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2.手記
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「これですわ・・・」
観念した彼女はその「日記帳」とやらを自分の部屋から持ってきた。そして、僕の前にそっと置いた。
それは、「日記帳」と言うにはあまりにも真新しいノートだ。
僕はそれを手に取ると、パラパラッと雑に目を通す。
その様子をキャロラインはハラハラとした表情で見守っている。
「はあ~~・・・、やっぱりね・・・」
僕は大げさに溜息をついた。
「やっぱりって・・・? やっぱり・・・、わたくしのことは嫌いだったのでしょう? その・・・、アーノルド様の好きな人って・・・、シャーロットなのでしょう・・・? わたくしの従妹の・・・」
キャロラインは顔を伏せた。
「んー、この『日記帳』ではそうなっているね」
日記帳に目を落としながら答える。
「『アーノルド様はわたくしのことを嫌っているわ。あの方の好きな人はシャーロットなのよ。悲しいけれど、それを認めなければいけないわ』」
「ちょっとぉ!! 朗読しないで下さらないっ?!」
「『今日もアーノルド様から冷たい目を向けられた。シャーロットに冷たくするな!と怒られた。可愛いシャーロットが婚約者だったらよかったと言われた。やはり、わたくしは身を引くべきなのね』」
「止めて下さいってば!!」
「『今日はアーノルド様がシャーロットに花束を渡しているところを見てしまった。彼は蕩けるような優しい瞳で彼女を見ている。あの瞳がわたくしに向けられることはないのね』」
「いや~~っ!!」
キャロラインは真っ赤な顔で自分の耳を塞いだ。
「うーん、どれもこれも、僕には記憶がないんだけど」
「へ・・・?」
耳を塞いだまま、キャロラインはポカンとした顔で僕を見た。
「僕の方こそ記憶喪失になってしまったのかな? そんなことないよね?」
「嘘・・・。だって、シャーロット本人も、アーノルド様と両思いだって言っていたわ・・・」
「シャーロットのことは覚えているの?」
「いいえ・・・、彼女のことも思い出せません・・・。でも、我が家で預かっている従妹だって・・・」
「うん。そうだね、半年くらい前からだったかな? 君の家で令嬢教育を受けている子爵令嬢だ」
僕は日記帳を開いたまま、ローテーブルに置いた。
「結論から言って、この日記帳は君が書いたものではないよ」
「はい?」
「だって、これは君の筆跡じゃない」
開いているページをトントンと人差し指で叩いた。
「僕たちは婚約者同士だよ? 手紙のやり取りだってしている。君の筆跡は一目で分かるよ」
「わたくしの字じゃない・・・? まさか・・・?」
キャロラインは目をまん丸にして手記を覗き込む。記憶喪失とは恐ろしいものだ。自分の筆跡も忘れてしまうなんて。
「本当さ。疑うなら、ここの余白に自分の名前を書いてごらん?」
キャロラインは大きく頷くと、ペンを持ってきて、僕に言われた通り余白に自分の名前を書いた。そして、自分の書いた字を見て、信じられないとばかりに目を見開いた。
「ほらね。全然違うだろう?」
「ええ・・・」
「日記帳の字の方が、君の字より遥かに綺麗だ」
「・・・さりげなくディスっていません? アーノルド様」
「それに」
僕は日記帳を閉じると、手に取り、彼女の顔に表紙を近づけた。
「日記帳と言う割には、かなり新品なノートだと思わないかい? 数か月前から書いているとは思えないほど新しいじゃないか」
「言われてみれば・・・」
「ここ数日で一気に書いたんだろうな。きっと」
「そんな・・・」
「日付がないのがいい証拠。日記帳のくせにね」
「確かにそうだわ・・・」
「そもそも、君みたいに飽きっぽい子が日記なんて付けられると思えないし」
「あれ? またディスりました?」
僕は日記帳をポイッとローテーブルの上に放り投げた。
「こんな偽造品に僕たちの未来を翻弄されたくないよ。冗談じゃない」
「偽造なの・・・? これ?」
「明らかにそうだろう? 君の字じゃないんだし」
「じゃあ・・・、シャーロットのことは・・・」
「彼女には悪いけど、興味無いな」
というより、この「日記帳」でかなり引いたね。
彼女が僕に色目を使っているのは分かっていたが、カンザス伯爵家に迷惑を掛けてはいけないと思って黙っていたんだけれど。こうなったら即刻伯爵家からから出て行ってもらうように取り図らなければ。
観念した彼女はその「日記帳」とやらを自分の部屋から持ってきた。そして、僕の前にそっと置いた。
それは、「日記帳」と言うにはあまりにも真新しいノートだ。
僕はそれを手に取ると、パラパラッと雑に目を通す。
その様子をキャロラインはハラハラとした表情で見守っている。
「はあ~~・・・、やっぱりね・・・」
僕は大げさに溜息をついた。
「やっぱりって・・・? やっぱり・・・、わたくしのことは嫌いだったのでしょう? その・・・、アーノルド様の好きな人って・・・、シャーロットなのでしょう・・・? わたくしの従妹の・・・」
キャロラインは顔を伏せた。
「んー、この『日記帳』ではそうなっているね」
日記帳に目を落としながら答える。
「『アーノルド様はわたくしのことを嫌っているわ。あの方の好きな人はシャーロットなのよ。悲しいけれど、それを認めなければいけないわ』」
「ちょっとぉ!! 朗読しないで下さらないっ?!」
「『今日もアーノルド様から冷たい目を向けられた。シャーロットに冷たくするな!と怒られた。可愛いシャーロットが婚約者だったらよかったと言われた。やはり、わたくしは身を引くべきなのね』」
「止めて下さいってば!!」
「『今日はアーノルド様がシャーロットに花束を渡しているところを見てしまった。彼は蕩けるような優しい瞳で彼女を見ている。あの瞳がわたくしに向けられることはないのね』」
「いや~~っ!!」
キャロラインは真っ赤な顔で自分の耳を塞いだ。
「うーん、どれもこれも、僕には記憶がないんだけど」
「へ・・・?」
耳を塞いだまま、キャロラインはポカンとした顔で僕を見た。
「僕の方こそ記憶喪失になってしまったのかな? そんなことないよね?」
「嘘・・・。だって、シャーロット本人も、アーノルド様と両思いだって言っていたわ・・・」
「シャーロットのことは覚えているの?」
「いいえ・・・、彼女のことも思い出せません・・・。でも、我が家で預かっている従妹だって・・・」
「うん。そうだね、半年くらい前からだったかな? 君の家で令嬢教育を受けている子爵令嬢だ」
僕は日記帳を開いたまま、ローテーブルに置いた。
「結論から言って、この日記帳は君が書いたものではないよ」
「はい?」
「だって、これは君の筆跡じゃない」
開いているページをトントンと人差し指で叩いた。
「僕たちは婚約者同士だよ? 手紙のやり取りだってしている。君の筆跡は一目で分かるよ」
「わたくしの字じゃない・・・? まさか・・・?」
キャロラインは目をまん丸にして手記を覗き込む。記憶喪失とは恐ろしいものだ。自分の筆跡も忘れてしまうなんて。
「本当さ。疑うなら、ここの余白に自分の名前を書いてごらん?」
キャロラインは大きく頷くと、ペンを持ってきて、僕に言われた通り余白に自分の名前を書いた。そして、自分の書いた字を見て、信じられないとばかりに目を見開いた。
「ほらね。全然違うだろう?」
「ええ・・・」
「日記帳の字の方が、君の字より遥かに綺麗だ」
「・・・さりげなくディスっていません? アーノルド様」
「それに」
僕は日記帳を閉じると、手に取り、彼女の顔に表紙を近づけた。
「日記帳と言う割には、かなり新品なノートだと思わないかい? 数か月前から書いているとは思えないほど新しいじゃないか」
「言われてみれば・・・」
「ここ数日で一気に書いたんだろうな。きっと」
「そんな・・・」
「日付がないのがいい証拠。日記帳のくせにね」
「確かにそうだわ・・・」
「そもそも、君みたいに飽きっぽい子が日記なんて付けられると思えないし」
「あれ? またディスりました?」
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「偽造なの・・・? これ?」
「明らかにそうだろう? 君の字じゃないんだし」
「じゃあ・・・、シャーロットのことは・・・」
「彼女には悪いけど、興味無いな」
というより、この「日記帳」でかなり引いたね。
彼女が僕に色目を使っているのは分かっていたが、カンザス伯爵家に迷惑を掛けてはいけないと思って黙っていたんだけれど。こうなったら即刻伯爵家からから出て行ってもらうように取り図らなければ。
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