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第十三章
親子三人・第一側妃視点ー4
しおりを挟む「わたくしの婚約はお互い実利を得るためと重々承知しておりますわ。ですが十数年行方知れずでしたのよ? それを思うとつい不吉なことを考えてしまいますの。本当は行方知れずではなくて、伯爵家で隠されて生きていた…そうです、忌み子です。お母様申し訳ございません。考えないように胸に秘めておいたのですが、こうしてお母様とお兄様とお話すると、閉じ込めた不安が顔を擡げるのです。もしそのような方と婚姻すればきっとお母様やお兄様にご迷惑が掛かってしまいますわ」
「ローデリア、貴女そのようなことを…‥」
まさか娘の胸中を占めていたのが、忌み子の懸念だとは。
それもわたくしやライムフォードを思うてのこと。何といじらしい。
正式に伯爵と前妻の長子だと神殿が認め貴族籍の復活を成した。だが、それでも不安だと気持ちを吐露した娘を思うと心苦しい。
時期尚早ゆえ今はまだ秘匿だが、ザックバイヤーグラヤス家で養育された事実をヴァンダイグフは攻撃材料として使う。勿論、冤罪だ。事情は知らぬが拐された子が公爵家にいたのを人身売買の咎で摘発でもするのだろう。下位であろうと後継を攫ったとなれば罪に問える。ヴァンダイグフはそれを狙ったか。恐らくそれなりの物証を用意したと容易に想像がつく。悪辣なあの者は人を陥れる術に長けている。
「ローデリアの心配事はエリックが正妻の子か否かですね。お祖父様がお調べになられた結果、間違いなく伯爵と前妻の長子でした。十年以上行方不明であったのは、失踪当時の状況が原因です。当時、王国を震撼させた疫病に母子共々罹患。治療の甲斐なく母子共に病死と記録が残っていました。残念なことに感染を恐れて葬儀は執り行われなかったといいます。治療目的で神殿に預けたのが仇となりましたか」
「多くの者が犠牲になった痛ましい出来事でした。当時、感染を恐れて発症者は神殿に隔離が当たり前でしたのよ。伯爵も皆に倣ったのでしょう」
これは捏造だろう。
エリックが公爵家に引き取られた経緯を知る者はもういないと聞いた。
「そういえば、どこで出会ったのかは知りませんが行方不明であった孫に気付いたのは祖父のヴァンダイグフだそうです。死亡扱いの孫を良く見つけたと感心しました」
皮肉‥‥か。
そうであろうな。これはとんだ茶番である。
ヴァンダイグフが彼を手放した事情も、公爵の手に渡った経緯も、今頃引き取った理由も、結局は何も知らされていない。彼かの者の協力を得るには詮索せぬことと契約を交わした。敬意のなさをまざまざと見せられ悪感情が更に募った。お陰で排除するのを躊躇わず、心が痛まずに済む。
ライムフォードの説明を聞いて、ローデリアは顔を顰めていた。
折角、妹の不安を取り除こうと忌み子の可能性を否定したにも関わらず、腑に落ちない顔をされてしまった。兄としては納得いかぬ顔をしている。
ふふ、二人とも仲が良い。
だが、所詮は詮無きこと。
ヴァンダイグフが求め、神殿が正式に認めた。それだけである。
しかし、忌み子か。
まさかローデリアの口からその存在を聞かされるとは。
何とも皮肉ではないか。
神殿が忌み子と忌避感を露にしたのはそう古くはないと聞く。
母后が神殿の者と声を揃えて主張した。
正妻以外が産んだ子に祝福がない―――だったか。
無論、王家は論外。
後継者問題はいつの世も頭を悩ます種である。
後継に自分の子がなると母親の立場は安泰だ。
肩身の狭い思いも、路頭に迷う心配も、不要となる。
それだけ後継者の母の肩書は大きい。
母后は正妻の子の立場を守るため声を上げた。
貴族、平民問わず、正妻がこの考えを強く支持した。
自分の腹を痛めた子の立場が確約されるとあれば、認めないわけにはいかない。
正妻であれば。
ここに才能如何は関係ない。
ただ正妻の子であれば、よいのだ。
中には神殿関係者に金を掴ませ正妻の子と偽らせる者もいたとか。
事実は知らぬが火の無い所に煙は立たないであろう。
女癖の悪い男は多い。
それに輪を掛けたのが政略結婚ではないか。
公式な妻を据え置き陰で惚れた女を囲い込む。
好きな相手との子が産まれてしまえば自分の後継にしたくなるのも、また親心か。
神殿の『忌み子には祝福がない』の言葉がなければ、国内貴族は跡目問題で荒れただろう。
先代陛下と母后の実子は殺された。
公式は事故死であったが、わたくしは立場上、知り得た。
手を下した者と父は王国の未来を憂う同士。その盟約は未だ続く。
王家に外国の血は不要―――純血なる王家の血を引く者に王位を取り戻させる。
盟約の目的は王位の奪還。
現陛下もジオルドも母后の実子ではない。恐らくお二方はその事実に気付いていない。この事実を知るのは極々一部の者。わたくしは父に教えられた。
あたかも母后が身籠ったかのように偽装したという。
妊婦となった女性は生粋の王国貴族。ただし庶子であったが。
当時、庶子は忌み子とそこまで忌避されていなかった。
ただ貴族籍は与えられず邸に子飼いされていたのが実情であった。
使い道のある子は養子に迎えられ貴族として生きる。
これが当時の庶子の姿だった。
先代陛下と同じ髪と瞳の色を持つ女性が選ばれた。
高位貴族の庶子だ、王族の血が少なからずとも流れていると判断の上、献上された。
時待たずとも、妊婦と母后は離宮に籠り、出産を迎えた。
王子誕生。
結局王国の王子は二人。カルディスとジオルド。
且つて王女が降嫁した我が侯爵家と王族の血筋である高位貴族の間に、純血たる王族を産む使命が科された。偶々女児が誕生した我が家に、わたくしにその任が与えられた。
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