黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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真っ当な黒狼会 舞い込む依頼

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 ヴィンチェスターの反乱から数ヶ月。帝都はかつての活気を完全に取り戻していた。俺は屋敷でダグドと今後の方針について話し合う。
 
「新しく始めた店は順調だな」

「はい。効率的な流通経路を自前で作った点が功を奏しました。もっとも、投資分を回収できるまではまだ数年かかる見通しですが」

「構わない。臨時収入もあったしな、現状でも黒狼会の財政に懸念はない」
 
 臨時収入。それは帝国政府から授けられた黄金だった。金額にしておよそ1億エルク以上の価値がある。
 
 帝国政府から「帝都混乱時に、民衆に被害が出ない様にいろいろ取り組んでくれてありがとう代」という名目で表彰された際に貰ったものだが、その実態は群狼武風への報酬だ。つまりアデライアに言って用意してもらった金になる。
 
 具体的な金額は任せると言っていたが、おそらくウィックリンとしても「黒狼会を高く評価しているぞ」というメッセージを伝えたかったのだろう。黄金のインゴットが送られてきた時はさすがに驚いた。というか実物を見たのも初めてだ。
 
 通常であれば皇族が一私人、それも平民に黄金を送る事はない……というか、できない。

 だが黒狼会は帝都に獣が連日現れていた時、これに積極的に対応し、住民避難も行って被害を少なくした実績がある。そこで帝国政府からの表彰という形で俺たちに報酬を寄越してきたのだ。
 
「しかし黒狼会がここまで大きな規模になり、今や帝国政府から表彰までされる様になるなんて……! 私、感動しています……!」

「お前もなんだかんだ古株の1人だからなぁ。正直、ここまでやってこられたのはお前の手腕もあると認めているよ」

「ヴェルト様……!」
 
 商会としてのやりくりなんかはダグドに放り投げている部分が大きいからな。つくづくあの時拾っておいて良かったと思う。
 
 ダグド本人も自分の仕事を補佐する者を多く雇っており、毎日忙しい身だが、自分の手で黒狼会という組織を運営できることにやりがいを感じているらしい。

 元々帝都で一肌上げるために単身乗り込んできた商人だからな。形は違えど自分の夢を黒狼会で叶えているのだろう。
 
「傘下に入りたがる商人もかなり増えたな」

「はい。影狼関連の組織を寄せ付けない武力に、帝都上位に入る資金力。そして帝国政府から表彰されたという実績まであるのです。その筋の者が近づけなくなる魔除け……黒狼会の印を看板に付けたいという商人は多いですよ」
 
 黒狼会の収益の大部分は、今も変わらず商人たちから毎月納められる護衛料だ。特に城壁外に店を構える商人に多い。

 城壁外の街は広大だし、帝国兵もなかなか巡回していないからな。治安の悪さがこうした収益に繋がっているのは悲しいところでもある。
 
 そして城壁内の商人からは帝都から離れる際の護衛を貸し出したり、護衛料とは別で献金を受けたりしていた。献金は金額自体は大きいものの定期的なものではないのだが。
 
 自前で店を始めたといっても、まだまだ拳で飯を食っている割合が大きい。だが今回の表彰もあり、一般的な暴力組織とは違うというイメージは付いたと思う。……多分。
 
 そしてアックスたちは舞い込んでくる商人の護衛依頼の中から興味のあるものを選び、日々愉快に過ごしていた。長期間帝都から離れている事もざらだ。常に黒狼会の拠点回りにいるのは俺とロイくらいだろう。
 
「そういえば。今回の建国祭、ヴェルト様は貴族街にある迎賓館に招待されていましたよね? 当日はご自身で行かれるのか、代理を立てるのか。決まりましたか?」

「ああ……その事か……」
 
 ゼルダンシア帝国は年に何度か記念日があるが、貴族も民も一緒になって祝うのは建国祭だ。これはアルグローガが五国会談をまとめ上げた日にあたる。
 
 商人は出店を出したり、普段よりサービスした商売をし、平民もお祭りを楽しむ。貴族は貴族で、自領の祭りに参加したり、帝都では貴族同士が集ってパーティが開催される。

 だいたいどこでも貴族が酒を出してくれるらしく、昼から盛り上がるのだそうだ。エルセマー領での祭りをより大きくした感じだろうか。
 
 そしてそのパーティには毎年、帝国に貢献したと認められた平民も招かれていた。その招待状が俺にも届いたのだ。

 だがいくら無礼講とはいえ、貴族と接するのに緊張する平民は多い。そこで招待を受ける受けないは自由、受けるにしても代理人を立てて良いという決まりになっていた。
 
「正直、どっちでもいいんだがなぁ……。ダグド、お前興味あるなら代理として行ってもいいぞ」

「え……! た、確かに、建国祭に呼ばれるのは夢の一つではありましたが……! く……! しかし、私も忙しい身です。興味はあるのですが……」

「そうか……」
 
 なるほど。建国祭に呼ばれる事を夢見て頑張っている奴もいるんだな。
 
 だが俺はあまり興味が持てていなかった。迎賓館に顔を出して積極的に貴族との繋がりを作るつもりはないし、目的がない以上は行っても退屈なだけだ。

 それならここで帝国の歴史資料に目を通していた方が有意義だろう。最近は古の女神に関する資料を集めさせているしな。
 
 だからといって、表彰を受けておきながら無視するというのも気が引ける。やっぱり誰か代理を立てるかな……。
 
「代理って貴族でもいいのかね?」

「どうでしょう……あまり聞いた事はありませんが……」

「ふぅむ……」
 
 今度クインにでも相談してみるか。リーンハルトあたりに代理をお願いできると楽なんだが。

 黒狼会は真っ当な商会だし、騎士団と懇意にしていると思われても問題ないだろう。多分。
 
「ま、どうするかは考えておくよ」
 
 ダグドとはそれからもいくつかやり取りを交わす。ある程度話がまとまったところで屋敷を後にした。そして歴史資料に目を通し始めてすぐにミュリアが部屋を訪ねてくる。
 
「お休みとところ申し訳ございません。少しよろしいでしょうか」

「ああ。どうした?」
 
 ミュリアは机に広がる資料の束を見て若干眉をひそめる。散らかしきってんな、汚ねぇ。ちゃんと整理しろよ、という表情だな。
 
「実は貴族から護衛の依頼がきているのです。ヴェルトさん指名で」

「……? 貴族がわざわざ民間に護衛の依頼? しかも俺を指名だと?」
 
 基本的に黒狼会みたいな組織に護衛を頼む貴族は、ごろつきを私兵の様に囲う底辺貴族に多い。中にはエルヴァールの様な例もあるが。

 しかし黒狼会は基本的に貴族に対する献金は行っていないし、そういう依頼は断っている。ど底辺貴族の依頼なんぞ、黒狼会からすれば断っても何も問題ないのだ。
 
「ミュリア、そういう依頼は……」

「相手はレックバルト・ゼノヴァーム。あの帝国四公の1人、ゼノヴァーム公の息子です」

「…………ほう」
 
 あいつか。浅黒い肌に精悍な顔つきをした若い男だ。良い意味で印象に残っている。
 
「詳しい事はこちらの書状に記されているとの事です。返事は明日寄越す使者にしてほしいと」

「わかった。見させてもらうよ」
 
 ミュリアは机に散らかる資料を簡単にまとめ、空いたスペースに書状を置く。そして部屋を出て行ったタイミングで俺は中身を確認した。
 
「……なんだこれは。随分親切に書いているじゃないか」
 
 書状によると、3日後に帝都北東部にある貴族専用の狩猟場で狩りを行うらしい。何でも帝都に滞在するレックバルトを、第二皇子であるグラスダームが歓待するそうだ。

 当日は皇女の1人であるヴィローラも参加し、ゼノヴァーム領軍の中から腕利きも護衛として付ける予定だが、是非俺にもレックバルト本人の護衛として参加して欲しいとの事だった。
 
「サインまでしてある。本人が書いたのか? しかしどういう意図かねぇ。俺があの時、会議室にいた仮面の男だとは気づいていないと思うが……」
 
 ウィックリンの仮面を付けた秘密部隊。その正体を知る者はごく一部に限られる。

 そしてこれに関しては知る者が増えても良い事がないため、ウィックリンたちがレックバルトに話しているとは考えにくかった。
 
「純粋に黒狼会の噂だけで気になったか……? それに1日だけの割には護衛料も破格だ。底辺貴族の依頼とは訳が違うのは分かるんだが……」
 
 しかしそれだけに、何か考えがあっての依頼だというのがはっきりとしている。わざわざ俺を指名してくるくらいだしな。それに俺もレックバルトに対しては興味もある。
 
「若いのに、戦場ではなかなかの指揮を見せていた。騎兵による突撃で左翼を抜き、敵中央軍を後ろから回り込んだ腕といい、度胸も戦機を伺う眼も確かだ。幻魔歴なら一端の将だろうな」
 
 ま、少し話すくらいなら問題ないか。その場で何かお願いごとをされる可能性もあるが、そうなったらそうなった時にまた考えればいい。

 そう考え、俺はこの依頼を受けようと決めた。
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