち構えているけどな。ああ、そういえばお前、随分と嫌われているみたいじゃねぇか」

「……どういう意味でしょう」

「こうしてお前に俺をぶつけようとする奴もいるし、大幻霊石もお前への嫌がらせで自壊する様に仕組まれていたんだろ?」

「……! 大幻霊石が自壊する様に……!?」

 おや。どうやらもう1人の女神とやらが、大幻霊石を自壊する様に手を打っていた事は知らなかった様だ。

「波動の信奉者……いや、狂信者か。とにかくお前がいると碌なことにならねぇ。人は進化なんてもんをプレゼントしてもらわなくても何とかやっていけるからよ。部外者はここでご退場願おうか……!」

 全身に魔法の力を満たしていく。黒い霧が俺を包み込むが、やがてその霧を払う様に強い光が迸る。

 完全に霧が晴れた時、そこには新たな甲冑の様な外骨格を纏う騎士が立っていた。

「フィンの様なネーミングセンスはないからな。シンプルに真・黒曜腕駆と呼ぼうか」

 新たな甲冑は、黒と白でカラーリングされたものだった。黒曜腕駆の甲冑よりも全体的にスリムで、より騎士という印象がより強いフォルムだ。

「さぁレクタリア……! お前のために拵えた魔法だ……! ここから第二ラウンドといこうか……!」

 全身が光と化してレクタリアへと一直線に突き進む。

 レクタリアは本気なのか、これまで見せた速度以上の速さで氷壁を展開していく。だがその氷壁は俺の身体に触れると尽く消失していった。 

「な……!」

「おおおお! 光劫刃!」

 手甲の先端部分から伸びた光の剣をレクタリアに振るう。レクタリアはそれを信じられない反射神経で躱してみせた。

「……! 制限因子を克服して……!?」

「まったく……! とんだズルをしていたもんだぜ!」
 
 女神の因子を持つ者は、意図してこの世界の物理法則から半歩足をずらす事ができる。

 かつて箱舟にあった次元技術を用いたものだかなんからしいが、俺には詳しい原理は分からない。だがこれにより、この世界において肉弾戦では無敵とも呼べる存在になっていた。

 俺はその前段階……氷壁で攻撃を食い止められていたが、じいさんだとおそらくその攻撃を届かせる事に成功しいたはず。

 しかし接近戦に持ち込めても、レクタリアにその刃を届かせる事はできなかったのだろう。

 一方で新たな俺の魔法は、レクタリアの持つ因子と打ち消す……という訳ではないが、同じステージに立つ事を可能とする。レクタリアと正面から戦うのにこれは最低条件であった。

「さっきまで一歩も動いてなかった奴が……! 随分と滑らかに動く様になったもんだぜ……!」

「く……!」

 何度も立ち位置を変えながら、俺は光の剣を振るい続ける。

 この剣の前には氷壁だろうと無力。直ぐに無効化する。レクタリアは俺の攻撃を全て躱しているが、俺は段々その動きを見切りつつあった。

「こんな……! これでは、まるで……! 私を倒すために……!」

「そうだ! 言っただろう、これはお前を倒すために拵えた魔法だと! 波動となったアディリスが調節してくれたのさ……!」

「なに……」

 対レクタリアに特化した光の魔法。自分の魔法が消失するリスクを受け入れたからこそ完成した魔法だ。

 手段など選ぶ余裕はない。例えこれで黒曜腕駆が消えるとしても……! こいつはここで確実に仕留める……!





「ヴェルト……! どうなってんだ、ありぁ……!」

 アックスたちはヴェルトとレクタリアの戦いを見守っていた。

 これまで自分たちとの戦いでは余裕を崩さなかったレクタリアが、今では真剣な表情でヴェルトと相対している。

「黒白と光の騎士……」

 アデライアも静かに事の成り行きを見守っていた。

 再び姿を現したヴェルトは黒狼会でも苦戦した巨像を、ものの一瞬で砕いて見せた。そして新たな装いを以て今、レクタリアを追い詰めている。

 かつてゼルダンシア王族に仕えた伝説の傭兵団が時を越えて今、こうして帝国と世界中の人のために戦ってくれている。

 この場では不謹慎と思いつつも、アデライアは今、伝説として語る継がれる事になるであろう物語の中にいると感じていた。

(やっぱり……群狼武風は英雄譚通りの英雄です)

 おそらく決着は近い。ここでヴェルトが勝てなけれな、おそらくレクタリアを止められる者はもういないだろう。

「坊……」

「あ、おじいちゃん! 起きたの?」

 フィンが目を覚ましたハギリに声をかける。ハギリはじっとヴェルトとレクタリアの動きを見ていた。

「あれは……坊、か……」

「うん。ヴェルトったら急に姿を見せてさ。すごかったよー、氷の巨像も一瞬だったし」

「そうか……」

 ハギリの目では両者の戦いが何とか見えていた。そしてその結末を予感する。

「こういう土壇場で、坊にはいつも驚かされるのぅ」

「そだねー」

 かつてハギリは、ローガに英雄としての資質を見た。後にも先にもローガ以上に光る資質を持つ者は見た事がない。

 だがそんなハギリの目に、今のヴェルトはとても眩しく見えた。 

「ふん……大した男じゃ」

 リリアーナもヴェルトの戦いを見ながら、その悲願が達成される時が近いと感じ取る。

(総主……! もうすぐ、もうすぐです……! ヴェルトなら、きっと……!)

 正直、レクタリアの力は予想の遥か上をいっていた。この戦いに勝ち目はないと、さっきまで心も折れていたのだ。だがヴェルトは見事に盤面をひっくり返して見せた。

 エル=ダブラスの不始末を全て黒狼会に押し付ける形になったのは、忸怩たる思いがある。自分の力の無さを憎んだりもした。

 このままヴェルトが勝利を収めても、エル=ダブラスとしては大手を振って喜べないだろう。

(いえ、それでいいのかもしれない。そうして総主の望み通り、人知れず消えていく)

 始めから表に出ず、そしてそのまま消え去っていく。自らの存在をアピールしたい訳でもないし、とてもできる状態でもない。

 力のあるヴェルトと黒狼会に自分たちの悲願を勝手に託し、そして見事に応えてくれた。これはそれだけの話であり、同時にエル=ダブラスとしては恥とも言える事である。しかし。

(どうしようもないじゃない、こんなの)

 現実離れした光景を前に、リリアーナは吹っ切れていた。




 
 左の手甲からも光劫刃を発現させ、俺は二本の剣でレクタリアをさらに追い詰める。

 こっちもいつまでこんな魔法が使えるのか分からないのだ、勝負を焦る気持ちを何とか押しとどめる。そして。

「ああ……!」

 誰の声だろうか。振り返る余裕はなかったが、それが何を意味しているのかは分かる。俺の剣はとうとうレクタリアを捉え、確かにその胴を貫いていた。

「ごふっ……! ま、さか……! そんな……ことが……!」

「お前の敗因は単純だ。黒狼会に喧嘩を売った、それを俺らは買った。これはただ、それだけの話だ」

「ば……か、な……! あな、たたちは……! じ、ぶんが、何を……! しようと、して、いるのか……! 分かって……! いる、のですか……!」

 レクタリアは限界まで大きくその両目を見開く。
 
「人の……! 進化が……! 永遠の……! 魔法、文明の再興を……!」

「いらねぇ世話だっつってんだろ。お前は黒狼会に喧嘩を売ったばかりにその野望を朽ちらせる事になった。俺たちは相手が誰であれ、売られた喧嘩は全て買う。消えろ、過去からの侵略者」

 素早く両腕を振るい、幾重にもレクタリアを斬る。レクタリアはその最後の瞬間まで俺に目線を合わせ、そして地に伏せた。

「ヴェルト!」

「やったのか!?」

 アックスたちが寄ってくる。俺は小さくああ、と頷いた。

「そうか……! なんだ、お前! すげぇじゃねぇか!」

「さすがは私たちの隊長だね!」

 外骨格が剥がれていき、同時に俺から魔法の力が消失していく。アディリスの言う通り目的を果たし、役目を終えたのだろう。

 完全に外骨格がなくなったところで俺は座り込んだ。

「……はぁ~。今回ばかりは疲れたな……!」

「あはは! 本当に!」

「しかし坊よ。何があったんじゃ? さっきの魔法は一体……?」

「ああ、後で詳しく話すよ。だがあの魔法はもう使えない。この一度きりのものだ。もしレクタリアが復活しても、もう俺に期待するなよ」

「うへぇ……。そいつは嫌な冗談だな……!」

 祭壇の上で光っていた光球が消え去る。これで波動とやらがこの世界に満ちることはもうないだろう。

 とりあえずの危機は去った。俺は改めてさっきの世界を思い出す。

(人は死んだら、いつかあの世界に行くのだろうか……? アディリスは父上やローガの事を、俺に付随する情報だと話していた。死後の世界かどうかは分からないが、会話ができたという事実は俺の中で残り続ける)

 あとでみんなにも話してやるか……と思っていたが、そこでディアノーラはあっと声をあげる。

「どうした?」

「いや、こうして結社の目的は潰せたのは良いのだが。地上では……ルングーザの領兵が入り込んだ帝都は今、どうなっているのかと思い出してな……」

「……! そうだ、そっちの問題もあったか……!」

 俺はアックスに引っ張ってもらって再び立ち上がる。

 レクタリアとの戦いで、もう全部決着がついた気になっていたぜ……! いや、実質決着はついた様なものなんだが……!

「ねぇねぇ。七殺星って名前からして7人いるんだよね? あと何人残っているんだろう? 閃罰者も全員倒したのかな?」

「そこの懸念もあるな……! ここに来る途中、俺たちが来た道とは別の道があったろ! そこからさっさと地上に戻ろう!」

「やれやれ。わし、もう今日は疲れておるんじゃが……」

「それはみんな同じだよー」

「これも帝都に住む人の安寧のためです。ローガ団長の夢を実践する黒狼会の矜持をここで腐らせる訳にはいきません……!」

 みんな怪我を押して気合を入れなおす。

 ったく! ルングーザの野郎……! 余計な仕事を増やしやがって……! 

 だが丁度いい。ここで黒狼会の矜持に則りつつ、積年の恨みを晴らしてくれる……!
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