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第十四章 王が住まう場所
ミリアの打算ー①
しおりを挟む「はぇ、誰もいない? うそ。変だな、邸、間違えた? そんな筈は・・・。えー、若様、お嬢様。視察一行の馬車もハイデも邸の中に入って行ったのをこの目で確と見ました。ですが、ハイデ達、どこに行ったのでしょう?」
え? 聞かれても知らないよ?
人っ子ひとり見つけられませんでした。と消えゆく声で、しょんもりしちゃってるのは、この邸の内部偵察に名乗りを上げたミリア。
ダルが齎した奇異な報告と、未だ連絡のないハイデとライオネルの身を案じた俺達は、内部の偵察をどうしたものかと頭を悩ませていた。それを彼女が、距離があっても可能だと進言したのだ。
最初『私、のぞきますよ?』ってまさかの痴女発言に、ギョギョってなったけどね。
身体強化をした視力なら、暗室でも窓があれば難なく探れるとか。
ーーー野性動物みたい。と思ったのは秘密。
邸を遠視するミリアの側には、俺と義兄にダル。もう、この面子しかいないの。
連絡の途絶えたハイデとライオネル。『潜入中だから』は納得しかねる。
ダルも、自ら体感した敷地内の異様さを、人の気配すら感じられないのは、何らかの魔法術(隠匿系)の仕業だと見立てていた。門兵すらいない邸。これを厳重な警備体制故だとは判断していない。
邸の異常性は充分伝わったよ。
ハイデとライオネルは魔量こそ少ないが、護衛としての経験と力量は充分にある。その二人がぷつりと消息を絶ったとなると。義兄も表情が硬い。うわ、マジでヤバいんじゃね? となるわけだ。
このまま、二人を見捨てるわけにも行かず。さりとて状況を打破するにも、非戦闘員のレティエルが、重荷になっちゃってるわけ。ごめんね?
で、重苦しい空気をぶった切ったのが、ミリアのノリだ。
でもね、逼迫した状況で『のぞく家、間違えた?』みたいな空気感を出すミリアめ。このゆるい感じ、俺は好き。
だけれど、ダルの残念な子を見る目。うん、気持ちはよくわかる。実際、キレイ系の女子さんなのに、脳筋的発言と脳筋的行為が美貌を無駄にさせているし。・・・残念な美人さんの称号は不動なのだ。
ま、まあ、緊張感のなさが彼女の持ち味だから。慣れて? 切羽詰まって、拳を振り回し『特攻するぜ!ヒヤッハー』より断然いいから。
あ、義兄のミリアを見る目が、下等生物を見下す感じになっとる。ちゃはぁー。
・・・これ、フォローするの俺?
当惑で無言な俺の耳に、ぼそりとダルの「えっ、こんなのがファーレン家の騎士?!」は、しっかり聴こえちゃったよ。
・・・ふーん、こんなのなんだ。
あ、でも、うちにはもう一人、似たような奴がいるよ? もっと性質が悪いよ? それにマリアだって。
はっ?! もしや、これが義兄の求める専属の基本装備?!
「レティ、違うからね?」
ひゃ、思考を読まれちゃった。
「まあ、若くて顔の良い子女を宛がうのはどこも同じか。若君もご苦労「それ、どういうことですの?! もっと詳しく!」うわっ?! お、お嬢様!!」
あ、つい食い気味になっちゃった。
ダル的には、武人を輩出するファーレン家に、何故ミリアみたいなのが?って疑問に思っちゃったわけね。その答えを自ら導き出しちゃったのか。ふふ、うっかりぽろりしたダルっちめ。もっと詳しく教えなさい。
・・・だって気になるでしょ? 義兄の女性関係。
顔良し、家柄良し、頭良し。性格難ありだけど接触しなければ問題ない。最優良物件だもの。
・・・はっ! まさか、ファーレン家から来た専属ちゃん達って、義兄のハーレム要員?! うひょー!
「レティ、違うよ」
「あ、はい」
ハーレムはお好きじゃないのね。
「あはは、確かによくあることですが、色恋のわからない私では、最初から戦力外です。それに、若様を知れば知るほど、男女の機微とやらは、無駄だと理解できますので。元々、家族から厄介者と蔑まれ、戦場で朽ちても惜しくない私を拾って下さった若様、お嬢様に忠誠を誓ったのです。是非とも盾となり剣となるお役目を!」
よくあるのかーーーー。じゃなくて、今、凄いことをサラっと言わなかった?
何食わぬ顔で語るミリアに、どっからどう突っ込めばいいのやら。まさに頭痛が痛いってやつだ。
「・・・えーと、お義兄様?」
男女の機微とは何ぞや? ここはもう義兄に語らいでもらわねば。むふー。
「はぁ、我が家にそんな慣習はないから。ゴホン、今はそれよりも邸の調査が先決だからね。レティ、わかったかい?」
「ちょっとぐらいいいじゃない・・・お義兄様のケチ」
取り付く島もないね、お兄ちゃん。
「若君、帝国と王国の風習の違いをお嬢様にお伝えなさった方が、要らぬ混乱を防ぐことに繋がるかと」
「へー違いなんてありましたっけ、ダル?」
最後はミリアね。呑気に首傾げてるよ。
アレでしょ? 帝国は(魔力持ちを)産めよ増やせよ政策で多妻OK。逆に、王国は忌み子を忌避な思想から正妻至上主義。このことでしょ? とはいえ、忌み子はなくならないから、不倫・浮気は絶えてない。まあ、正妻優位には変わらないか。だからね、帝国の感覚で、第二、第三夫人の座を狙っても、子供をもうけちゃっても、所詮、庶子。王国ではキャットファイトすら起こらない。・・・ということを言いたいんだよね?
義兄のしょっぱい顔。あ、何かあったね?
「帝国の政策は否定しませんが、それを私が奨励する謂れはありませんよ。王国の一夫一妻を支持します」
えーと、何故こっちを見るかな?
・・・そうか。レティエルの専属候補と紹介された女の子達が、ごっそり消えちゃったのって、『うちは第二夫人も愛人も囲いませんよー』スタイルが受け入れられなかったから?
現金すぎる帝国女子の婚活にドン引きだよ。ちゃんとお仕事しようよ。
・・・いやいやいや、すっかり脱線してんじゃん。まあ、食いついたの俺だけど。
どうにも締まらない会話を繰り広げ、オチどうすんだよと心の中で突っ込む。成り行きとは言え、微妙な忠誠心を語ってくれたミリアに、どう応えるものかと視線を向ければ、ガチめなミリアと目が合った。
・・・え? まだ何か言い足りないの?
「もう少し周囲を見回ってきます」
彼女にはまだ続きがある。そう読んだダルが気を利かせ自ら外へと。出来る男はやることに卒がない。
これで結界内は俺達三人。
義兄VSミリア? おまけの俺。
え? 何この構図。
「・・・このような緊急時に話さなければならない内容なのですね。くだらない話であれば、わかっていますね?」
「はい。若様、お嬢様。今がどのような事態かわかった上で私の告白を聞いて頂きたいのです。・・・若様。どうか契約魔法を解術して頂けないでしょうか」
は?! 何言ってんの?
スパイ対策で結ばせた契約魔法を解けと? それ、自分がスパイだって白状したも同然だよ? わかってる?!
ミリアのあり得ないお願いに、みるみる義兄の機嫌は不機嫌に・・・うわ、こわ!
「・・・お前が紛れ込んだい犬でしたか。でもまあ、契約違反を恐れ命乞いをしてくるだけの分別があったのですね。ふふ、何と見下げた女でしょう。騎士の風上にも置けないとはこのことでしょうか。ですが、お前の正直さに免じ、話ぐらいは聞いてあげましょう。ふふ、構いません。話しなさい」
うひょー!
怖いけど。尊大な態度だけど。いきなり切り捨てないだけ大分マシだよ。まだ耳を貸すぐらいの情はあったか。あったんだよね?
ふひー、もうこの際、胸襟を開いて打ち解けちゃってください。お願いします。
「若様、お嬢様。お耳汚しをどうかお許しください。今の私は二重の契約魔法に縛られ、このままでは相反の命令で命を落とすことになります。・・・若様やお嬢様に反する意志はございませんが、もう一つの契約魔法が、無情にも仇となりうるのです。・・・追い詰められた私は、お二方のご温情にお縋りするしか助かる道はございません。どうか、どうかお助け下さい」
「え・・・何を言っているの・・・二重契約? あなた一体何をされたの? ・・・お義兄様、どうにかなりませんか?」
マジでどうにかしようよ。
「・・・ミリア、片方の契約を無効にしても姑息な真似にすぎませんよ。お前の窮地は変わりません。レティの同情を誘う気でしょうが「お義兄様! 待って!」・・・はぁ、レティ駄目だよ」
ダメじゃなーい! ここを猟奇的殺人現場にしちゃダメー!!
「待って待って待って! 取引、そう取引しましょ! お義兄様! ミリアの契約魔法を全部解く代わりに、全てを打ち明けてもらうの。えっと、諜報員なのでしょ? 誰からか、白状させるの。これなら?」
そう、レティエルの能力なら可能だよね。義兄もわかっていて、そうしないのはちょっとどうかと思う。
「・・・レティ、わかったよ。でも、最終的には契約魔法を施すからね。これだけは譲れないな」
「わ、わかったわお義兄様。・・・ミリアもいいわね?」
俺達が何を前提に話しているのか、理解できていないミリアは呆気に。
無茶な提案と言いたいのか、青ざめた顔でお口をパクパク。うん、説明不足でごめんね? でもね、先ずは頷いてくれるかな?
「で、ですが、守秘の契約が・・・。わかりました。若様の契約を解いて頂かない限り、どうにもなりませんし、可能な限りお伝え致します」
よし!
ちゃっちゃとやりますか!
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