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第十二章 分水嶺
ある日の・別視点
しおりを挟む短いです。
時間を遡っての話になります。
クリスフォードが侯爵領を拝領した後の出来事。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夜も更けた室内に淡い灯が壁に照らされた二人の人影を揺らす。
とある人物の名前が記された『婚姻契約の無効』の書面を握り締め憎悪の籠った声音で。
「くそ! こんなもの!!」
ドン!
腹立たしさでテーブルを叩く音が虚しい。
己の無力さを、行き場のない怒りとともに口から吐き出さなければ真面でいられない。
どれだけ暴言を吐こうが怒ろうが、決定事項は覆されない。頭では分かるのだが気持ちが追い付かないのだ。解消されない憤怒が沸々と溜まっていく。
「これはこれは本日はご機嫌が宜しくないようですな。何か気に障ることがございましたか」
宥める素振りをみせるがその瞳には嘲りが、隠しきれていない。相手のモンクはもう何度も聞いて覚えてしまった。馬鹿の一つ覚えめ。いい加減にしろと心でぼやく。
目の前の不機嫌な男は欲に塗れ身を堕とした元は第一王子。親や周囲に引かれた道を素直に歩んでいれば今頃は帝国の後ろ盾で立太子できたものを。一時の快楽に溺れ自身を見失った愚かな子供を冷めた気持ちで、使い捨てるには丁度いいかと情の欠片もない。
「我が領地の民を渡しているのに、この金はなんだ! 少なかろうが!」
ああ不機嫌なのは金額が不満かーーーまた面倒臭せぇなぁ。
握り締めた『婚姻契約の無効』の書類とは別に『買取金額』の証明書をジッと睨みつけている。
「はぁそういわれましても、こちらとしてももう少し上乗せしたいのは山々ですが、商品の質が悪くて買い取り額が低いのです。私等とて商売ですから儲けが出ない以上‥‥いえ、誠に申し訳ないですなあ」
人を食ったような態度だが相手の男は気にしていない‥‥いや、金額に意識が向いていて気が回らないだけだ。
「チッ! くそ、どうにかならぬのか?!」
―――頃合いか
見定めた男は「そうですねえ‥‥実はとっておきの儲け話がございま「な、なに?! あるのならばさっさと言わぬか!」‥‥‥おお、これはこれは。大変ヤル気に満ちておられるようで、ようございますな」
男はニヤリと口角を上げ、引っ掛かったな、とほくそ笑む。
「では高額商品を取り扱われませんか? 今までとは額が違います。返済もお早く済むでしょうな」
歪んだ笑みで唆す。
―――深みに嵌れよ、小僧。
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クリスフォードが婚姻契約の無効の書類を握り締めていたのは賠償金や慰謝料の支払い金額の多さに腹が立って。どうにかならないのかと足掻いてのことです。
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