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第十三章

親子三人・第一側妃視点ー5

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「ローデリアの母や兄を思う気持ちは、とても嬉しく思います。ありがとう」

褒められて嬉しいのか、娘はパァッと笑顔を浮かべた。先程のしかめっ面が嘘のように華やいだ。
ライムフォードは自分の時と違った反応を見せた妹に、現金な奴だなと呟いた。それでも妹の気分が晴れたと喜んでいる。兄妹仲の良さは見ていて心が温まる。

「さて、忌み子の疑いは晴れました。もうこの話は忘れなさい、良いですね。また不安や疑問が生じたのならいつでも母に打ち明けなさい。気兼ねは要りません」
「お母様! 宜しいのですか!」
「私でも構いませんよ、ローデリア」
「お兄様もありがとうございます!」

胸の痞えが降りてホッとしたローデリア。
だがこれだけは忠告しておこう。
ヴァンダイグフとの関係性を思うと心得を諭さねば、困るのは娘だ。


「ローデリア、沈黙が貴女を守ります。それをよく胸に刻みなさい、よいですね。貴女はこれからヴァンダイグフの者と接する機会が増えます。幾たびも会話をすれば気心も通じ自然と油断してしまうでしょう。ですが決して彼かの一族に心を許してはなりません。そして警戒心を悟らせてはなりません。何を聞いても見ても、わからないと無知を装うのです。常に沈黙を貫き、意見を求められても答えてはダメですよ。とぼけて誤魔化すのです」

「母上、ローデリアに馬鹿になれと? ふふ、それは面白いですね。この際、お喋り癖を治せば? 良い機会です。今からフリをしてみますか」
「まあ、お兄様、酷い言い方! 馬鹿の振りなどしなくとも大人しくしておけば宜しいでしょ? わたくしだって弁えていますもの、できますわ」

またもや不安にさせるかと思いきや、すっかり気持ちを切り替えていた。


カリス・ヴァンダイグフ、前伯爵当主で現子爵当主。
数年前、息子に家督を譲り保有の子爵位を継いだ。
狡猾で執念深く、そして権謀術数に長ける。背を丸め痩せた風貌にボソボソとした口調は覇気のなさを強調させるが、腹に一物を抱える油断ならぬ相手。

前々当主が後妻を娶った際、連れてきた子がカリスである。
伯爵の血は受け継いでいない。だがそのカリスが家督を継いだ。
身内の不幸を踏み台にして。

凶事が伯爵家を襲った。
生き残ったのは後妻とカリス。伯爵の親族を退け揚々と当主に就いた。
乗っ取りだ。

母子が伯爵家に引き取られた経緯は知らぬ。
母親は母后と同郷の貴族だという。
後ろ盾母国を失くした母后に尽力したのは同郷の誼からだろう、とは我が父の弁。



王妃もクリスフォードもカリスの血を引く。
我が王国に寄生する悍ましき血。
不純なる血を、王家の血と認めさせない。
王妃は朽ち、息子は不能に。
王家に流れる不純な血は、潰えた。
クリスフォードを糾弾したレティエルに献杯ぐらいは、してやってもよい。





母后とカリスの出身国は、且つて特殊な能力を持つ王が支配したと謂われた小国だった。その能力を恐れた侵略者によって滅ぼされ、その侵略者も帝国に打たれた。母后の帝国びいきは仇討ちを成してくれたと意識してのことか。
夫であった先代国王に母国も女としても見捨てられた。
それについてはお気の毒としか言えぬ。


母后の思い出となれば。
少女時代、顔を合わす度に凍てつく瞳で睨め付けてきた、あの視線に恐怖した。少女にその眼差しの背景などわかりようがない。ただただ自分に向けられた眼差しに、怯えた。

母后に嫌われてはいけないと戦々恐々とした日々。
好かれよう、良い子であろうと努力しても報われない日々。
カルディス現陛下に相応しくなろうと、己を鼓舞して。
涙も不満も全て飲み込み、微笑む自分が哀れに見えたあの毎日。
その努力は終ぞ実りはしなかった。



母后もカルディスもわたくしを顧みない。
努力が実らないと嫌になるほどわからされた。
だから、望みを叶えるために手段を問うてはならぬと学んだ。

努力が実を結んだのではない。
実を結ばんと行動したのだ。
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