鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

木本 彩月

「監督！
もういいんですか？」

部長の山口努は今日から復帰した監督の木本 彩月に声をかけた。

「ええ。なんとかね
まさか自分が感染しちゃうとは思ってもみなかったけど、部員に感染らなくてよかったわ。

それよりもちゃんと練習を見てくれてたの？」

「監督から送られてきた練習リストをこなすように指示しておりました。
新田もみんなを引っ張って頑張ってくれましたよ。」

「そう。」

木本はコートで練習をするバレー部員達を見つめ、頷いた。

木本 彩月36歳　独身
この鐘ヶ岡学園バレーボール部のOGであり、歴代最強と言われた時代の最後の主将

木本がキャプテンのとき、春高バレーで準優勝を達成したのを最後に、鐘ヶ岡は一度も全国大会に出場出来ていない。
以後の全国大会には全て紅陽学院が出場し、全国においても好成績を上げている。

鐘ヶ岡が低迷を続ける中、再建を託され、五年前に監督に就任した木本は、自身が所属していたVリーグの練習方法を独自にアレンジして、チーム内に新しい風を呼び込んだのだった。

しかし、その木本を以てしても、紅陽の壁を打ち崩す事が出来ず、過去四年間は全て決勝で敗北。
木本のプライドはズタズタに傷つけられた。
そんな中、天才少女新田まどかの出現は木本にとっても大きな事であり、まどかが三年になった今年が最大のチャンスだと、誰に言われるまでもなく、この一年に賭けていた。


「部長！」

山口は木本に呼ばれて、ビクッとして振り返った。

「まどか、何かあった？」

「何かとは？」

「見てわかんないの？
動きが全然違う。」

「そう言われれば…」

「まあ、いいわ」

身長は183センチあり、痩せ型で女性的な魅力に乏しい木本には独特の威圧感があり、山口は常に彼女の顔色ばかりを窺う日々をすごしていたが、再びそんな日々が続くと思うと、ゾッとした。