黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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騒動のその後

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 こうして久しぶりとなる戦場での戦いは終わった。俺はランダインとログバーツの2人を捕えたが、右翼ではクインたちが逃げ出そうとしていたヴィンチェスターを捕えていた。

 結局背後からの強襲に成功したゼノヴァーム領軍の一撃が決め手になり、敵は全面降伏した形だ。

 敵は潰走状態、対してこちらはほとんど兵を失わなかった。完勝と言っても良いだろう。

 帝都では大きな混乱もあったが、ウィックリンは直ぐに布告を出す。

 反逆者ヴィンチェスターとその一派の手により、帝都には獣が出現していたが、反逆者たちを捕えたためもうその心配はない事。

 また復興にあたりいくらか補助金を出すという宣言も出たため、帝都はその経済活動を取り戻しつつあった。

「で、首謀者たちは処刑か」

「ええ。さすがにこの事態を招いた者たちをそのままにできるほど、陛下は甘くはありません。何より他の貴族に対して示しがつかないでしょう」

 戦が終わり10日後。黒狼会も街の復興に協力していた。

 壊された店の修理もあるし、人も雇いなおさないといけない。まぁこの辺りの細かい調整はダグドに放り投げているのだが。帝国政府が出してくれる補助金はありがたく使わせていただこう。

「処刑はまだしばらく後になりそうですけどね。テンブルク領にせよルングーザ領にせよ、その領地は広大です。血族にどこまで責を負わせるかという問題もある。少なくともその辺りの整理が完了してから、という事になるでしょうね」

「それまでいずれくる処刑の日に怯えて暮らすって訳だ。へっ、ざまぁみろってんだ」

 クインは今、ぎりぎり貴族に見えるかどうかという上等な服を着て、黒狼会の屋敷に訪れていた。そこで事の経緯を俺に共有してくれているのだ。できる弟を持てて俺は幸せだな。

「改めて。今回はお疲れだったね、兄さん」

「おお、本当にな。レクタリアの野望と城の奪還、そしてその足で戦場だもんなぁ。まぁランダインとログバーツには、父上とお前に代わってしっかり一撃入れといてやったからよ」

「はは。足がかなり大変なことになっていましたよ」

 ランダインの息子であるダンタリウスだが、今回は連座を免れた。これには危険を省みず、いち早く父の謀反を帝都にもたらしたという功があったからだ。

 もっとも、これからの貴族人生は大変なものになるだろうがな。

 そしてダンタリウスと一緒に来たヴィンチェスターの娘、ルズマリア。彼女はヴィンチェスターが帝都に侵攻してくる前に既に縁が切られており、今は母方の性になっているとの事だった。

 どちらかと言えば被害者として、同情の視線が向けられているそうだ。

「だが全部綺麗にって訳にはいかなかったな。結局七殺星も全員を倒したって訳じゃねぇし。エル=グナーデと閃刺鉄鷲の本拠地も分からねぇんだろ? まだ残党が残っている可能性はあるな」

「特に閃刺鉄鷲はほぼ確実に残っているでしょうね。元々七殺星以外にも多くの暗殺者を要している組織ですから」

 あの手の組織は完全に撲滅するのは難しいだろうな。だが帝都で目的は果たせなかったし、果たす手段そのものも失った。

 よっぽどの馬鹿でもなければ、二度と帝都に近づこうとは思わないだろう。

「そういやレクタリアの死体も消えていたんだよな」

「はい。地下空間の調査に向かったのですが、そこにレクタリアらしき人物の死体はありませんでした。見つかったのは2体の怪物の焼死体です」

「リステルマ辺りが回収したかな」

 俺も後から知ったのだが、じいさんはベインに、そしてアックスたちはリステルマに止めは刺していなかった。

 リリアーナはリステルマに個人的な恨みを抱いていたが、怪我でまともに動けないリステルマよりもレクタリアを優先したらしい。

 その判断は正しかっただろう。おかげでアデライアはぎりぎりのところで、レクタリアに肉体を奪われずに済んだ。

「リステルマにせよベインにせよ、レクタリアを強く信仰していたみたいだからな。その遺体が俺たちに奪われる前に帝都を出たんだと思うが」

「ルードもですか?」

「あいつは……分かんねぇな。あと貴族院でやり合った閃罰者の女……リニアスだっけか。あいつもな」

 ルードもその姿を確認できなかった。だがとっくに帝都からは出ているだろうな。

 まだ不穏の種は残っているものの、今回みたいなことはもうそうは起きないと思いたい。

「レクタリアがいなくなった以上、エル=グナーデももう存続できないだろう。また帝都の裏組織に手を回す用なら、こっちで何とかしてやるよ」

「助かります」

 今や影狼も実質的に黒狼会のコントロール下だからな。以前よりも帝都の治安は良くなるだろう。

「城の方はどうなってんだ?」

「ええ……。こっちはまだまとまりそうにないですね」

 今回の出来事でその立場を大きく変えた貴族は多い。

 テンブルク領に残るガリグレッドの血族をどうするか、またルングーザ領を解体するにしてもその後の統治者をどうするか。懸案事項は山ほどある。そして。

「より精強な騎士団作り……?」

「はい。第二皇子グラスダーム様が中心になって進んでいるのですが」

 ウィックリンの治世になってからというもの、中央で抱えていた騎士団はその規模を縮小し、国境と帝都に配備していた。

 帝都に務める騎士団はいくつかあるが、その大部分はクインの率いる正剣騎士団だ。

「地方領主に隙を与える戦力に問題があるとおっしゃられてまして。どうやら騎士団の規模拡大を目指しているみたいです」

「難しい問題だな。ウィックリンは無暗な領土拡大は考えていないし、それであれば騎士団は他国に圧をかけられる、必要最低限の規模にしておきたいのは普通の考えだ。無駄飯食らいを多く養うほど財政に余裕がある訳でもないだろうしな」

「はい。一方で今回の件もありますので、理解もできます。いざという時のために、精強な騎士団を揃えておきたいというのも大事なことでしょう。ですがそれは地方領主を信じていないという証左になりかねません」

「実際反乱を起こした馬鹿がいるし、やむなしだがな」

 せっかく騎士団の規模を抑えてうまく回り始めたのに、再び軍備を増強する。それは他国に対して侵略の意図があるというメッセージにもなりうる。

 外交で大陸に巨大経済圏を作りだろうとしているウィックリンからすれば、難しいところだろうな。

 俺個人としては、ある程度の戦力増強には肯定的だが。しかしウィックリンも下手に再軍備を整えて、次代の皇帝がその戦力をどうするかという不安もあるだろう。 

「それと。ゼノヴァーム領領主も帝都にやってきました」

「へぇ。帝国四公の一角じゃねぇか」

「はい。今回の乱において、いち早く救援に駆け付けた領地ですからね」

「加えて第一夫人の父でもある、か」

 実際に手柄を立ててみせた訳だし、もし帝国四公の中で格付けがあるのなら、間違いなく第一位だろう。もしかしたら自分の孫が次の皇帝になる可能性もある訳だ。

「そりゃ嫉妬心の強い貴族様からすれば、さぞ心境穏やかじゃねぇだろうなぁ……」

「ええ。報せを受けた他領の領主たちも、早速復興支援と称した資金を送ってきています。今回の波に乗り遅れたと感じているのでしょう」

「せわしないねぇ……」

 つくづく貴族でなくて良かったと思う。今さら貴族社会で生きていける気がしない。こういう政変ですら、貴族にとってはどう状況を利用し、自分がのし上がるかが重要になってくるのだろう。

 そして大量の反逆者たちが出た事で、領地を含めていくつかの席に空きがでたのだ。今からそのおこぼれを授かろうと必死なのだろう。特に旧ハイラント派の貴族は肩身が狭いだろうな。

「美味しいところはゼノヴァームが持っていくのかな? 今回援軍に駆け付けたタイミングといい、なかなか抜け目ない一族の様だが……」

「それが……。彼らは論功行賞において、第一位は陛下の秘密部隊……兄さんたちだと言って譲らないのです」

「……なんだそりゃ」

 クインの話によると、今城では俺たちの話題が連日持ち上がるという。

 たった6人で、騒ぎの裏でさらわれていた皇女アデライアを救出し、皇宮と城を解放する。さらに戦場では一騎当千の活躍を誰もが見ており、俺たちを差し置いて自分がもっとも活躍したと言い張る者は誰もいないとの事だった。

「陛下もどう誤魔化そうかいつも頭を悩ませているみたいでして……」

「ええ……。んなもん、適当に言っておけばいいのに……」

「いえ、それが。兄さんたちの活躍はあまりに常軌を逸していました。あれだけの活躍を見せたのに、またその姿を綺麗に消しているのです。みんな心の奥では怖がっているのですよ。下手に陛下に楯突けば、自分たちに秘密部隊の手が迫るのではないかと」

 一度差し向けられれば抵抗する術はない。その事が証明されたこともあり、以前よりもウィックリンに意見を述べる者は少なくなったそうだ。

「はは、なんだそりゃ。それじゃ本当に存在しない秘密部隊じゃねぇか。ま、偶然とはいえせっかくできた状況だ。うまく利用すればいいんじゃねぇか?」

「……構わないのですか?」

「……? 構う理由あるか?」

 ウィックリンの名の元に好き勝手やるというのは元々俺の案だ。そしてその大義名分があったからこそ、戦場において俺たちは独自に動く遊撃なんて自由が許された。

 こっちも肝心な時だけ好きに名を語って、後は俺たちの影響力を利用するんじゃねぇなんてケチな事を言うつもりはない。

「一応、兄さんは構わないと言っていたと伝えておきますよ」

「おう。とにかく空いたポジション決めに論功行賞、それに帝国中の貴族がおこぼれ欲しさに必死なのはよく分かった。まぁこっちは一商会として真っ当に働くからよ。お前も大変だろうが頑張ってくれや」

「はは……」

 こうして城の情報を貰えるのはありがたいが、俺にできるのは話を聞くくらいだ。実際にクインの舞台に立てる訳ではないからな。

 だが帝都の治安くらいは協力を惜しまないつもりだ。

「そういえばよ。レクタリアとの戦いの時に父上に会ったんだ」

「え……」

「お前とメルは帝国貴族に、俺も帝都で商会を営んでいる事に嘆いていたが。きっちりと謝る気はないと言っておいたからな」

「え、ええぇ……?」

「それと。あの時、自分の軽はずみな行動で俺たちに苦労をかけさせた事。悪かったと言っていた」

「……兄さん」

 あの時の不思議空間での出来事を話す。結局あの世界がどういうものなのかは分からず仕舞いだ。

 気になる点はいくつもあったが、それこそ考えても答えがでないものだろう。

「兄さん。今度、母上にお会いになりませんか? それにメルだって」

「そう……だな。分かった、一度手紙を書くよ。それを渡してくれるとありがたい」

「ええ、構いません」

 気恥ずかしさから会うのに抵抗があるのは確かだが、もう一つ気が進まない理由がある。それは俺の正体を知れば、今回みたいな厄介ごとに巻き込まれる可能性があるという点だ。

 帝都に連日放たれていた獣も、俺たちの体力を削ぐ事が目的だった。つまり黒狼会の事情に巻き込まれて死んだ者がいるのだ。

 もちろん、そもそも論でいくと行動に移した結社に原因があるのだが。そのため死んだ者に謝りはしないが、もしかしたら今後は俺の家族と言う事で、母上やメルを直接狙う奴らが出る可能性もあるのだ。

 まぁいい、今すぐ正体を明かして会いに行く訳でもないんだ。この問題はもう少し棚上げしておこう。

「ま、また落ち着いたらリーンハルトも連れて遊びに来てくれや」

「ええ。良かったら引き続きリーンの剣を鍛えてやってください」

 その後もクインとは他愛のない話をし、やがて次の仕事があると屋敷を後にした。今も忙しいだろうに、どうにか時間を作って来てくれたのだろう。

「さて……。ダグドに次の商売の相談をするか……」

 そういやリリアーナの奴。この数日見てないけど、もう国に帰ったのかな。一言くらい挨拶して行けばいいのによ。冷たい奴だぜ、まったく。

◼️


 数奇な運命を辿ってきたヴェルトであったが、ここに妹弟との再会、力を合わせての事態解決、そして仇敵への復讐を果たした。

 この事変を機に、黒狼会は帝国政府からの表彰を受けるなど、帝都でさらに躍進していく事になるのだが。

 それはまた別の話である。



【後書き】
ここまでご覧いただき、誠にありがとうございます。
「帝都の黒狼」ですが、大筋ではここで完結という形を取らさせていただければと思います。

次話からはその後の話ということで、また投稿を続けていく予定です。
しばらく週2で投稿していきますので、引き続き楽しんでいただけましたら幸いでございます。

今後とも「帝都の黒狼」を、どうかよろしくお願い致します。
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