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7話 アイリスの秘密
しおりを挟む「ごちそうさま。…ふぅ。ほんとにお腹いっぱいになったよ。それに、ちゃんと美味しかったし。ありがとう、イリス」
アクアは満腹のお腹をさすりながら、笑顔で礼を言った。
「そう言ってもらえて良かったわ。今日は鹿のお肉もあったからとってもタイミングがよかったの」
「ああ、あの鹿肉、本当に美味しかったよ」
アクアはさっき食べたローストされた肉の味を思い出しながら言った。
「そうでしょ?この森を出たところの村にいる、唯一私が仲良くしてもらってる猟師さんがいてね?その人が時々採れた獲物を分けてくれるの。
あっ、この家もその猟師さんが自分の小屋を貸してくれて、わざわざ改造までしてくれたのよ?ほんとにいい人でしょ?」
「ああ、ほんとにすごくいい人だね。…でも、そういえば気になってたんだ。どうして君みたいな若い女の子が、こんなところに1人でいるの?」
「……」
今まで明るかったアイリスが急に黙ってしまった。
(…アクアは記憶喪失だし、悪い人でも無さそうだし…言っても大丈夫かな…?)
アイリスはそろそろ本当に1人が寂しくなってきていたので、身も知らない、記憶もないアクアにだからこそ、話してしまいたくなった。
「あのね?…内緒にしてね?」
「…僕が話せる相手は君だけだよ?」
アクアは困った顔で微笑んだ。
「ふふっ、それもそうね?じゃあ話すけど…
実は私…自分の宿命から逃げてるの」
「宿命?」
「そう…私ね、実はこの国の公爵家の娘なのよ。
本当の名前はアイリス=ジルコニア。嘘ついててごめんなさい。
1年前婚約させられるところだったんだけど、勝手に結婚相手を決められるのが嫌で逃げてきたのよ。
だからこの生活を始めて、そろそろ1年になるかしら…
父が公爵ともなると、人の多い場所に住めばすぐに見つかっちゃうでしょ?
だから人のいないところに逃げなくちゃと思って、この森に迷い込んだの。
その時にこの小屋を見つけて、中に入って休憩させてもらってた時に、今話した猟師さんに出会って助けてもらったのよ」
「…そうだったのか…それは大変だったね…
だけど、それにしたってそんな大貴族のご令嬢がこんなところで一人暮らしだなんて、よく1年も続けられるね?
婚約者はそんなに嫌な相手だったの?
君くらいの歳なら…見た目がよっぽど気に入らなかったとか?」
「…ううん、小さい頃に会ったことはあるんだけど、あまり憶えていないし、私が13歳になった頃にはその方は戦争に行ってしまって、長い間帰って来なかったから今の姿は分からないわ。
でも、ついに去年帰っていらしたから婚約することが決まったんだけど、会う前に逃げたせいで、結局今の顔は知らないままなの」
「…そうなんだ。…じゃあ、すごく歳が離れてるとか?」
「ううん、4歳歳上だと聞いてるけど、それくらいなら別に問題ないわ」
「ふーん…じゃあわからないな…どこが嫌だったの?」
いよいよ検討がつかなくなったアクアは首を傾げて聞いた。
「それがね?
少し前の戦争で1000人の部隊を1人で切り刻んで、敵が怯えて降参するほどの悪鬼のような恐ろしい方だと聞いて、好きになれそうな気がしないからひとまずここまで来たんだけど、
最近村に欲しい調味料があって買い出しに降りた時に、大変な話を聞いてしまったの。
…その人、毎晩遊びに出かけていなくなるんですって。女遊びがひどいのか、それともギャンブル狂いなのかわからないけど、とにかく朝にならないと帰って来ないらしいのよ。
そんな放蕩者で戦闘狂の恐ろしい方に一生仕えるなんてまっぴらごめんだわ」
アイリスはそう言って身震いした。
「仕える?その婚約者は君より身分が高いってことかい?」
「あっ!」
と、アイリスは手で口を押さえながら一瞬小さく叫んだが、まぁ、いいか、アクアだし…と言うと、開き直って続きを話し始めた。
「実はね?その方っていうのは、この国の第一王子カイル=サフィアス=ド=ジーニアス様なのよ」
「なんだって⁉︎…じゃあ、つまり君は王妃になるはずだったということなのかい⁉︎」
予想を遥かに飛び越える話に仰天したアクアは、まじまじとアイリスを見た。
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