301 / 365
第十二章 分水嶺
余談・ある日の
しおりを挟む皇子率いる使節団が王国に入国する数日前。
王族の中でもごく限られた人間しか知らされていない某所にて。
地下牢に閉じ込められた人物のもとへ一人の訪問者が。
朦朧とした意識のまま身を横たえる人物へ蔑みの視線で。
「どうです? 神の遣わした守護者様の従順なしもべへと回心しましたか?」
この場に訪れた長身の見た目二十代後半と思わせる美しき男が、問う。
「いえ、まだ抵抗しております。しかし、ここまで抗うとは予想以上です。長年精神干渉を受けておきながらいまだ抗うとはなかなかのお方です。ですが時間をかければ「それでは困りますね。時間が無いのをわかっているのですか? どんな手を使ってもよいのでさっさと仕上げなさい」は、は、いぃ!!」
命じられた男は身を震わせながら諾と答えた。否とは言わせない迫力があったのだ。心の中で手段を問わずとなればできなくはないが精神が壊れてしまう可能性に思いを巡らせ、ゴクリと飲み込んだ。
上に命令された自分は拒否などできないと保身の心に言い訳をする。
「時間が惜しい」
立ち去る男が心底時間が無いのを悔いる声が身を震わせる男の耳に微かに届く。
(ああ、何としてもやり遂げなければ)
握り込んだ手にグッと決意の力が籠る。できなければ自分の首が飛ぶ―――男は自分の首に手を置いて恐怖で正常な判断ができないでいた。やらなければ。その一言が脳裏を占めた。
室内には手で首を確かめる男と、守護者のしもべに成れと強要された男‥‥無言のジオルドが残された。
ーーーーーーーーー
「母上、ご機嫌麗しゅうございます」
「あら、来たのね。ふふ、久し振りですこと。肩ぐるしい挨拶はいらないわ。さぁ、其方の顔を母に見せておくれ」
母に手招かれ喜びが隠せない。歩を進め手を取りその指先に軽く口を付ける。臣下としての挨拶でもあり紳士としての振る舞いでもある。母親に対する礼儀ではないが、母が喜ぶので振る舞うだけだ。
「ふふ、立ち振る舞いも立派ですこと、母は嬉しいわ。どう、婚約者とは上手くいきそうかしら。其方は長らく不当な環境におかれていたのです、本来なら傅かれる身の者であるというに‥‥。口惜しや。これというのもザックバイヤーグラヤスの奸計に乗せられた者の愚行。…‥ですがようやく、ふふふ、さぁ、姿を良く見せておくれ、可愛いわたくしの息子よ」
「若く勇ましきお姿、守護者様のご子息として立派な立ち振る舞い。お目にかかれ光栄でございます。此度のお披露目、恙なく執り行えますよう我等一同誠心誠意努めさせて頂きます」
「ああ、これは総神殿長ではございませんか。いらしたのですね。これは母上と話をされていらっしゃったとは存ぜず邪魔を致しました。申し訳ない」
「いえいえ、わたくしめの報告は終わり、今しがた辞するご挨拶を致したところでございます」
「おお、そうでしたか。では丁度良い時に私は来たのですね。貴方には是非もう一度お目に罹ってお礼を述べたいと望んでいたのです。貴方には感謝してもしきれない。私をいち早く見つけてくれたおかげで今の私がある。この礼はいつか必ず返すとしよう。我が祖父も同じ思いだ」
「ふふ、これはこれは身に余る光栄。我等としましても常に正しくあれと律する身。このようにお助けできましたのを誉と致しましょう」
「まぁまぁ、肩ぐるしいのはお止めなさい。ようやく母子の対面が叶ったのですよ」
「母上」
「これはこれは無粋な真似を。失礼いたしました。お目通りも叶いました故、この場を辞しましょう。御前を失礼致します」
総神殿長が退出の礼をとり、自らを母と言う女性が艶やかな微笑で手招きをする。
「さぁ、エリック、母のもとへ」
0
あなたにおすすめの小説
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
婚約破棄されて森に捨てられた悪役令嬢を救ったら〜〜名もなき平民の世直し戦記〜〜
naturalsoft
ファンタジー
アヴァロン王国は現国王が病に倒れて、第一王子が摂政に就いてから変わってしまった。度重なる重税と徴収に国民は我慢の限界にきていた。国を守るはずの騎士達が民衆から略奪するような徴収に、とある街の若者が立ち上がった。さらに森で捨てられた悪役令嬢を拾ったことで物語は進展する。
※一部有料のイラスト素材を利用しています。【無断転載禁止】です。
素材利用
・森の奥の隠里様
・みにくる様
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
悪役令息(冤罪)が婿に来た
花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー
結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!?
王女が婚約破棄した相手は公爵令息?
王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした?
あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。
その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。
彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。
そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。
彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。
その数日後王家から正式な手紙がくる。
ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」
イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。
「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」
心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ!
※ざまぁ要素はあると思います。
※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜
橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる