この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃

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18.採掘

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「採掘用の手袋とツルハシになります」

 採掘道具を受け取るなり、私たちはブレットに言われた通りにそれらを身に着けていく。

「あの、コーデリア様。やはり、採掘は俺たちだけでやったほうがよろしいのでは? それで、後からコーデリア様に石を選別してもらったほうが……」

 ブレットが心配そうにそう言ってくれたのだが、私は頑として譲らなかった。

「ありがとうございます。でも、やっぱり自分の目で良質な石を見極めたいんです」

 ブレットの言う通り、採掘に関しては鉱夫たちに任せたほうが効率が良いのだろうが、今回は魔蛍石の性質を知るための研究も兼ねている。
 だから、実際に原石を手に取って確認しながら採掘したいというのが本音だ。
 とはいえ、私たちのような素人だけで鉱山内を探索するのは難しいと判断し、ブレットには付き添ってもらうことにした。
 そんなやり取りをしつつも、私たちは魔蛍石が採れる場所へと向かう。

「ここです。この辺は照明が少ないので、足元にお気をつけください」

 そこは薄暗く、所狭しと岩が転がっていた。

「それでは……早速、魔蛍石の採掘を始めましょうか?」

「はい、よろしくお願いします!」

 私が元気よく返事をすると、ブレットは微笑んだ。

「それじゃあ、まずは俺が手本を見せますね。コーデリア様は、その後に続いて同じようにやってみてください。もし分からないことがあれば、すぐに質問してくださいね」

「はい。分かりました」

「それでは、始めます」

 ブレットはそう宣言すると、手慣れた様子で作業を開始した。

「こうやって、掘っていくんです。コツとしては、あまり力を入れすぎないことでしょうか。あとは、根気が大事ですね」

 ブレットはそう言うと、真剣な眼差しで採掘を始めた。
 ツルハシを勢い良く振り下ろすのではなく、優しく撫でるようにして掘り進めているようだった。

「なるほど……」

 私はその光景を見て、思わず感嘆の声を上げる。
 ブレットが掘り進めていると、徐々に原石が露出してくる。
 緑色を帯びた淡い光を放つそれは、紛うことなき魔蛍石だった。

「……っと、こんな感じです。まぁ、最初はなかなか上手くいかないと思いますけど、焦らずにやりましょう」

「はい! 頑張ってみます!」

 私は気合いを入れるように大きく息をつくと、彼の真似をして採掘を始めた。

「…………」

 しかし、いざ採掘を始めると、思うように進まない。
 ツルハシを振り下ろしても、ガツンという衝撃が腕に伝わるだけだ。
 ブレット曰く、私が使っているツルハシには採掘をサポートする魔法がかかっており、女性でも簡単に扱えるようになっているらしい。
 それでも、私の筋力が足りていないのか思ったようには進まなかった。

(うーん……難しい)

 そう思いつつも、せっせと作業を続けること十数分。
 ようやく、一個目の魔蛍石を掘り当てることができた。

「おお、すごいじゃないですか。こんなに早く見つかるなんて」

 ブレットは驚いたような表情を浮かべると、拍手をしてくれた。少し仰々しくも感じるが、嬉しい。

「いえ、たまたま運が良くて……。それに、ブレットさんの教え方が上手かったからだと思います。それにしても……本当に綺麗……」

 私は手の中の原石をまじまじと見る。

「この原石を研磨したら、さらに美しくなるのでしょうね……ふふふふふ……」

「まあ、コーデリア様ったら……締まりのない顔になっていますよ!」

「え!? そ、そうですか!?」

 サラに突っ込まれ、私は慌てて表情を引き締める。

(いけない、いけない……。つい、妄想に浸ってしまったわ)

 サラに指摘され、私は慌てて口元を引き締めた。
 鉱物のことになると、どうも我を忘れてしまうようだ。

「と、とりあえず……気を取り直して」

 私は仕切り直すと、掘り当てた原石を手のひらに乗せ周囲を見渡した。

「一体、何をされているんですか?」

 ブレットが怪訝そうな顔をしつつ尋ねてきた。

「実は、鉱石というのは個体によってマナの含有量が異なるのです。だから、周辺にある石と比較することで含有率の高いものを選別しているんですよ」

「つまり、マナの含有率が高い鉱石ほど良質なのでしょうか?」

 ブレットが尋ねてきたので、私は深く頷く。

「魔蛍石は、マナの含有量が多いものほど発光が強くなる傾向があるんです。私は、昔からなぜかマナの含有量が多い鉱石を見分けるのが得意でして……魔導具屋で魔蛍石を買う時は、いつも吟味していました」

 暗所恐怖症の私にとって、暗闇の中で発光する魔蛍石は救いでもあった。
 この特技も、そういった経験が影響しているのだろう。

「さすがはコーデリア様! 博識ですね! 正直、俺には何がなんだかさっぱりでしたが……」

 ブレットはそう言って苦笑を浮かべた。

「とりあえず、この原石よりマナの含有量が多いものを探します。この石を基準にして探せば、大体どの辺に上質な石があるかわかるので」

 そう言って、私は感覚を研ぎ澄ませながら周囲の岩を見つめた。すると──

(あっ、これだ!)

 直感的に一つの岩石に目をつけた私はそこまで移動し、ツルハシを振るってみた。すると、先程よりも大きな音が響いた。

「これは……」

 どうやら、先ほどの魔蛍石よりもさらにマナの含有量が多いようだ。
 私は喜び勇んでツルハシを振り上げると、岩を削り始めた。

「……っ」

 ツルハシが岩に当たるたびに、腕に痺れるような衝撃が走る。
 だが、そんなことは気にならなかった。夢中になって掘っていると、やがて魔蛍石の頭が見えてくる。

「やった! 採れた!」

 私は歓喜の声を上げると、魔蛍石の原石を拾い上げた。
 その大きさは、過去に魔導具屋で買ったものとは比べ物にならないくらい大きい。

「やりましたね、コーデリア様!」

「おめでとうございます!」

 アランとサラは興奮気味に声を上げた。

「ありがとう!」

 二人の祝福の言葉を受け、自然と笑顔になる。
 そして、私は手に入れたばかりの魔蛍石を掲げて見惚れていた。

(ああ……なんて、綺麗なんだろう)

 原石が放つ光は、まるで闇夜に瞬く星のように幻想的だった。
 そして──その後も私たちは、ひたすら採掘作業に励んだ。結果、かなりの数の魔蛍石を採取することができた。

「ふう……こんなもんかしら」

 そう呟きながら、私は額の汗を拭う。

(さすがに疲れたな……)

 採掘に夢中になっていたせいか、いつの間にか体力を消耗していたらしい。
 私は小さく息をつくと、その場に腰を下ろした。

「大丈夫ですか? コーデリア様」

「ええ、大丈夫です。ちょっと、張り切りすぎただけなので」

 心配そうに声をかけてきたブレットに向かって、私は笑みを返す。
 次の瞬間──どこからともなく低い唸り声のようなものが聞こえてきた。
 風の音かもしれないが、何か違う気がする。私、アラン、サラの三人は顔を見合わせる。ふと、ブレットのほうに視線を移すと、彼もまた険しい表情を浮かべていた。

 不思議に思っていると、ブレットは私の視線に気づいたのか「静かに!」とジェスチャーしてきた。
 その唸り声は反響しており、かなり近い距離にいることを示していた。

「あそこですね……」

 ブレットは目を細めると、鉄柵がある方向を睨みつけた。
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