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第十四章 王が住まう場所

ミリアの打算ー②

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「第三者が・・・を・・・もしや、魔法術の無効化? そんな・・・あり得ない、でも、まさか・・・」

小声だがはっきりと聞き取れたミリアの慄く声音。歯に着せぬ物言いが特徴なのに何とも歯切れの悪い。彼女の事だから『解けたーヒャッホー』とはしゃぐかと思ってたのに。何か違う。

ちょっとミリアが別人に見えて、薄気味悪い。

不安で義兄に視線を送ると、恐ろしいほど作り笑いを浮かべ『お前は命を粗末にする気ですか』の一声。
これには俺もミリアも「「ひゅ!!」」・・・全身の毛穴が閉じたね。ミリアは息も止まったぞ。


「さて、言葉は慎重に選びなさい。次はありませんよ」
「お、お義兄様・・・」

お手柔らかに! 




まだ顔が青ざめているけれど、何とか持ち直したミリア。

「眠りから覚めた直後で、その、少々寝惚けてしまったようです。お恥ずかしい。改めまして、若様、お嬢様。このご恩生涯忘れることはございません。受けた恩義に報いるためにも何卒お側で仕えるお許しを頂きたく存じ上げます」

深々と頭を下げた彼女を前に、ホントこの人誰?! と疑惑の目が向くものの、この場が殺人現場にならずにホッと胸を撫で下ろす。折角、解術したのに早々無礼討ちにならなくてホント良かった。夢見が悪いからね。

ミリアは魔法術に造詣の深い義兄が、凡人には計り知れない方法で術を消したと誤認したらしい。すっかり義兄を見る目が変人を見る目に代わってた。
あー、まっいっか。
脇が甘い俺よりも、義兄がスケープゴートになった方が何かと都合がいいからね。うん、完璧だ。





ミリアが慄いた理由は、自分に施されたのが隷属の契約だったから。そう奴隷化。これは、術者にもよるらしいが、ほぼ解術不可能な認識で間違いはない。・・・ほぼと言ったのは俺が解いちゃったからね。むふふ。
でもまあ、術から解放されるには、死ぬしか手がないらしい。少なくともミリアはそう教えられていた。

聞けば聞くほどくそみたいな魔法術。世の中では禁術扱いなのに、この遭遇率の高さよ。何ともいい難い嫌な気分にさせられた。


そのミリアが、義兄に直談判したとは。どういう心境の変化か興味が湧いた。
だって、死にたくないと義兄に命乞いしたんだよ? 下手すれば・・・いや俺が割って入らなきゃミリアはスパーンと、物理的に、切られてからね! どこが? とは言わないけど。命知らずもほどほどにして欲しい。


「不出来な部下であっても見捨てず拾い上げて下さる若様。そしてご自身が狙われたというのに、護衛を責めず首も切らずに仕えることをお許し下さったお嬢様。お二方の寛容なお心に触れ、再起の機会を与えられた幸運を噛み締めれば、忠誠を誓う主はこの方達をおいていない。そう思いました。それにお嬢様は敵であっても命を取るなと随分と酔狂な・・・あ、いえ、慈愛を敵にまで分け与えられる崇高さに感銘を受けました。同じ命を賭すのであれば私はお嬢様の盾となり、刃となって仇名すものからお嬢様をお守りしたいと切に願うのです。・・・私に隷属を施した相手は不明ですが、間諜として送り込み奸計を練るのはファーレン当主第一夫人でございます」

・・・え? ごめん、本当にミリア? あ、それより最後にとんでもない人が出てきた。

よくわからんが、俺達に恩義を感じてくれてるし。義兄のやられたら手段を問わずやり返す精神にいたく感銘したそうだ。うわ、一番ダメなところを選んじゃったねー。

どうせ死ぬのなら一死・・・ミリアだから一撃か。報いてから玉砕の道を選んじゃったみたい。契約主は不明だけど、自分に命令するのは第一夫人。夫人に手は出せずとも、彼女の大切な者は知っている。そいつを殺る。もう、殺る気まんまん。うん、相当、夫人を恨んでいるって、よおく伝わったよ。


うう、この好戦的なのはミリアらしい。でもね、ちょっと待って欲しいな。第一夫人って伯父さんの奥さんだよね? 三人いるうちの一番目な人。まあ、後二人いるからって考えもできなくはないけど、その殺意、仕舞って欲しい。


つい、おっそろしいぶちまけ話を聞いちゃったからね。事情が知りたくなったの。時間がないってわかっててもね。めちゃくちゃ気になるじゃない。もうちょっとだけ。







今から十数年前、魔量の少ないミリアがファーレン家の見習い騎士として召し上げられた。派閥の家門で、見目麗しい少女。女性にしか立ち入れない場所やお茶会の護衛にうってつけだと容姿重視だった。勿論、女を武器にってのも見込まれてだって。

あー、さっきの戦力外って・・・成程、察した。

それがある日、第一夫人が招待されたお茶会に、護衛しろと命令された。専属を押しのけて自分が?と疑問に思ったが元々お茶会向けと揶揄されるミリアは、命令だと渋々従った。

いざ、護衛任務と夫人の側を離れずいたが、女性騎士や供の侍女と一緒に別室で待機していろと命じられ、違和感を抱きつつ渋々従った。その際、訪問者は名を記録する義務があると指示され、何かあった時のために必要かと、疑うことなく名を記入したという。

これが隷属の契約書であったと知ったのはお茶会終了の後。顔を歪ませ愉快に嗤う第一夫人から教えられたそうだ。容姿の良いミリアが気にくわない。たったそれだけのことで。

ミリアは屈辱の日々がこの日より始まったと、唇を噛み、唾棄する。

義兄がそこまで話さなくていいって、バッサリ。眦に涙をうっすら浮かべたミリアを見て、俺もちょっと胸が痛んだ。きっと女を武器にって、そういうことだと思う。


第一夫人が何を考えていたかはわかんないけど。ミリアをレティエルの専属にとねじ込み義兄の帰国に同行させた。目的は俺と義兄の情報収集。得た情報はザックバイヤーグラヤス領を訪れる商人を通じてファーレン家に。でも、偽装葬式に誘拐や公爵家の騒動、あ、義兄暗殺事件もあったね。と、相次ぐイベ盛り沢山な日々。不手際の責任で帰国させられた同僚達を尻目に、自分は無事専属として残れたと。命が細い綱で繋がったと感じたという。


今は、懇意にした商人と連絡がつかないため、情報は漏らしていない。そう申し訳なさそうに呟いた。


未だ王国だから悠長にしていられるが、帝国に行けばどんな理不尽な要求をされるのか。堪ったものではないと人知れず戦戦恐恐、浮かない日々を過ごしていたのだと、悲しい目で言われた。

う、うーん、重かった。


「成程、お前の状況は分かりましたが、第一夫人の動機について思い当たることはありますか。ライラとか言う女がレティに成り代わろうとしていましたが、その件でお前の知ることは? 夫人一人では計画できないでしょう。協力者を知っていますか」

あ、そういうことあったね。


ミリアの知る限り、夫人は社交界に影響のある人物らしく、娘を皇子に嫁がせたい野望を隠そうともしていなかった。気が付けば、第七側妃(第四皇子・第二皇女の実母)と懇意になり、何か良からぬ企みを考えていそうだと。そこまでしか分からないらしい。


今回の使節団の顔ぶれが、第七側妃陣営とお祖父ちゃん達ファーレン家。後数人どっかの貴族。何となくきな臭さを感じ取ったそうだ・・・野生の勘かな?

このタイミングを狙ったのも、その辺りが原因か。





「ミリアが隷属の支配から解放された今、第一夫人? 契約主? にはミリアが死亡したと誤認するのよね? でも、お祖父様がいらっしゃるし、お母様も。あ、そうじゃなくて、第一夫人の行いを白日の下に晒すのでしょ?」
「・・・レティ、私達が手を出すと越権行為になるよ? お義祖父様か義母上に伝え適切な対応を希おうか」
「そうでした。・・・ねえねえ、ミリア。貴女だけかしら? 他にも隷属の支配下な人っていない?」
「・・・申し訳ございません。あの場にいた者はあれから姿を見ていないのです。他にいたとしてもわかり兼ねるかと」
「見分けは、無理か」
「あ! お義兄様、良いこと思いつきましたわ!」
「レティ、駄目だよ」
「う、くぅ~」
「ふ、はは、あ、申し訳ございません」
「構わないわよ」

義兄にはダメって言われたけど。今いるメンバーをサーチすれば、解決すると思うよ。
ダルとか、怪しそうだし。後で、こそっとやってみよう。




「いつの日か、契約主を追い詰め罪を認めさせたく思います。恐らく、私に施した人物は・・・皇族に関わりある方だと」

うひゃ! それこそアンタッチャブル!











ミリアの契約隷属魔法は、ヴォルグフ達とは違い魔力に変異は見られず、抵抗らしい抵抗もなく魔力供給器官に取り着いていた魔法陣を引き剝がすことに成功した。まあ、吸い取っただけだけどね。

隷属の契約魔法ってあの変容した異質な魔力になるのかと思ってたけど、どうやら違ったわ。
ミリアのは、普通に感じる魔力だったし。

・・・これ、どっちかな? ミリアがレアケースなのか、ヴォルグフ達がレアか。

義兄も流石に禁術を試したことが無いから、変異魔力ってのがよくわからないみたい。悔し気に呻く姿にちょっと呆れた。

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