喪女に悪役令嬢は無理がある!

夢呼

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102.自分も努力を

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千鶴の帰った後、椿は机に座り、目の前の一輪挿しの花瓶に飾られているガーベラをジッと見つめた。

これはセオドアがオフィーリアに送った花。でも、最終的には柳が自分にくれた花。

『あなたは運命の人』

この言葉が椿の胸に深く浸み込む。
ある意味、柳は運命の人だ。異世界に一緒に入り込み共に過ごすという有り得ない経験をしたのだ。その時は、紛れもなく二人は運命共同体だったのだ。

それなのにこのまま疎遠になってしまっていいのか? 折角、同じ世界に生きているというのに! 
確かに、陽キャと陰キャは生息域が違う。だが、生きる世界は一緒だ。同じ空の下、同じ空気を吸って生きているのだ。オフィーリアのように二度と出会えることも触れ合えることもできない異世界ではない。手を伸ばせば触れることが出来る同じ世界に生きているのだ。だから・・・!

(やっぱり、私は柳君とお友達でいたい!)

椿は両手の拳をギュッと握った。

柳にちゃんと伝えてみよう。自分は柳のお友達でありたいと。
自分のような喪女が人気者の柳の近くにいつも一緒にいれるなんて思わないし、そこまで多くは望まない。だが、たまに話してもらえる程度の友達ならばなれるのではないか。優しい柳のことだ、きっと許してくれるに違いない。

(それに・・・)

椿は机の上にある可愛らしい花柄模様の缶に手を伸ばした。その蓋を開けると、まるで宝物にでも触るようにそっと何かを取り出した。
それは切れたミサンガだった。

『たくさんお友達が出来たらいいね!』

今日の千鶴の言葉が蘇る。
きっと、自分でも気が付かなった気持ちを千鶴は気が付いていたのだ。

『自分だって努力しなきゃダメだ。自分だって心を開かなきゃ』

同時にこの言葉も脳裏を過る。

「うん! 努力しなきゃ!」

いきなり喪女を脱するのは無理だとしても、徐々に徐々にゆっくりでいいからコミュ障を克服しよう。できなくたっていい、友達を作る努力はしてみよう!

「とにかく明日、柳君に友達になって欲しいって伝えよう!」

明日は金曜日。もしも柳に断られても、翌日は土曜日で学校は休み。翌日気まずい思いを引きずりながら学校に行くこともない。土日の二日もあれば少しは回復するだろう。この二日間は心強い。

決戦は金曜日

母の大好きなドリカムの歌にあった。
その通り。決戦は金曜日にするものだ。

椿は妙に納得しながら、力強くガーベラを見つめた。


☆彡


翌朝、椿はいつものように早く登校し、誰もいない中庭の花壇の水やりをしていた。
水やりをしながら、今日の段取りを考える。

(いつ、どのタイミングで柳君に声を掛けよう・・・?)

人気者の柳にの周りにはいつも人がいる。
いくら決心をしたからと言っても、人集りを押しのけてまで柳に話しかけるほどの気合は注入してきていない。
かと言って、昨日、あんな風に自分から話をぶった切っておいて、再び柳に話しかけてもらえる可能性は限りなくゼロに近いだろう。

(うーん、どうしたものか・・・)

じょうろの口先から流れ落ちる水を見ながらひたすら考えていると、

「おはよ、山田」

「あ、おはようございます・・・」

突然、挨拶され、てっきり通りすがりの教員かと思い、声のする方へ振り向いた。
そこには柳が立っていた。

「ふあああ!」

思いもよらぬ本人の登場に椿は腰が抜けかけた。

「え? え? 何でそんなに驚く?」

柳は驚く椿を見て驚いている。

「い、いえ! あ、朝早いのに、声を掛けられて、そ、その、ちょっとビックリして」

「ちょっとって感じじゃねーけど」

「すみません、すみません!」

椿はじょうろを両手に抱え直し、ペコペコと柳に頭を下げた。

「いや、謝んなって・・・。ってか、謝るのなら俺の方だろ? きっとさ」

柳は頭を掻きながら、気まずそうに椿を見ている。そして、一息深呼吸すると意を決したように、椿に近づいてきた。

「あのさぁ、山田。俺、昨日、山田を怒らせるようなこと言った?」

椿の傍に立つと、顔を覗き込んできた。

「昨日の昼飯の時、急に図書室に行っちゃうし。待ってって言ったのに。気になって帰りに声を掛けようとしたら、ガン無視して帰っちゃうし・・・」

「え? ガン無視・・・?」

その記憶はないが、確かに柳の事を見るのが気まずくて、なるべく彼の方を見ずに急いで帰ったことは覚えている。

「俺、何かヤバいこと言った? ごめんなぁ」

「違います、違います! 柳君が謝ることなんて一つも無いです! 山田が挙動不審な行動を取ってしまったせいで誤解をさせてしまいました! ごめんなさい!」

「誤解?」

「はい! 誤解です、誤解! 怒ってなんていないですよ! というよりも、山田が怒るなんてお門違いですよ! こちらこそ、嫌な思いをさせてしまってすみません!」

「別に、嫌な思いはしてねーけど・・・」

どこか歯切れの悪い柳を見て、椿は益々焦ってきた。願い事を言う前に機嫌を損ねてしまったか?

(どうしよう・・・)

「ま、怒ってねーんならいいんだけどさ・・・」

椿がオロオロしていると、柳が少し拗ねた顔をしてそっぽを向いてしまった。

(やばい! 怒ってらっしゃる! これじゃ、お願いする前に終わってしまう!!)

椿は自分に活を入れた。

「でもさ、山田。昨日はちょっと寂しか・・・」
「柳君!!!」

何かを言いかけた柳を遮って、椿は叫ぶように名前を呼んだ。
驚いた柳は目をまん丸にして椿を見つめた。

「柳君!!! 実は大切なお話があります! いや、お話と言うかお願いがあります!!」

「は、はいっ! なんでしょーかっ?!」

椿の勢いに圧され、柳はピンッと姿勢を正した。

「柳君! どうか、山田とお友達になってもらえないでしょうか!?」

椿はじょうろを両手に抱いたまま、深々と柳に頭を下げた。

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