黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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戦場のヴェルト 仇敵との決着

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「おおおお!!」

 俺は久しぶりに大剣を握り、馬に乗り戦場を駆け抜けていた。

 黒曜腕駆は相変わらず腕にしか発動できないが、この状態でも腕力が上がっているのは、幻魔歴でも経験済みだ。

 大剣を重さを感じさせない速度で振り回し、中央を単騎で突破していく。ここまで簡単に単騎駆けできるのも、理由があった。

 中央には俺の他にフィンとガードンがいる。ガードンはグラスダームの護衛をしているが、フィンは姿を消して敵陣に入り込んでいた。そこで戦場に立つ現場指揮官たちを暗殺して回っているのだ。

 おかげで最前線の戦場では、敵に大きな混乱が見られていた。

「あの仮面の男を止めろぉ!」

「た、隊長!? し、死んでる!?」

「おい、どうするんだ! 誰がどう止めるんだ!」

「囲え!」

「だからどこの部隊がどうやって! こっちはもう人がいないんだ、お前のところでやれ!」

「こっちは隊長がいないんだ!」

 混乱し、それを統制できる指揮官もいない。もはや烏合の衆以下だ。

 フィンが指揮系統に混乱を生み、俺がそこをかき乱して大きな隙を作る。そこを後続の部隊が続き、確実に敵戦力を削っていく。

 久しぶりの戦場であったが、これほど容易い状況というのも珍しかった。 

「こりゃ黒曜腕駆本来の力が戻っていれば、本当に1人で何とかなっていたかもな……!」

 大剣を旋風の様に振り回し、敵兵を鎧ごと両断していく。もはや俺が足を向ければ敵は道を開けて避ける状況になっていた。

「びびりちらかしやがって……! だが好都合だ! このまま総大将殿のところまで突っ込むとしようか!」
 



 
「グラスダーム様。我が方は中央、右翼、左翼、いずれも圧倒的です。もはや大勢は決定したと言ってもいいでしょう」

「うむ……」

 まだ戦端が開かれて間もないというのに、もう勝利はほぼ確実と言っていい状況になっていた。

 敵は右翼も左翼も瓦解し、中央はマーカスが有無を言わさぬ突破力で道を切り開いている。

 英雄譚でしか聞かない様な、敵陣の単騎駆け。まさかそんな豪傑無双の実力者をこの目で見る日がくるとは、全く思っていなかった。

「凄まじいな……! 誰もマーカスを止められないではないか……!」

「はい。右翼も左翼も仮面の者たちによって大きく戦局が傾きました」

「単騎で戦局を左右する無双の豪傑……! 父上はこれほどの者をこれまで隠しカードとして伏せておられたのか……!」

 間違いなく1人1人が一騎当千の英雄。それが自分の父に従っているという事実にグラスダームは感心していた。

(これほどの力を持ち、実際に戦場で大きな活躍を見せた。平民であれば貴族として厚く遇するであろうし、貴族であればより位が上がるであろう。それこそ思うがままの報酬を得られるはずだ。一体彼らは今までどこで何をしていたのだ……?)

 世に出れば誰もが英雄となれる実力者。そんな者たちがこれまで影に潜んでいたというのが返って不気味ではあった。

「いや、アルフォース家の者も同様の実力は持っていようが……」

「殿下。レックバルト殿率いる騎兵が敵左翼を抜いたようです」

「おお! では中央を挟撃するチャンスだな! よし、全軍陣形は維持、速度このまま! 確実に距離を詰めてプレッシャーをかけ続けろ!」

「は!」

 ここで自身も手柄に逸り、突撃をかけない辺りがグラスダームの堅実さを物語っていた。

 もはや勝利は確実。早く決着をつけるために余計な戦力を消耗するより、確実に敵に圧力を与えていき、より士気を奪う。

 同時に、敵がやぶれかぶれの行動に出た時に、冷静に対処する構えを見せていた。

「これほどあっさりと決着が着くとはな……。ふぅむ……マーカスたちは皇族に仕えるのか、それとも父上個人に仕えておるのか……」
 



 
 敵の中にはもはや脱走兵も出始めており、戦いは始まってすぐにその勝敗を分けていた。もはやここから反乱軍が体勢を立て直す事は不可能だ。

 そして俺は今、敗走する敵兵を無視してとにかく馬を走らせていた。向かうは一つ、敵の本陣。

 本陣には大体予備戦力などを配しているものだが、もはやその戦力も陣形を維持できておらず、大きく混乱しているのが確認できた。

「きたぞ!」

「仮面の男だ!」

「ここで止めろ!」

 俺に幾人かの騎兵が走ってくる。全員フルプレートの甲冑を身に纏っていた。おそらくは本陣を固める精鋭部隊だろう。だが。

「おおおお!!」

 大剣を右に左に振るい、フルプレートの甲冑ごとその身体を両断していく。たちまちその場には血と肉の雨が降った。 

「ひ……」

「な……」

 虎の子の精鋭部隊が全く歯が立たず、周囲に益々混乱が広がる。もはや俺に立ち向かってくる者はおらず、武器を捨てて逃げ出す者まで出始めていた。そして。

「…………っ!!」

 俺は遠目に馬に乗る貴族を見つける。それは音楽祭の時に見た貴族であった。 

「見つけたぞ……!」

 ランダイン・ルングーザ……! そしてログバーツ・ローブレイト……!

 俺は迷わず馬を真っすぐに向ける。相手もこちらに気付いており、慌てた様子で逃げ出す。

「逃がすか……!」

 しかしずっと走りっぱなしだった事もあり、こちらの馬は少し疲れが見えている。対して相手の馬はまだ元気そうだった。

「ち……!」

 今の俺には魔力球を飛ばすなんて事もできない。どうにかして追い付きたいところだが……! 

 少し焦りが出たものの、状況は直ぐに変わる。2人が馬を止めたのだ。その先にはゼノヴァーム領の旗を掲げた騎兵が見えた。

「左翼を抜いて背後を取れたか……!」

 左翼にはロイがいたとはいえ、かなりの速度だ。レックバルト自身、機を見つけては直ぐに行動に移せる実行力があるのだろう。

 ランダインとログバーツは焦った様子で、周りの兵士たちに指示を出す。

 何人かが俺に向かってきたが、俺はそれを尽く斬り伏せていった。そしていよいよ足を止めた2人に追いつく。

「ランダイン・ルングーザ並びにログバーツ・ローブレイトだな?」

「な……! なんだ、お前は!」

「わ、私にこの様なことを……!」

「お前たちのために多くの兵士が死んでいったのだ。上に立つ者として、相応の覚悟を見せたらどうだ?」

 2人はもはや逃げられない事は察しているだろう。自軍が負けたという事も。俺はゆっくりと馬を進める。

「くく……しかしあれから12年……いや、こっちじゃ30年か。まさか時を経てこんな機会が得られるとは思わなかったぜ……」

「な、なにぃ!?」

「く……! 降伏する……! 貴族の捕虜として、丁重に扱ってもらうか!」

 敗軍の将が随分といきがっているもんだ。だが2人からは緊張の表情が見える。

 ここで降伏すると宣言しても、俺の気一つで殺されるというのは分かっているのだろう。しかし俺は安心させる様に頷いた。

「降伏を認めよう。馬から降りるが良い」

「ふん、いいだろう」

 殺されないと安心したのか、2人は言われた通りに馬を降りる。俺も馬を降りて2人の側まで近寄った。

「いいか! 我々に危害を加えない様に、後ろの騎兵部隊にもちゃんと言うのだぞ!」

「お前の役割は私たちを無傷で帝都に連れて行くことだ! わかったな!」

 ……なんだ、こいつらは。こんなのが、かつてディグマイヤー領に侵攻し。国を帝国に売ったのか。

 そして父上は死に、残された家族は帝国で肩身の狭い生活を強要された訳だ。 

「おい、聞いておるのか!」

「だいたいなんだ、その仮面は! 我らに対して無礼であろう! さっさと……!」

 俺はログバーツの足元にローキックを放つと、そのまま地面に転がす。そしてその足を思いきり踏みつけ、骨を折った。

「ぐ……! ぎゃあああああああ!! あ、ああああ! きさ、きさまぁ!?」

「な、何を……!」

 続いてランダインの胸倉を掴み上げ、そのまま地面に叩きつける。そしてログバーツ同様、力一杯その足を踏み砕いた。

「ぎゃあああああああああ!! あ、がぁぁあああああ!!」

 2人ともそこそこの年齢だからな。その歳でこの怪我は堪えるだろう。

「きさ、まぁ……! よく、よくもぉお!」

「無礼なぁああ!! ゆ、ゆる、許さんんんんん!!」

 額に大量の汗をかきながらも元気に吠える。俺は仮面越しに殺気を込めた視線をぶつけた。

「黙れ」

「…………!」

 本当ならここでしっかりと息の根を止めたいところなのだ。だがこいつらには反乱軍の当事者として、責任を追う必要がある。裁くのはあくまで帝国の法だ。

 それにそっちの方が、こいつらにとっては辛いことになるだろう。

「生憎と俺はお前たちを縛る縄を持っていない。これはお前たちが逃げ出せない様にという処置だ」

「んな……!」

「だがまぁ、私怨があったのは認めるぜ。俺はお前たち2人をずっと許せずにいた。あの時からずっとな」

「な、なに……!? 何を言っている……!?」

 俺は倒れ込むランダインの顔近くに大剣を勢いよく降ろす。ランダインはヒッと息を飲んだ。

「かつてお前たちに父と領地を奪われたが。それが時を経てこういう形に落ち着くとはな。人生、自分の行動がどこでどういう風に返ってくるものか分からんと思わんか?」

「な、にを言っている……!? お前は誰だ……!?」

「ヴェルトハルト・ディグマイヤー。だがこの名を覚えておく必要はない。ここにはもういない、過去の亡霊だからな」

「は…………?」

 どうせこいつらは死刑だろうしな。だがこの場でディグマイヤーの名を名乗ることには意味がある。ヴェルトハルトとしてのケジメであり、父上に対する義理でもあるのだ。

 しっかりとディグマイヤーの名を名乗った上で決着を付けたのだ。またどこかで父上に会った時、良い土産話になるだろう。
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