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第十三章
親子三人・第一側妃視点ー6
しおりを挟む父の姿をみて育ったカルディスは母の寂寥な姿に悲しんだ。
自分の伴侶には辛い思いをさせたくないと、甘い私情を挟み愛する人と人生を歩みたいと欲張った。
王族たるもの、私情で動いてはならぬ。
王子は厳しく公私を分ける教育を施された。
そのはずが。
その王子は己を律することを忘れ、心のまま愛を謳歌した。
愛に溺れた王子は愛しい女と共に国を治めようと夢想した。
期待外れだ。
カルディスに失望した。
「あの狡猾なカリスと同じ血が流れているとは到底思えません。企てをザックバイヤーグラヤスに暴かれ失脚とは些かお粗末でした。その異母兄も今や借金地獄、片腹痛いです。…それにしても、あの処罰の甘さは見過ごせません。あれは本当に父上の裁可かと疑念が残ります」
言外にヴァンダイグフの横槍かとライムフォードは圧す。
だがこの場で明かすわけにはいかぬ。
娘の手前とぼけてみせれば、案の定、引き際を心得た息子はこれ以上の詮索はしない。良い子だ。
そう、カルディス陛下は‥‥。
頭を擡げるのは、カルディスがあの日、わたくしの手を取ってくださればと。
王国は守護神のご加護に、祝福に、満ち溢れたのではないかと。
先代が歪ませた王国を、わたくしと息子で変えてみせる。
新たな王国に、カルディスは要らない。
カルディスは学生時代、ヴァンダイグフ家の次女と恋仲に。
わたくしには目をくれずその女に夢中になった。
二人の馴れ初めなど興味もない。
学園という狭い世界で愛を育めば、それは醜聞となった。
私情を上手く扱えず女の色香に負けた、為政者の素質を疑った。
卒業後、婚姻の契約を交わす予定をカルディスは反故にした。
一方的に内定は取り消され婚約者候補達も追いやられた。
裏切りだ。
無責任だ。
次期王たる者が私情で貴族間の取り決めを反故にした。
わたくしが王家に縛られた十数年もの時間は、一体何だったのか。少女の多感な時期は無機質な義務に摘み取られ踏み躙られた。
『真に愛する人に出会えた』
十数年もの献身を、愚かな一声で無駄にされた。
なんと無情な。
憤怒で狂いそう。
悔しさで嗚咽が止まらない。
涙が枯れるほど泣きじゃくった。
愛を求めてはいない。
使命を全うしたかった。
求めたのはわたくしを王妃にと取り交わした約束を厳守して欲しかったから。
『私達の愛を引き裂く気か。恥を知れ』
罵られた。
惨めだった。
無力だった。
カルディスもあの女も業腹だ。
わたくしの痛みを幾分なりとも味合わせ、償わせよう。
だから。
嘯いた。
女が色香で惑わせたのだ、だからその色香で償わせた。
先代国王は数多の令嬢を召し上げ、好色王と揶揄されていた。
魔力を持つ女は、殊の外お喜びかと。
『ヴァンダイグフ家の次女は魔力持ち』
手の者に囁やかせれば。
首尾よく好色王の手に堕ちた。
後始末は母后の役目。万事滞りなく処された。
惚れた相手の父親に求められるとは。
やはりあの女は業深い。
先代国王が崩御されカルディスが王太子へと。
晴れてわたくしがカルディスの妻に。
喜びよりも漸く元の形に戻るのだと安堵した。
喪に服したカルディス。
公の場に姿を現さず月日だけが無情に過ぎた。
喪が明け再び姿を現した彼は、ヴァンダイグフの長女を隣に置いた。
またもや裏切られた。
お前は駄目だと突き付けられた。
酷い仕打ちはわたくしの心に大きな爪痕を。
消えない傷が心を苛む。
王太子となったカルディスは人が変わったように、今までの甘さは鳴りを潜め厳格になった。家臣の忠誠を執拗に求め猜疑心の塊と化した。その変貌は異常だ。
愛を失えばそうなるのかと訝しんだ。
感情に呑まれ易いカルディスは信用ならぬ。
彼の心を射止められないのは、女の魅力に欠けていたからとそこかしこで囁かれ。
且つての婚約者候補としての羨望は儚く消え失せていた。
誰もわたくしを一人の人として女性として見ていないのだと痛感させられた。
このまま…‥
わたくしはどう生きれば良いのかわからなくなった。
子が産まれなければ側妃を娶る、そう王太子が公言したと父から聞かされた。
愛する人を失くせば主張を変えるのかと、幻滅した。
ならば、費やしたわたくしの過去を返してもらおう。
であれば、王太子妃に子は不要。
手の者は我が意を得た者。
二年もの間、王太子妃に懐妊の兆しはなく。
わたくしが側妃として召し上げられた。
カルディスとの間に待望の第一子が。
その少し前、早産で王妃の子が産まれた。
身籠らないよう注意していたのだが、予定が狂った。
だから。
猜疑心の強いカルディスに囁いた。
第一王子は貴方に似ていないわねと。
疑念の芽は容易く芽吹いた。
苦しまされた十数年。
今度は貴方が苦しめば良いのよ。
彼はもう誰も信用していない。
孤独の王よ。
独り善がりの王よ。
一人虚しく命を散らすがよい。
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