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新たに動きを見せる者と聖武国の姫君
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大陸某所。そこでは結社エル=グナーデの閃罰者、リニアスが戦いを繰り広げていた。
「くぅ……!」
「はは。なんだ、想像していたより大した事ありませんね」
リニアスの相手は10代中ごろの少年だった。少年はリニアスの振るう高熱のチェーンウィップ灼閃鞭《アレクルト》に恐れることなく足を進める。
「なんで……! 通じないのよ……!」
先ほどから何度も鞭を振るっているのだが、そのどれもが少年に当たる直前に地面へと落ちるのだ。そのせいでリニアスは一度も攻撃を当てる事ができなかった。
「さぁその2つの玩具を渡してください。そしてその玩具を制御するためのエルクォーツ。それらも大人しく抉り出させてくれれば、命まではとりませんよ?」
「この……ガキが……!」
リニアスの強みは、障壁による防御と高い攻撃力を誇るチェーンウィップだ。だがその攻撃手段が封じられ、徐々に追い込まれつつあった。
そしてとうとう至近距離まで近づかれる。リニアスは咄嗟に絶空断《ハーティア》を展開し、少年の出方を伺った。
(あの時はあっさりと障壁を砕かれたけど……! あんな本物の魔法使いでもなければ、ハーティアの防壁は絶対に……!)
「なんです、それは。まさか防御しているつもりですか?」
少年は小さく右手で空を切る。その瞬間、リニアスは自分から勢いよく地面に激突した。
「が……か……!?」
上から見えない何かにのしかかられている様で、まるで身体を起こす事ができない。
リニアスは何とか視界を前に向けるが、そこには今も問題なく展開されている障壁が見えた。
(そんな……!? 障壁は砕かれていない……!? ど、どうやってこんな攻撃を……!)
「初めから大人しくしてくれれば、痛い目を見ずに済んだんですよ? それにしても、ふふ……。やはりエルクォーツというのは、玩具と呼ぶに相応しい性能の様ですね」
少年は邪気のない声で笑みを浮かべる。リニアスは自分が何故ここまで圧倒されているのか、まるで理解できていなかった。
(せっかく……! 帝国から上手く出られたというのに……! なんなの、このガキは……!)
「さて。これからお姉さんの身体に埋め込まれているエルクォーツを取り出すけど。抵抗されたらいやだし、もう少し重くするね?」
(…………っ!!)
その瞬間、さらに上から何かに押しつぶされる。全身が硬い地面にめり込んでいき、あばらが折れ、頭蓋も今にも割れそうな音を響かせる。そしてリニアスは意識を失った。
「……あれ、死んじゃったかな。まぁしょうがないか。それじゃちょっと失礼するね」
少年は躊躇いのない動作でリニアスの衣服を脱がして裸にする。そして背中に2つのエルクォーツが埋まっているのを確認した。
「さて……」
そしてナイフを取り出し、エルクォーツを抉り出す。
その手つきに慎重さはなく、雑な動作であった。一瞬、リニアスの身体がびくりと痙攣を起こす。
「わ……! びっくりしたぁ。でもこれで目当ての物は回収できたね」
少年はリニアスの身に付けていた首飾り、絶空断《ハーティア》と灼閃鞭《アレクルト》も回収する。そして完全に興味を失ったリニアスには見向きもせずに歩き出した。
「原理が解明できれば、誰にでもコレを使える様にできるって話だけど。うーん、やっぱりフェルグレッド聖王国に行った方がいいのかなぁ」
「元は結社エル=ダブラスの技術だって話だしね。でもね、スラン。勝手な真似は止めな」
「やぁメニア。いつからここに?」
「今来たとこだよ」
歩く少年……スランの前にもう一人の少女が姿を見せる。その少女も年齢はスラン同様、10代半ばに見えた。
「さぁお母さまの元へ帰るよ。きっと喜んでくれるさ」
「分かったよ。僕たちのノルマは達成したからね。他のみんなもうまくいってるかな?」
帝都での戦いにおいて、敗北した結社エル=グナーデ。その残党勢力の持つエルクォーツがスランたちの目的だった。
今も彼らの仲間たちが各地で閃罰者や七殺星の生き残りを探している。
「……待った。お母さまからだ」
「なんだって?」
「スラン、予定変更だよ。このままフェルグレッド聖王国に向かう」
フェルグレッド聖王国。数年前にゼルダンシア帝国に併合された国である。そしてリリアーナの所属する結社エル=ダブラスの本拠がある地であった。
「可能であればエル=ダブラスからエルクォーツの回収及び、可能ならその知識を持つ者を連れてくる様に、だってさ」
「ふふ、分かったよ。僕たち世界新生神幻会は、いつだってお母さまの期待に応えられるからね」
そして2人はゼルダンシア帝国領、旧フェルグレッド聖王国へと足を向けた。
■
ゼルダンシア帝国が大部分を支配する大陸、その海を渡った北西部には大きな島がある。そこはガラム島と呼ばれており、古よりフォルトガラム聖武国が支配していた。
島といっても、その大きさは並の小国以上の広さがある。そして水産資源や鉱物資源にも恵まれており、比較的豊かな土地だった。
また海洋国家だけあり、水軍の強さは世界最強だと称されている。
実際幻魔歴から名を残している数少ない国家の1つであり、新鋼歴でも唯一ゼルダンシア帝国の侵略軍を正面から打ち破った実績を持つ。これまでどの様な侵攻に対しても、敵軍を決して上陸させてこなかったのだ。
大幻霊石が砕けてからは、一時的に対岸のカルガーム王国と組んでいた時代もあるが、時が進みカルガーム王国は五国会談を通してゼルダンシア帝国の一部となった。以降はずっと対立している。
そのフォルトガラム聖武国王都にある城では、国王であるアーランディス・フォルトガラムが娘のフランメリアと会話をしていた。
「ゼルダンシア帝国からの親書……?」
「そうだ。平たく言えば、建国祭の招待状だな。何でもカルガーム領からの旅費や交通手段は全て向こうが持つ国賓待遇らしい」
「建国祭の招待状……? 何のつもりでしょう。これまで我が国にその様な親書を出したという話は聞いた事がありません」
フランメリアは明るい金髪を撫でながら不快感を示す。
年齢は18。アーランディスには2人の娘と1人の息子がいるが、フランメリアは長女だった。
彼女は気の強そうな釣り目をさらに細くし、父の持つ親書を睨みつける。
「以前通商条約の話がきた時に蹴った事があったな。おそらくその時の話の続きがしたいのだろう」
「ふん……! まさか父上、大人しく話に乗るおつもりですか!?」
一般的なフォルトガラム聖武国民の特徴として、プライドが高い。これまで一度たりとも侵略を許した事がなく、大国ゼルダンシアに唯一武力で抵抗して見せた国である。
そして高い造船技術に質の良い武具を生み出す職人の多さに、それらを支える豊富な資源と世界最強の海軍。こうした環境が手伝い、自分たちは世界に類を見ない国家であるという自信に繋がっていた。
もちろん全員がそうという訳ではない。しかしフランメリアはそういう意味でも、典型的なフォルトガラム聖武国民と言えた。
「私とて素直に応じる気はないとも。だが諜報部から気になる情報が入ってきてな」
「諜報部から……?」
「最近、帝都で政変があったのは聞いているな?」
「ええ。大貴族ヴィンチェスター・ハイラントが反乱を企てたものの、即座に潰されたことから反逆の1日と呼ばれている政変ですね」
ヴィンチェスターの反乱は既に他国に知れ渡っていた。だがその分析には様々な意見がある。
大貴族に愛想をつかさせるくらいにウィックリンは統治者として劣っているという見方もあれば、僅かな期間で反乱を抑え込んだことから、ウィックリンの手腕を褒めているというものもある。
いずれにせよ反乱を抑えたその手腕は高く評価されていた。
「うむ。その政変がどういう経緯で起こったものなのかは分からんが、実際に戦があったのは確かだ。それも帝都近郊でな」
「…………」
話の流れから、父の言う気になる情報というのがその戦にある事を感じとる。フランメリアは黙って続きの言葉を待った。
「何でもその時の戦場では、ウィックリンの私設部隊が一騎当千の活躍を見せたらしい。僅かな人数でヴィンチェスターに占領された帝都を奪還し、そのまま戦場では1人で数百人以上の敵兵を屠ったというのだ」
「……まさか本気で信じておられるのですか?」
もしそんな武力を有する人物が実在しているのなら、そもそも反乱など起こらなかったはずだ。
そんなフランメリアの考えを読み取ったのか、アーランディスは小さく頷いた。
「噂というのはいくらか誇張されるものだ。だがその噂の元になった出来事は確かにあったのだろう。そして私は、今回の政変はウィックリンの仕組んだものだと読んでおる」
「あえて自国に反乱を起こさせたと……? 帝都まで抑えさせて……?」
「そもそも不可解な点が多すぎるのだ。救援に来たのは帝国四公の一角、ゼノヴァーム領の軍であったが、あまりにタイミングが良すぎる。普通、帝都が抑えられたという情報を得てから兵を起こすのに、お前なら何日かかる?」
「……敵戦力にもよりますが。どんなに早くても2日3日は必要です。また帝都を直ぐに奪還できなかった時の事も考えると、継戦能力と補給線も意識した編成が必要になってきます。あらかじめ物資や医薬品の備蓄を進めていなければ、7日から10日は必要かと」
ここまで言ってフランメリアはまさかと両目を見開く。
「帝都を反乱軍に占領された時間はごく僅か。ゼノヴァーム領軍もその日の内に現れ、しかもその時には既に帝都は反乱軍の手から解放されていた。そのまま騎士団とゼノヴァーム領軍が合流し、反乱軍を撃破したという事だ」
「まさか……! そんな、あり得ません……!」
改めて今回の政変の異常さを理解する。ゼノヴァーム領軍の動きだけを見ると、あらかじめ帝都が占領される事を見越して近くに待機させていたとしか思えない。
そして実際に帝都は占領というほど長い時間抑えられていた訳ではないのだ。つまり。
「ウィックリンは……! 自分にとって邪魔な貴族が行動を起こす様に誘導していた……!? 自国の大貴族を使ってまで……!?」
温厚で戦う事を嫌う弱腰な皇帝ウィックリン。だがその仮面の下は狡猾かつ残忍、自分の治世の安定のためには自国の貴族すら斬ってみせる。
フランメリアはこれまで皇帝ウィックリンという為政者を勘違いしていた可能性に愕然とした。
「おそらく反乱を起こさせる日から、それをどう鎮圧するかまで全てがウィックリンの筋書き通りだったのだろう。ゼノヴァーム領軍が到着する前に帝都をとり戻していた事を考えると、あらかじめ城や皇宮のいたるところに仕掛けを施しておったのだ。占領軍は自ら猛獣の口の中に入っていっていると気づかず、喜びながら飛び込んだのだろうよ」
「……! く……! まさか、そんな……!」
やはり大国ゼルダンシアの統治者はただ者ではなかったのだ。そうとも知らず、自分はウィックリンの事を弱腰で、帝国の皇帝には相応しくない人物だと思い込んでいた。
「今はその意識が国内に向いているというだけの話だ。だがその知略が外に向けられれば……」
「前皇帝の……いえ。前皇帝以上の戦乱の世が到来する……!」
入念な準備をした上で、自分たち側はほとんど無傷で勝利を手にする。どれほど兵が精強でも、それを指揮する者の戦略眼の違いが戦局に……そして勝敗を左右するのだ。
もしウィックリンがその知略で戦端を開けばどうなるか。少なくとも政変鎮圧の手際から見て、良い結果になるとは思えない。
「我々はもしかしたらウィックリンという人物を見誤ってた可能性がある。ところでフランメリアよ。お前はこの親書、どう見る?」
「…………!」
長年の敵であるゼルダンシア帝国皇帝ウィックリンから送られてきた親書。内容は建国祭の招待。それも国賓待遇だ。
だがこの一通の手紙に一体どれほどの知略戦略が練り込まれているのか。フランメリアでは全く読みきることができなかった。
「通商条約の話し合いだけが目的ではない……?」
「さてな。そもそもこの親書には通商条約のつの字も書いておらん。だがこれはウィックリンという人物を直接目にし、その器を計るチャンスでもあると考えておる」
「それは……!」
ここで話が本題に入り、アーランディスは一度咳払いをする。
「こちらも条件付きで招待に乗ろうと思う。そしてその使節団の代表はお前だ、フランメリア。連れて行く配下は厳選しておけ。そしてゼルダンシア帝都で、フォルトガラム聖武国ここにありと示してくるのだ!」
【後書き】
お久しぶりです。
黒狼の牙ですが、しばらく毎週木曜日と日曜日を目安に更新していきたいと思います。
これまで何度か名前が出てきたフォルトガラム聖武国や、また怪しい連中が出てきます。
引き続き楽しんでいただけましたら幸いでございます。
「くぅ……!」
「はは。なんだ、想像していたより大した事ありませんね」
リニアスの相手は10代中ごろの少年だった。少年はリニアスの振るう高熱のチェーンウィップ灼閃鞭《アレクルト》に恐れることなく足を進める。
「なんで……! 通じないのよ……!」
先ほどから何度も鞭を振るっているのだが、そのどれもが少年に当たる直前に地面へと落ちるのだ。そのせいでリニアスは一度も攻撃を当てる事ができなかった。
「さぁその2つの玩具を渡してください。そしてその玩具を制御するためのエルクォーツ。それらも大人しく抉り出させてくれれば、命まではとりませんよ?」
「この……ガキが……!」
リニアスの強みは、障壁による防御と高い攻撃力を誇るチェーンウィップだ。だがその攻撃手段が封じられ、徐々に追い込まれつつあった。
そしてとうとう至近距離まで近づかれる。リニアスは咄嗟に絶空断《ハーティア》を展開し、少年の出方を伺った。
(あの時はあっさりと障壁を砕かれたけど……! あんな本物の魔法使いでもなければ、ハーティアの防壁は絶対に……!)
「なんです、それは。まさか防御しているつもりですか?」
少年は小さく右手で空を切る。その瞬間、リニアスは自分から勢いよく地面に激突した。
「が……か……!?」
上から見えない何かにのしかかられている様で、まるで身体を起こす事ができない。
リニアスは何とか視界を前に向けるが、そこには今も問題なく展開されている障壁が見えた。
(そんな……!? 障壁は砕かれていない……!? ど、どうやってこんな攻撃を……!)
「初めから大人しくしてくれれば、痛い目を見ずに済んだんですよ? それにしても、ふふ……。やはりエルクォーツというのは、玩具と呼ぶに相応しい性能の様ですね」
少年は邪気のない声で笑みを浮かべる。リニアスは自分が何故ここまで圧倒されているのか、まるで理解できていなかった。
(せっかく……! 帝国から上手く出られたというのに……! なんなの、このガキは……!)
「さて。これからお姉さんの身体に埋め込まれているエルクォーツを取り出すけど。抵抗されたらいやだし、もう少し重くするね?」
(…………っ!!)
その瞬間、さらに上から何かに押しつぶされる。全身が硬い地面にめり込んでいき、あばらが折れ、頭蓋も今にも割れそうな音を響かせる。そしてリニアスは意識を失った。
「……あれ、死んじゃったかな。まぁしょうがないか。それじゃちょっと失礼するね」
少年は躊躇いのない動作でリニアスの衣服を脱がして裸にする。そして背中に2つのエルクォーツが埋まっているのを確認した。
「さて……」
そしてナイフを取り出し、エルクォーツを抉り出す。
その手つきに慎重さはなく、雑な動作であった。一瞬、リニアスの身体がびくりと痙攣を起こす。
「わ……! びっくりしたぁ。でもこれで目当ての物は回収できたね」
少年はリニアスの身に付けていた首飾り、絶空断《ハーティア》と灼閃鞭《アレクルト》も回収する。そして完全に興味を失ったリニアスには見向きもせずに歩き出した。
「原理が解明できれば、誰にでもコレを使える様にできるって話だけど。うーん、やっぱりフェルグレッド聖王国に行った方がいいのかなぁ」
「元は結社エル=ダブラスの技術だって話だしね。でもね、スラン。勝手な真似は止めな」
「やぁメニア。いつからここに?」
「今来たとこだよ」
歩く少年……スランの前にもう一人の少女が姿を見せる。その少女も年齢はスラン同様、10代半ばに見えた。
「さぁお母さまの元へ帰るよ。きっと喜んでくれるさ」
「分かったよ。僕たちのノルマは達成したからね。他のみんなもうまくいってるかな?」
帝都での戦いにおいて、敗北した結社エル=グナーデ。その残党勢力の持つエルクォーツがスランたちの目的だった。
今も彼らの仲間たちが各地で閃罰者や七殺星の生き残りを探している。
「……待った。お母さまからだ」
「なんだって?」
「スラン、予定変更だよ。このままフェルグレッド聖王国に向かう」
フェルグレッド聖王国。数年前にゼルダンシア帝国に併合された国である。そしてリリアーナの所属する結社エル=ダブラスの本拠がある地であった。
「可能であればエル=ダブラスからエルクォーツの回収及び、可能ならその知識を持つ者を連れてくる様に、だってさ」
「ふふ、分かったよ。僕たち世界新生神幻会は、いつだってお母さまの期待に応えられるからね」
そして2人はゼルダンシア帝国領、旧フェルグレッド聖王国へと足を向けた。
■
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島といっても、その大きさは並の小国以上の広さがある。そして水産資源や鉱物資源にも恵まれており、比較的豊かな土地だった。
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大幻霊石が砕けてからは、一時的に対岸のカルガーム王国と組んでいた時代もあるが、時が進みカルガーム王国は五国会談を通してゼルダンシア帝国の一部となった。以降はずっと対立している。
そのフォルトガラム聖武国王都にある城では、国王であるアーランディス・フォルトガラムが娘のフランメリアと会話をしていた。
「ゼルダンシア帝国からの親書……?」
「そうだ。平たく言えば、建国祭の招待状だな。何でもカルガーム領からの旅費や交通手段は全て向こうが持つ国賓待遇らしい」
「建国祭の招待状……? 何のつもりでしょう。これまで我が国にその様な親書を出したという話は聞いた事がありません」
フランメリアは明るい金髪を撫でながら不快感を示す。
年齢は18。アーランディスには2人の娘と1人の息子がいるが、フランメリアは長女だった。
彼女は気の強そうな釣り目をさらに細くし、父の持つ親書を睨みつける。
「以前通商条約の話がきた時に蹴った事があったな。おそらくその時の話の続きがしたいのだろう」
「ふん……! まさか父上、大人しく話に乗るおつもりですか!?」
一般的なフォルトガラム聖武国民の特徴として、プライドが高い。これまで一度たりとも侵略を許した事がなく、大国ゼルダンシアに唯一武力で抵抗して見せた国である。
そして高い造船技術に質の良い武具を生み出す職人の多さに、それらを支える豊富な資源と世界最強の海軍。こうした環境が手伝い、自分たちは世界に類を見ない国家であるという自信に繋がっていた。
もちろん全員がそうという訳ではない。しかしフランメリアはそういう意味でも、典型的なフォルトガラム聖武国民と言えた。
「私とて素直に応じる気はないとも。だが諜報部から気になる情報が入ってきてな」
「諜報部から……?」
「最近、帝都で政変があったのは聞いているな?」
「ええ。大貴族ヴィンチェスター・ハイラントが反乱を企てたものの、即座に潰されたことから反逆の1日と呼ばれている政変ですね」
ヴィンチェスターの反乱は既に他国に知れ渡っていた。だがその分析には様々な意見がある。
大貴族に愛想をつかさせるくらいにウィックリンは統治者として劣っているという見方もあれば、僅かな期間で反乱を抑え込んだことから、ウィックリンの手腕を褒めているというものもある。
いずれにせよ反乱を抑えたその手腕は高く評価されていた。
「うむ。その政変がどういう経緯で起こったものなのかは分からんが、実際に戦があったのは確かだ。それも帝都近郊でな」
「…………」
話の流れから、父の言う気になる情報というのがその戦にある事を感じとる。フランメリアは黙って続きの言葉を待った。
「何でもその時の戦場では、ウィックリンの私設部隊が一騎当千の活躍を見せたらしい。僅かな人数でヴィンチェスターに占領された帝都を奪還し、そのまま戦場では1人で数百人以上の敵兵を屠ったというのだ」
「……まさか本気で信じておられるのですか?」
もしそんな武力を有する人物が実在しているのなら、そもそも反乱など起こらなかったはずだ。
そんなフランメリアの考えを読み取ったのか、アーランディスは小さく頷いた。
「噂というのはいくらか誇張されるものだ。だがその噂の元になった出来事は確かにあったのだろう。そして私は、今回の政変はウィックリンの仕組んだものだと読んでおる」
「あえて自国に反乱を起こさせたと……? 帝都まで抑えさせて……?」
「そもそも不可解な点が多すぎるのだ。救援に来たのは帝国四公の一角、ゼノヴァーム領の軍であったが、あまりにタイミングが良すぎる。普通、帝都が抑えられたという情報を得てから兵を起こすのに、お前なら何日かかる?」
「……敵戦力にもよりますが。どんなに早くても2日3日は必要です。また帝都を直ぐに奪還できなかった時の事も考えると、継戦能力と補給線も意識した編成が必要になってきます。あらかじめ物資や医薬品の備蓄を進めていなければ、7日から10日は必要かと」
ここまで言ってフランメリアはまさかと両目を見開く。
「帝都を反乱軍に占領された時間はごく僅か。ゼノヴァーム領軍もその日の内に現れ、しかもその時には既に帝都は反乱軍の手から解放されていた。そのまま騎士団とゼノヴァーム領軍が合流し、反乱軍を撃破したという事だ」
「まさか……! そんな、あり得ません……!」
改めて今回の政変の異常さを理解する。ゼノヴァーム領軍の動きだけを見ると、あらかじめ帝都が占領される事を見越して近くに待機させていたとしか思えない。
そして実際に帝都は占領というほど長い時間抑えられていた訳ではないのだ。つまり。
「ウィックリンは……! 自分にとって邪魔な貴族が行動を起こす様に誘導していた……!? 自国の大貴族を使ってまで……!?」
温厚で戦う事を嫌う弱腰な皇帝ウィックリン。だがその仮面の下は狡猾かつ残忍、自分の治世の安定のためには自国の貴族すら斬ってみせる。
フランメリアはこれまで皇帝ウィックリンという為政者を勘違いしていた可能性に愕然とした。
「おそらく反乱を起こさせる日から、それをどう鎮圧するかまで全てがウィックリンの筋書き通りだったのだろう。ゼノヴァーム領軍が到着する前に帝都をとり戻していた事を考えると、あらかじめ城や皇宮のいたるところに仕掛けを施しておったのだ。占領軍は自ら猛獣の口の中に入っていっていると気づかず、喜びながら飛び込んだのだろうよ」
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やはり大国ゼルダンシアの統治者はただ者ではなかったのだ。そうとも知らず、自分はウィックリンの事を弱腰で、帝国の皇帝には相応しくない人物だと思い込んでいた。
「今はその意識が国内に向いているというだけの話だ。だがその知略が外に向けられれば……」
「前皇帝の……いえ。前皇帝以上の戦乱の世が到来する……!」
入念な準備をした上で、自分たち側はほとんど無傷で勝利を手にする。どれほど兵が精強でも、それを指揮する者の戦略眼の違いが戦局に……そして勝敗を左右するのだ。
もしウィックリンがその知略で戦端を開けばどうなるか。少なくとも政変鎮圧の手際から見て、良い結果になるとは思えない。
「我々はもしかしたらウィックリンという人物を見誤ってた可能性がある。ところでフランメリアよ。お前はこの親書、どう見る?」
「…………!」
長年の敵であるゼルダンシア帝国皇帝ウィックリンから送られてきた親書。内容は建国祭の招待。それも国賓待遇だ。
だがこの一通の手紙に一体どれほどの知略戦略が練り込まれているのか。フランメリアでは全く読みきることができなかった。
「通商条約の話し合いだけが目的ではない……?」
「さてな。そもそもこの親書には通商条約のつの字も書いておらん。だがこれはウィックリンという人物を直接目にし、その器を計るチャンスでもあると考えておる」
「それは……!」
ここで話が本題に入り、アーランディスは一度咳払いをする。
「こちらも条件付きで招待に乗ろうと思う。そしてその使節団の代表はお前だ、フランメリア。連れて行く配下は厳選しておけ。そしてゼルダンシア帝都で、フォルトガラム聖武国ここにありと示してくるのだ!」
【後書き】
お久しぶりです。
黒狼の牙ですが、しばらく毎週木曜日と日曜日を目安に更新していきたいと思います。
これまで何度か名前が出てきたフォルトガラム聖武国や、また怪しい連中が出てきます。
引き続き楽しんでいただけましたら幸いでございます。
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転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
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