【完結】政略結婚はお断り致します!

かまり

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2話 医師か薬師か

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「きゃっ‼︎」

 意識を失っていたはずの男性が、急にアイリスの手を掴んだ。

「……な、…何を…する…!」

 整った顔をひどく歪めながら、少しだけ目を開けた男性は、アイリスを睨みつけると呻くようにそう言った。

「あ、あのっ、お怪我がないか確かめようとしただけです!あなたが私の家の前で倒れて目を覚さないし、服もぼろぼろだから怪我をしてないかと思って」

 と、別に何も悪い事をしていないのに、急に咎められて慌てたアイリスは、言い訳するように事情を説明した。

「……そう…か……すまない…すぐここから消えるから…許してほしい…」

 そう言って男性は起き上がろうとするが、なんとか立ち上がったものの、ふらふらしてまたドサッと膝をついてしまった。
 
「きゃっ!…これって…⁉︎あなた、どこか怪我してるんじゃないの⁉︎」

 男性が起き上がったあとの地面をアイリスは青ざめて凝視する。その視線の先には血の跡が残されていた。  

 慌てて男性に目をやると、肩の辺りのローブに血が滲んでいるのが見えた。

「やっぱり!…ちょっとこっちへ入って?」

「…いや…大丈夫…気にしないで…」

「何言ってるの⁉︎全然大丈夫じゃないじゃない!」

 アイリスは無理しようとする男性が心配のあまり、怒りながら家の扉を開けると、

「ほらっ、掴まって?」

 と、力の入らない男性に肩を貸し、なんとか部屋の中へ入れて小さなベッドに座らせた。

「…怪我をみますから、ちょっと上の服、脱いで貰えますか?」

「…君…医者…なの?」

 男性は少し驚いたようにアイリスを見た。

「いいえ?違いますけど、ここには私しかいないんだから仕方ないでしょ?ほらっ、早くしないと傷が悪化しちゃいますよ!」

 アイリスの勢いに気圧されたのと、徐々に意識がはっきりすると共に、怪我の痛みがズキズキしてきた男性は、観念して大人しく上半身の服を脱いだ。

「きゃっ!」

アイリスは慌てて手で目を覆った。

「??」

「あっ、ああ、いえ、何でもないです!じゃあ、ちょっとみますねっ?」

 家族以外の男性の生身の身体を見たのが初めてだった事に、その時になって気づいてしまったアイリスは、急に恥ずかしさが込み上げてきてしまったが、今はそんなこと言っている場合じゃないと、なんでもないふりをして怪我の様子を見た。

 服を着ている時は細身だと思っていたのに、鍛え上げられているその身体を見て内心驚いたが、その肩を見て、そんなことを考えている場合ではないと青ざめた。

 傷口はぱっくりと開き、血が流れ出ている。傷口に溜まる血の色はどす黒く、傷はかなり深いように思われた。

 その様子を見て血の気が引いたアイリスは、一瞬気を失いそうになったが、助けられるのは自分しかいないと思うとなんとか踏ん張れた。

 急いで清潔な布を取って来ると、傷口に当てて、男性の手を取り、そこを押さえさせた。

「ごめんなさい、ちょっとこれで押さえてて貰えますか?私、薬草を準備してきますから」

「…君…薬師なの?」

「いいえ?ちょうど採ってきたばかりの傷に効く薬草があるので、持ってきます」

 そう言いながらアイリスはもう部屋の奥へ行ってしまった。
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