目が覚めたら奇妙な同居生活が始まりました。気にしたら負けなのでこのまま生きます。

kei

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森へ行こう。

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 孤児院ライフも日を経れば意外と慣れる。お風呂については今後の課題だ。毎日ではないが身体は拭かせて貰っている。今は我慢だ。

 
 今日は、アイナが待ちに待った森へピクニック採集に行く日である。
 初めての森。天気は良好。アイナは幸先の良さを感じて満足気だ。参加者は孤児院の子供とご近所の子供。引率者は青年だって。


 (うわ~い、楽しみ~やっと外出できる~)



 今までアイナは外出の許可が出ずにお留守番ばかりだった。
 娯楽もカードも遊具も‥…本すらない孤児院で時間を持て余すしかない彼女は暇で暇で苦痛を紛らわせるのに難儀していた。
 
(まあ、退屈凌ぎで掃除しては倒れて寝込んでいたから意外と暇ではなかったっけ)

 アイナは孤児院の発見時に高熱で寝込み、脱走して行き倒れ、掃除や洗濯、水運び、どれをやらせても倒れて寝込む。今や立派なお荷物と化していた。

 不名誉過ぎると名誉挽回を試みたが結局最後は寝込むだけなアイナに皆は確証を得た。『記憶喪失の虚弱体質なお金持ちの子供』はそうそう返上できなさそうだ。ガックリと項垂れるアイナであった。

 (ちょ、こんな筈ではなかったのに。今の私って小汚い上に虚弱要素追加されるって‥…マイナスじゃん! 私ここでやっていけるの?)

 危機感が募るアイナ。自分一人ちゃかりお湯を貰っている身。いつ誰かにずるいぞと言われたらお湯の確保が難しくなる。それだけは是が非とも避けたいことだ。画策する。

 最近のアイナの関心事はお風呂は勿論だが、如何に自分の存在価値を示すのか、これだ。今のままでは、ごく潰しである。居た堪れない。

 まさか、生まれ変わった見知らぬ土地で自分の存在価値を誇示しなければならない状況に陥るとは思いもよらなかったと幼女の自分に優しくない環境が恨めしくなっていた。

 そんなアイナの数少ない活躍(?)が出来る日である。張り切り度は無駄に高い。アイナのお目付け役は引率者の青年だ。無論、足手まといだからだがその事実をアイナは知らない。

 森に連れて行けと日々煩いアイナを黙らせるために今日の同行を許したジェーンの思惑など全く感じないアイナは上機嫌で出発した。





 孤児院の前では既に子供達や引率者が待っていた。ここからが一番森に近いのだそうだ。皆めいめい背中に籠?を背負っている。何だか児童労働を彷彿させる光景だと口元が引き攣る。

 
 「やぁ、君がアイナちゃん? 俺はモルト、今日はよろしくね」

 引率の青年は爽やか笑顔で挨拶をくれた。目に優しい茶色の髪だ。


 (おおお、茶色‥‥‥ホッとするぅ~)

 
 髪が茶色なだけで好感度は爆上がりだし視線をあわせて挨拶してくれた点も高ポイント。子供の扱いに慣れてるっぽい好感の持てるお兄さんだった。

 「はい。アイナと申します。モルトさん、今日はお世話になります。足手まといになるかも知れませんがどうぞよろしくお願い致します」
 
 アイナは打算から好印象を与えるべく真面目に挨拶をした。

 一瞬モルトは目を見開いたが直ぐに柔和な表情で「ははは、アイナちゃん挨拶がちゃんと出来るんだね。えっとぉ…記憶が無いって本当かい? その言葉遣いや名前は憶えていたんだ‥…」

 (うわぉ、言葉遣い? 不味かったのこれ?)

 意外な点を突かれたと内心焦るアイナだが誤魔化せば済むかと割と平気。

 「モルトさん、あの、私名前も何も覚えていません。この名前は思いついただけです。そ、その言葉遣いは‥…勝手に出ました」

 (これでいいよね、ふふ完璧~)

 「‥‥‥ふぅん、そうか、それは何というか大変だったね。ジェーンさんの話だと貴族かも知れないって話だけど‥…何も思い出せない?」
 「はい。全く思い出せません。皆さん私を貴族の娘だと思われているみたいですが‥…すみません何も思い出せなくて」

 モルトさんは気にしなくていいよ、辛いこと聞いて悪かったねと謝ってくれた。優しい人で良かった。

 (これは、好感触だよね~)

 アイナはモルトに気に入られたらお湯を貰おうと企んでいた。手桶一杯でも有難いが出来るならお湯に浸かりたい、それが駄目ならせめて足湯。必死に縋る予定である。




 森への道中、私の歩みを気にしながら歩いてくれていたのだが3mも行くか行かないかで謝られた。まだ後ろに孤児院の門がはっきり見える。

 「ごめんねアイナちゃん。このペースだと森に着くまでにお昼過ぎちゃうからね、ちょっと失礼」

 そう言ってモルトさんは私をひょいっと抱き上げた。

 (ひぇぇぇぇぇぇぇ! お、男の人に、抱き上げられた――――――!)

 急に視線が高くなった驚きと抱き上げられた驚きのダブルで鼓動が凄いことになっていた。動揺が隠しきれない。

 (ど、どひゃーーーーー! は、恥ずかしいぃぃぃ)

 前の人生でも色恋に縁のなかった愛奈、人生初の異性からの抱き上げに戸惑いが酷い。

 当のモルトは高い視線に驚いたのかと「ああ、高くて怖かったかな? でもこうしないと森に着けないから、怖かったら目を閉じていていいよ」あくまで子供に対しての対応だ。

 「はぁい、だ、だぁい丈夫です‥‥」

 意識し過ぎた自分が恥ずかしいと羞恥に悶えるアイナであった。

 そして小汚い自分を平気で抱き上げてくれるモルトはやっぱり人の良いお兄さんだと再認識した。

 (きっと頼めばお湯をくれるよね‥‥)仄かな期待に胸が弾む。

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