黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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帝都を目指す王女 帝国の情報

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 フォルトガラム聖武国の王女、フランメリアは数百名からなる使節団を率いてカルガーム領領都を発った。

 周囲を固めるのは帝都から派遣されてきた騎士たちに、各地の領兵だ。しかしその中にリーンハルトとビルツァイスの姿は無かった。
 
 フランメリアはここから数日かけて各地を観光しつつ帝都を目指す。その費用は全て帝国持ちだった。
 
「どうせなら各地で贅沢な待遇を要求し、帝国の財政を傾けさせましょう」

「うふ、いいですね! それに帝国領の地形情報など持ち帰るチャンスにもなります!」
 
 使節団一行の中心を進む一台の豪華な馬車。そこではフランメリアと侍女兼秘書兼護衛であるエルナーデが会話をしていた。
 
「で、あなたには先に大陸に渡ってもらっていた訳だけど。ちゃんと情報は集めてきてくれたの?」

「それはもう! でも姫さま、びっくりすると思いますよー!」
 
 フォルトガラム聖武国にも諜報員たちとそれを統括する部署が存在する。そしてフランメリアは万能秘書エルナーデを先に大陸へ派遣し、そうした諜報員たちと情報の共有及び管理をお願いしていた。合流したのは昨日だ。
 
 フランメリアはエルナーデから帝国……特に帝都と政変についての話を聞く。
 
「では短時間で反乱が鎮圧されたのは間違いではないのね」

「はいです。しかも皇族はもちろん、ヴィンチェスターの敵対派閥に死者はほとんど出ていません。この反乱で一番得したのは……」

「元々ヴィンチェスターとは逆路線の政策をとっていた皇帝ウィックリン。そしてエルヴァールね」

「ですです。政変以降、誰も皇帝の意向に対して正面きって反対できなくなりましたからね。唯一、第二皇子が軍拡路線に意見を言うくらいでしょうか」
 
 フランメリアは改めて政変について考えを深める。やはり全てがウィックリンの手のひらの上だったのは間違いないだろう。

 争いを避ける弱腰皇帝の皮を被り、その仮面の下には謀略を得意とする冷徹な策士の顔が隠れていたのだ。
 
「今やウィックリンはその強大な権力を振るい放題という訳ね」

「どうやら政変で初めて姿を見せた、ウィックリン皇帝直属の秘密部隊の存在も関係しているみたいですぅ」

「少人数で占領された城と皇宮を解放し、戦場では一騎当千の活躍を見せたという噂の? さすがにそれは誇張が過ぎるでしょうけど……」

「はいです。そんな怪物、さすがに人間じゃありませんからねー。でも噂の元になった者たちはちゃんと実在するみたいですよぉ」
 
 ウィックリンの私兵だけあり、並大抵の兵士でない事は分かる。強力な戦士なのは間違いない。

 しかもこれまでずっと秘されていた者たちなのだ。ウィックリンにとっても虎の子の戦力なのは間違いない。
 
「なんとかその者たちを表舞台に引きずり出したいのだけれど……」

「んですねぇ。情報屋によると、確認された人物は全部で6人。その全員が、貴族が仮面舞踏会で身に付ける様な仮面をしていたとか」

「なにそれ」
 
 戦いにおいて、視界を制限する防具は防御力が高くなければ意味がない。貴族がパーティで身に付ける仮面に、防具としての信頼性などあるはずがない。つまり戦場で身に付ける意味がないのだ。
 
「意味分からないのだけど……」

「どぅーしても顔を隠したかったんでありますかねぇ」

「それにしてももっとこう、他にあるでしょ」
 
 フランメリアはエルナーデから帝国の主な貴族についても情報を聞いていく。主だった者は既に知っている者がほとんどだった。
 
「やっぱり用心すべきはウィックリンとその私兵たちね」

「それですが。皇帝の秘密部隊については帝国貴族たちも気にしているんですよ」

「……そういうこと。本当にウィックリン以外には知られていなかったのね」

「ですです。急に現れた謎のつよつよ戦士たち。その正体はいかに!? ……と考えているのは、私たちだけではないという事でありますな」
 
 話に続きがある事を感じ取り、フランメリアは先を促す。
 
「で、帝国貴族の間でも様々な憶測が飛んでいるのでありますよ。中には幻魔歴に存在した傭兵集団群狼武風。その技能を今に伝える組織を皇帝が抱えているのでは、というのもありますです」
 
 フランメリアはエルナーデの話を聞き、なるほどと考える。

 有名な暗殺組織として閃刺鉄鷲が存在するが、似た様な組織をウィックリンが個人的に抱えている可能性はある。
 
「また他にも、群狼武風が過去から今の時代に来て、皇帝が秘密裏に傘下に収めているという噂も……」

「はぁ? なによそれ。群狼武風ってあれでしょ。大昔にゼルダンシア王族に雇われていたという……」

「はいです。当時平民にも関わらず、魔法の祝福を受けたと言われる傭兵団ですね。実は極短期間、ガラム島で活動していたという記録もあり、折れた聖剣の他にも当時使用されていた武具のいくつかが王家で保存されているのですが……」

「知ってるわよ。……はぁ、もういいわ。結局眉唾な噂が流れるくらい、誰も正体が掴めていないという事でしょう」
 
 続いて帝国の経済状況や地方領主の統治について話を聞いていく。

 経済はウィックリンの治世になってかなりの成長を見せているが、領地間で差があるのも事実だった。
 
「そうそう、帝都で今一番有名な商会があるのでありますよ」

「帝都で有名な商会……?」

「ですです。黒狼会というのですが、調べたところかなり興味深い商会でした。きっと姫さまも気に入ると思うのですよ」

「なによそれ」
 
 意味が分からないまま、フランメリアは受け取った資料に目を通す。だがその表情は直ぐに真面目なものに変わった。
 
「…………」

「んふふー! どうです? 気に入ったんじゃありません?」

「そう……ね。ここに書いてあるのが事実ならだけど……」
 
 資料には黒狼会のおおよその情報が記されていた。

 代表を務めるヴェルトは帝都に来るなり一瞬で2つの暴力組織をまとめ上げた。さらにそのすぐ後には別の暴力組織兼商会を吸収しており、以降もその勢力を順調に拡大し続ける。

 ついには帝都を二分していた闇組織の一つ、冥狼と正面から衝突するが、とうとう帝都から冥狼を追い出す事に成功する。そして。
 
「今や帝国貴族や皇族とも関係があり、傘下の組織も含めると帝都に広く影響を持つ組織に至ったと……」

「さらに結社絡みの騒動にも関係していますね。例の実験獣相手に、連日帝都で戦い続けていたという情報もあります」

「…………」
 
 文面だけでは見えてこない部分が多い。しかし文面だけで大きなインパクトを残しているのも確かだ。
 
(黒狼会代表、ヴェルト……とんでもない才覚の持ち主ね……。部下の能力も関係しているのでしょうけれど、暴力組織を束ねつつ、今や商会としての顔を使って各方面にコネを築いている。何十年もかけたのならともかく、黒狼会自体はまだできて1年くらいだというのに……)
 
 高い実力とそれを十全に活かせる行動力、そして強い精神力を持ち合わせているのだろう。

 フランメリアはエルナーデの言う通り、ヴェルトのことが気に入った。それにその名はガラム島とも多少の因縁がある。
 
 元々フランメリアは能力主義なところがあるのだ。人を束ねる立場に貴族が就くのは当然だが、その補佐には有能であれば平民でも良いと考えている。

 実際に自分も平民を多く活用しているし、エルナーデも生まれは平民だ。今は自分の侍女を務めるために、とある貴族家の養子になっているが。
 
「いいわね。人格に問題がない様であれば、ガラム島に連れ帰りたい逸材だわ」

「世界最大の市場を誇る帝都でこれだけの成果を出していますからね。……お会いになられますか?」

「できるの?」
 
 エルナーデはニンマリと笑みを浮かべる。
 
「お望みなら帝都在住中に話せる様に、場を整えましょう。帝都に潜入している者たちの中には、高級ラウンジを経営している者もおります。やり様はいくらでも」

「そう。ならお願いするわ。それと、予定を一部変更してもらいましょう」

「……と、いいますとー?」

「できるだけ真っすぐ帝都に向かってもらって、観光地巡りは最低限にします。訪れなかった地については、帰りに時間があれば寄らせてもらいましょう」

「わっかりましたぁ! ふふ、どうやら本当に気に入られた様ですね!」
 
 腕っぷしが強いだけでは、帝都に巣くう暴力組織をまとめ上げる事はできない。それに容量が良くなければ、商人としての顔と使い分ける事もできないだろう。
 
(もしくは誰もが逆らえないと確信する様な、圧倒的な力を持っているのなら話は別なのだけれど)
 
 なんにせよヴェルトが高い能力を持っているのは間違いない。帝都に行くのもまったくの無駄足にはならないか。フランメリアはそう考えた。
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