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第十二章 分水嶺
⑲・ゴミムシ見る目
しおりを挟むそういえば、公爵家の恥を雪ぐって、義兄らしくないよね?
確かに報復とか得意そうだけど基本親父の命令がないと動かない人のはず。それもひっそり、暗躍好き。‥‥が堂々とお祖父ちゃんに宣言したのが、らしくないっていうか、誰アピール? とツッコミたい。
うん、本当にらしくないの。
舐められたままは沽券にかかわるってのもわかるけど、私刑に走るのも貴族間のバランスに影響をきたしちゃうからそう易々と行えない。そう考えると迂闊に義兄に託すとも思えない。だから、ちょっと引っかかる。それが貴族の在り方だって言われたらそれまでなんだけどね…。
それから、両殿下への凶行犯と決定してるエリック。こいつも謎だ。
我が家に引き取られる前、エリックはどこで誰に育てられていたか。親父が調べれば判明しそうなのにわからないままって。そんなに痕跡を追うのって難しいの? それか敢えて詮索しなかった?
俺の予想は母后。まぁ勘で? でもイイ線いってると思うな。だって先王の子供を引き取ったのって母后でしょ? 確か母后が亡くなったのって、父方の祖父が亡くなった年で、翌年に原因不明の病が流行って、母さんが罹患した。レティエルが初めて魔力を使ったのもこの時。その二年後にクリスフォードと婚約して、そのあと義兄が養子縁組のために引き取られて……あ、その時にはもうエリックがいたんだっけ。レティエルは今十六歳だからかれこれ十年前の話になっちゃう。
ランチェスターもエリックと似た境遇なのかな?
でも王家の名だよね。名を想えばエリックとは別格扱いだとわかる。そうなるとこの二人に接点はない?
ランチェスターと接点…‥というかお仲間なのはクリスフォードか。あいつ完全にランチェスターの関係者だよね。だって商品として届ける前に休憩地と邸を提供してるでしょ? クロだよクロ。
まぁ、その辺の事実関係はそのうちわかるか。お祖父ちゃんも王国を脅すネタ集めしてるし、良い感じに恐喝ネタになると思う。利用価値があるって言ってたからとことん活用するんだろうねー。
ツラツラと思いつくまま、だいぶ思考がズレたところで、意識を戻す。
今し方知った現実がヘビーすぎて、ちょっとだけ逃避したわけ。
うん、今ね、どういう状況かというと、お祖父ちゃんとザクワン爺ちゃんは義兄によって捕縛されてます。はい。意味が分からないよね、うんうん。
遡ること、ミニコンパクトのイカサマをした‥‥あと。
製図とミニコンパクトを差し出せと不毛なやり取りが続いた。義兄は交渉に応じるのならと条件付きでだけど歩み寄った。だけど俺は製図もはったりだと睨んでる。だってイカサマ詐欺師だからね? さて、義兄の口八丁に乗るかな?
「ラムよ、望みを言うてみい。交渉の価値ありと思えば聞いてやらんでもないぞ」
ヤレヤレの顔で、テコでも譲らない義兄に「今回だけじゃ」と非礼を許した。
「レティエルの自由を保障すると約束をお願いしたいのです」
「え? お義兄さ‥‥ま?」
意表を突かれた。
義兄のことだから法外な報酬‥‥禁術の閲覧許可とか希少素材とか強請るのかと思った。多分、お祖父ちゃんも似た感じのを想像してたね、めっちゃ意外! って顔してる。
「なんじゃ? ティの自由だと? むう、それは王国と同じように好きにさせろということか? まぁ、それぐらいは構わんじゃろ。しかし、お主が見返りと望む割に、ちと意外で驚いたわ」
そうだよねー。我が家でも教育は厳しかったけど、割と自由にさせてもらってたかなー。うんうん、自覚あるよー。レティエルが我儘高慢ちきなご令嬢に育たなかったのが不思議なぐらい自由に甘やかされてたね。でも、それ、敢えて言わなきゃいけないレベルなの?
公爵令嬢の自由とは? 脳内に派手に浮かぶクエスチョンマーク。それほど非常識かなと首を傾げた。
「そうでございます。公爵家のご令嬢が商人のように商売をなさったり致しません故。ランバード様がお嬢様の自由を望まれるのも無理からぬことと」
あ、なるほど、それね。
確かにお嬢様‥‥王子様と婚約したお嬢様が手を出すもんじゃないよねー。一応、隠れ蓑に叔父さんと義兄を使ったけど、身内は知ってるし。そっか。
俺達を静観していた義兄は、軽く首を横に振る。違うと。否定された俺達は、他に何かあった? と互いの顔をみて確認し合う。義兄はチラッと俺に視線を向けたかと思えば、深い溜息を吐き、その目には諦観の色が濃く見えた。
え? 何その含みのある目。
「求む自由は婚姻相手の選出をレティに一任‥‥望まぬ相手に嫁がせないことです。耳にした話ではレティは皇帝陛下の養女として皇族に迎え、政略の駒として地方貴族に嫁がせるとか。聞かされた時は我が耳を疑いましたね。ええ、幻聴かと疑いました。まさか、一国の次期王妃と目されたレティをどこぞの田舎貴族のクズに魔力を持つ子を産ませるために嫁がせるなどと悍ましい戯言を口に出されるとは。とうとうご乱心かと心配いたしました。内輪の笑えない下品な冗談をふざけて宣われたのかと正気を疑いました。あり得ないことだと思いますが、念のため確認させてください。お義祖父様は真に受けられたのでしょうか? ふふ、いえ、それはありませんね。ご自身の血を分けた孫娘を道具扱いが予想される下衆貴族へ生贄として差し出されるのを、指を咥えて黙って認められ…‥ることはございませんね? お義祖父様。そのような気狂い、嘆かわしい。アドルフ義父上はレティにそんな悲惨な将来のために帝国へ送り出したのではございません。おわかりになりませんか? 託されたのですよ、お義祖父様に」
「…‥‥」
物凄ーい、しかめっ面のお祖父ちゃんが視野に映る。
「‥‥‥‥は?! なんて? え、え、養女に田舎貴族のゲス? え? 道具???」
絶賛混乱中。
そうだよねー、今日はいっぱいいっぱい。うん、普段味わわない量の情報が一気に押し寄せた? 怒涛の語りだよねー、それに驚くわ。いやまー、ノンブレス状態でぶちまけましたか。うん、うん、隠し事しないでって文句垂れ捲った時期もあったねー。懐かしー。
義兄がめちゃくちゃ不機嫌なのは饒舌さでわかった。うん、ゴミムシ見る目でお祖父ちゃんを見ないであげてね? 年寄りに可哀想だよ?
義兄、いっぱい喋ったね…‥
で、なんて?
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