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第十四章 王が住まう場所

アドルフー③

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家族に降りかかる危機は凡そ予想通りであった。だが、王家の関与を指摘されれば、反論するかのように『契約』の言葉が脳裏に浮かぶ。心境は勘違いで終わらせたい。


穿った見方をすればシュヴァイニッツは正しいのかも知れぬ。
だが、確かに『契約魔法』の魔法術の効力を確認した。シュヴァイニッツの言葉ではないが、魔法術に秀でたと自負をする私の目を掻い潜って騙せたとは到底思えない。

特殊な契約魔法だ。従来の契約魔法とは締結手段が違う。魔法陣が創り上げる空間に直接書き込む方法を、どうやって改ざんや偽装するというのだ。

シュヴァイニッツめ、何を根拠に・・・。



話が終わらず、殿下方をお待たせした状況だが、誰も呼びに来ないのをいいことに、シュヴァイニッツの企みを探るべく会話を続ける。


「事の発端は、レティエル嬢の婚約破棄騒動で間違いないな。あれで危うい均衡が一気に傾いた。そう思うだろう? 貴殿も奥方から聞かされていたのではないか」

家族が狙われる原因について、シュヴァイニッツは彼なりに情報の欠片を補おうとしている。

私が持ちえない伝手を持つのだ。精々、活用させてもらおうか。



シュヴァイニッツの言いたいことは大体わかる。
特殊な立ち位置であるカレンシアに付き纏う柵は、その辺のご夫人とは比べ物にならぬ。事情が違うのだ。


嘗て、王国は帝国・・・皇帝の不興を買った。それもカレンシアを妾に請うなどと侮辱した。一気に両国間の関係は悪化し、まさに一触即発の気配が流れたのだ。
皇帝の逆鱗に触れたにも拘らず、蹂躙されず国交が継続されているのは、奇跡といっても言い過ぎではない。

よもやお目溢しされたことを忘れたのか。まさかそれほど軽薄な貴族ばかりかと一抹の不安を覚える。



私もつい先日、知ったことだが。
当時、戦争を見事に回避させた影の立役者がいた。亡くなった我が父と王妃だ。
帝国側、恐らく皇帝か参謀役だと思うが、彼らとの密約が功を奏したという。

私とカレンシアの結婚は両家の当主が骨を折ったからだと思っていたのだが、それは表面的なもので、真に皇帝の怒りを鎮めたのが密約の内容だ。

『私とカレンシアの子を必ず王家に迎え入れる』

娘が生まれれば王子の妻に。息子であれば王女の伴侶に。要は皇族の血を王家に取り入れろと条件を突きつけたわけだ。内政干渉を目論んだのか、他に目的があったのかはわかり兼ねるが、そのような約束事を交わしていたのだと知らされた。

遅すぎだ。

王妃の遺書とも読める私文が私の手元に届けられたのは、偶然の産物であった。
使節団の世話役に任命されねば知ることができなかった両国の密約。どうしてそれを私に遺したのかは知らぬ。当人が亡くなってしまえば、すべては闇の中だ。

だが、今更なのだ。今頃事実を知ったとしても、全ては終わってしまった。



レティエルの婚約破棄で、王国は帝国の不興を買った。正しく言えば皇帝陛下の、だが。

それは非常に問題だろう。それはそうなのだが、レティエルがあのクソ元王子に嫁がなくて、心の底から喜ぶ私が『良くやった、流石私の可愛い娘だ』と諸手を上げて大喜びをしている。ああ、ままならぬ。



「娘は被害者だぞ。元王子の教育担当や大人の側近が、小僧相手に躾できぬことが問題だろうに。逆恨みも大概にしろ」

レティエルはクソ元王子の婚約候補ではなく、婚姻の契約を締結したのも王妃たっての願いからだ。事情を知らぬ私達は息子の後ろ盾欲しさにごり押しかと、王妃の強硬手段を不服に思っていたのだ。

あの王妃、伯爵家出身でありながら侯爵家の娘を押しのけ王妃になるだけのものがあったな。皇帝の不興を買った過去の出来事を、正しく理解していた王妃は、政治的な嗅覚が優れていたと思う。

これが王妃の独断だったのか、家臣どもの入れ知恵なのかわからぬが。国が滅する未来を回避し、帝国との共存を次代に賭けたのだろう。

ただ、大きな誤算ともいうべき落とし穴が。
王妃も予想外だったと思う。私も見落としていた。

レティエルとクソ元王子の二人が、婚姻と婚約が同じものだと勘違いしていたとは考えもしなかった。
幼すぎて正しく理解できていなかったのだと、今にして考えが及ぶものの、野放しは親の怠慢だろう。どの道、成人すれば結婚するのだと。嘘偽りなき言葉で言えば、等閑に付していた。

「レティエル嬢の婚約破棄騒動だが、上手く回避したというより用意周到さが仇になったな。鮮やか過ぎたのだよ。貴殿のいう教育担当や側近らは、全てはレティエル嬢が仕込んだ罠と思い込みたかったのだろうな。まあ、逆恨みだ。満たされぬ失望感と冷めやまぬ怒りが、嬢と貴殿に向いた。とでもいえば、ご理解なさるか」
「情報戦術をよく理解した子を相手に何を。醜聞を隠そうともしない元王子のお頭おつむが残念だっただけの話だろう」

確かに用意周到であったな。感心するほど準備万端であった。
あのクソ元王子に破棄宣言された直後に、神官長を使ってクソの有責で破棄を快諾し。とうとう縁を切った。天晴である。根回しも十二分とは流石は我が娘。褒め称えたい。


レティエルが狙われたのは身内ファーレンだけではなくこういった事情もあったのだ。


「更なる問題は、死を偽装したことであろうな。死んだと思われればどこかで攫われたとしても正式な捜索はできぬ。仮に私兵を動員したとて領地を超えれば挙兵と見做される。一気に謀反者だぞ。碌な人員を総動できねば見つかる者も見つけられんな。・・・歯向かうことが許されぬお方の命とあれば断れなかったと推察するが手順を間違えたな。・・・なあに、経験者の勘だ。過去の成功例を習った。王家の考えそうな手だ」
「はっ? 何の話だ? それより、その過去の成功とは一体何のことだ」
「教えてやるが、貴殿も頼むぞ。あの子を助けてやってくれ」

医師も匙を投げた病。荷が勝ちすぎると言ってはいるのだが、しつこい。

「もう、数十年も前の話だが。母后がまだ王妃であった頃のことだ。年の離れた姉に先代王妃は、死を偽装して逃亡しろと囁いた。先代王妃の甘言にすっかり騙された姉と父は、王妃を信じ実行した。姉は逃亡途中に攫われ、囲い者にされた。母体にされた挙句、用済みだと最期は魔石化だ」
「・・・・・・」

犯行の背景がいまいちわからぬ。取り合えず黙って耳を傾けた。

「今の陛下の兄君が亡くなった時期だ。姉を見初めた先代国王が、世継ぎを亡くした王妃と離婚し、姉を王妃にしてやるから嫁げと迫った。先代国王の裏切りを赦せなかった王妃の憤りが、何の罪もない姉に向き、策謀に嵌めて利用したのだ。・・・最期までな」

不意にあの国王の顔が過る。と、同時に筆舌に尽くし難い悪意が湧いた。

「レティエル嬢も事情はどうであれ、陛下の顔に泥を塗ったも同然の結果を招いた。表向き陛下はお咎めなしであったが、恥をかかされ、矜持を傷つけられた陛下の怒りは相当であっただろうな。・・・報復だ。報復狙いで攫って囲えば・・・父親の貴殿にこれ以上は止めておこう。大体想像がつくであろう。しかし陛下も予期せぬかったか。仮にも葬儀を済ませた嬢を狙う不届き者が現れるとは、想像もできなかったのだろう。・・・葬儀を追えた姉は他国に逃亡の途中で馬車が襲われた。その後、盗賊に殺されたと説明されたよ。だが、姉は生きていた。先代国王の慰み者として生かされていたよ。はは、先代王妃の裏切りを知った父も、結局は利用され殺された。『血の盟約』の上書きのために、贄とされたのだ」

「な?!」

多すぎる情報量に、一瞬、脳が思考を止めた。

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