初恋のひとに告白を言いふらされて学園中の笑い者にされましたが、大人のつまはじきの方が遥かに恐ろしいことを彼が教えてくれました

3333(トリささみ)

文字の大きさ
1 / 10

しおりを挟む
「あなたのことが、あの時からずっと好きでした。よろしければわたくしと、お付き合いしていただけませんか?」

 私は一大決心のもと、頭を下げた。
 向かい合うすぐそばにいるのは初恋の相手であり最愛のひと。
 公爵令息のレオナルド・デュン・ブライデン様。
 彼は腕組みをしたまま、ジッと私を見下ろしている。

「…ロイヒン男爵令嬢。僕は君のことを、悪い女性でないことぐらいは知っている。しかし…」

 レオナルド様はそこで言い淀む。
 そのときは私を傷つけないよう、慎重に言葉を選ぼうとしてくださっているものと思っていた。
 けれど…

「僕はこの国において、王家の次に偉大とされる二大公爵家のひとつブライデン家の後継者。やがては王家をお支えし、下位貴族や平民たちの手本とならなければならない。対して君は、つい最近平民の準男爵から陞爵しょうしゃくしたばかりの、かろうじて貴族と呼べるような家の生まれ。もし僕が君との交際のために貴族たちとの交流を疎かにしたり、僕と君が馴れ合っている姿を見たら、みんなはどう思う?年頃の娘が恋に夢中になるその心理は配慮してやれなくはないが、君はもう少し自分と相手の立場を考えるべきだよ。」
「……そう、ですか……」

 泣いてはいけないと、胸の内で何度も叱咤しているのに。
 それでも涙は勝手に溢れてきて。

「本当に分かっているのか?人前でメソメソと泣くその振る舞いも、貴族令嬢として考えものだな。そんな為体ていたらくでこの僕の恋人になりたいなどと、よく言えたものだよ。今の君では貴族令息どころか平民の息子にすらあしらわれるさまが目に浮かぶね。だいたい君は、これまで僕たち貴族や王族が、長い歴史をかけて守ってきた階級や称号のことを…」

 涙が止まらない私を、レオナルド様は長時間にわたって叱責し続けた。
 苦しかった。
 心が引き裂かれそうなほど悲しかった。
 あれより辛いことなんてこの世にはないと、本気で思えるほどだった。
 ………まさかこの後あんなことが待ち受けているだなんて、想像すらしていなかった。

(あ~…長い休みのあとの授業って、どうしてこうも怠いのかしら。)

 そんな悲しい失恋から数日たった連休明け。
 私は心の中で愚痴りながら、校門を潜り抜けて校舎の中に入る。
 そのときにふと、違和感に気付いた。
 みんなが、私を見てる。
 それだけじゃない。
 せせら笑いや苦笑いを浮かべる人。
 近くの人々とヒソヒソと密談し合うグループ。
 汚いものでも見るような目を背けて、足早に去っていく人。
 反応はそれぞれだけれど、そのどれもに好奇・嘲笑・嫌悪の感情があからさまに含まれていた。

(なに?なんなの?)

 得体の知れない事態に一歩も動けないでいたところに、微かに何かが当たる感覚。
 足元を見下ろすと、小さく小さく折り畳まれたメモがひとつ。

『ホケンシツ に いらして』

 指示どおりに保健室に入ると、そこにはあの方がいた。
 シェリーラン・チェドル・フーディラス様だ。
 レオナルド様と同じく二大公爵家のひとつフーディラス家の御令嬢で、彼の幼馴染ということしか知らないのだが、彼女は私にいったい何の用だろうか。

「ロイヒン男爵令嬢、ブライデン公爵令息に交際を申し込まれたというのは本当ですか?」

 思わず自分の耳を疑った。
 どうして彼女が、そのことを?

「彼がご友人たちにお話ししていたのを、又聞きしたのです。貴女に愛を告げられたから、立場を考えるよう叱ってやったと。」

 信じられなかった。
 本当に彼が、そんなことを。

「あの方はご友人のみならず、少しでも関係や交流のあった方々にまで吹聴してまわっていたようで…知らない方はもう、恐らくこの学園にはいらっしゃらないかと。」
「……………」

 卒倒しそうなほどのショックだったけれど、廊下で響いた笑い声に身が竦む。

「ねえねえ、聞いた!?ブライデン公爵令息に告白した例の身の程知らず!ついさっきこの学園に来たんですって!」
「えーっ、ホント!?」
「ホントホント!保健室に行ったらしいから、いちど御尊顔を拝みに行ってみましょうよ!」

 ヒュッとノドが鳴る。
 頭が真っ白になって何も考えられない。

「窓からお逃げください。少し進んだ先に裏門があります。」
「ありがとうございます。」

 窓枠に足をかけ、飛び越える。
 見つからないよう這いつくばるように屈んで、進む。
 ビクリ、ビクリと停止しながら進むほんの数メートルの距離は永遠のように思えて。

「…っ!!!」

 裏門にたどり着いた瞬間、私は全力で学園から逃げ出した。
 そこから先のことは、よく覚えていない。
 仮の自宅である学生寮に帰り、ベッドに飛び込み、泣いて泣いて、涙が枯れるまで泣いて…
 次に目覚めたとき、時刻はすでに放課後を過ぎていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

双子の姉に聴覚を奪われました。

浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』 双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。 さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。 三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。

婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!

ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。 ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~ 小説家になろうにも投稿しております。

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

三度裏切られたので堪忍袋の緒が切れました

蒼黒せい
恋愛
ユーニスはブチ切れていた。外で婚外子ばかり作る夫に呆れ、怒り、もうその顔も見たくないと離縁状を突き付ける。泣いてすがる夫に三行半を付け、晴れて自由の身となったユーニスは、酒場で思いっきり羽目を外した。そこに、婚約解消をして落ちこむ紫の瞳の男が。ユーニスは、その辛気臭い男に絡み、酔っぱらい、勢いのままその男と宿で一晩を明かしてしまった。 互いにそれを無かったことにして宿を出るが、ユーニスはその見知らぬ男の子どもを宿してしまう… ※なろう・カクヨムにて同名アカウントで投稿しています

短編 一人目の婚約者を姉に、二人目の婚約者を妹に取られたので、猫と余生を過ごすことに決めました

朝陽千早
恋愛
二度の婚約破棄を経験し、すべてに疲れ果てた貴族令嬢ミゼリアは、山奥の屋敷に一人籠もることを決める。唯一の話し相手は、偶然出会った傷ついた猫・シエラル。静かな日々の中で、ミゼリアの凍った心は少しずつほぐれていった。 ある日、負傷した青年・セスを屋敷に迎え入れたことから、彼女の生活は少しずつ変化していく。過去に傷ついた二人と一匹の、不器用で温かな共同生活。しかし、セスはある日、何も告げず姿を消す── 「また、大切な人に置いていかれた」 残された手紙と金貨。揺れる感情と決意の中、ミゼリアはもう一度、失ったものを取り戻すため立ち上がる。 これは、孤独と再生、そして静かな愛を描いた物語。

大嫌いな従兄と結婚するぐらいなら…

みみぢあん
恋愛
子供の頃、両親を亡くしたベレニスは伯父のロンヴィル侯爵に引き取られた。 隣国の宣戦布告で戦争が始まり、伯父の頼みでベレニスは病弱な従妹のかわりに、側妃候補とは名ばかりの人質として、後宮へ入ることになった。 戦争が終わりベレニスが人質生活から解放されたら、伯父は後継者の従兄ジャコブと結婚させると約束する。 だがベレニスはジャコブが大嫌いなうえ、密かに思いを寄せる騎士フェルナンがいた。   

私は真実の愛を見つけたからと離婚されましたが、事業を起こしたので私の方が上手です

satomi
恋愛
私の名前はスロート=サーティ。これでも公爵令嬢です。結婚相手に「真実の愛を見つけた」と離婚宣告されたけど、私には興味ないもんね。旦那、元かな?にしがみつく平民女なんか。それより、慰謝料はともかくとして私が手掛けてる事業を一つも渡さないってどういうこと?!ケチにもほどがあるわよ。どうなっても知らないんだから!

処理中です...