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6話 素直で可愛い人
しおりを挟む「ふふふ…あ!そうだ、笑ってる場合じゃなかった。さっきお昼ごはん持ってきたんだけど、眠ってたから一度下げたのよ。もう一度持ってくるわね?
あと、アクアの服、ローブはもうぼろぼろでダメだったけど、中の服はまずまず無事だったから、少し破れてたところだけ繕って、洗っておいたわ。
まだ濡れてるから、乾くまでシーツに包まってて?私の服は入らないでしょうからね?ふふっ」
ついつい女性ものの服を着たアクアを思い浮かべて笑ってしまった。
「…何か…変な想像してない?」
アクアは可笑しなタイミングで笑ったアイリスに怪訝な目を向ける。
「そんなのしてませーん」
と言いながらも、クスクス笑いながらキッチンの方へ消えて行くアイリスの後ろ姿を見つめて、アクアは思わず、ふっと笑みが溢れた。
(不思議だな。ついついこちらまで笑顔になってしまう。それに、こんな身も知らない男を助けるなんて、本当に優しい子だ。
…それにしても、こんな森の奥の小屋のような家に、なんでこんな若い女の子が1人でいるんだ?)
薬草のおかげか熱も引いて、少し元気になってきたアクアは、急にアイリスのことが気になり始めた。
「お待たせ!大した材料も調味料もないから申し訳ないけど、おいしくなくても文句は言いっこなしよ?でも沢山あるからお腹だけはいっぱいにする自信はあるわ!ふふっ」
と、また可愛らしく微笑みながら、アイリスは木で手作りされたようなトレイに、いくつか料理を乗せて運んできてくれた。
「ありがとう、文句なんて言わないよ。せっかく作ってくれたのに。それに、そんなにたくさん大変だったんじゃない?」
アクアは体を起こして心配すると、
「大丈夫よ?もう慣れたから」
と、アイリスはなんでもなさそう言って、ベッド脇の小さな棚にトレイを乗せる。その中からスープの入ったカップをとって、スプーンに掬った。
「この森で採れたキノコのスープよ。ちゃんと図鑑で調べて私も食べたことのあるものだから心配しないで?はい、口開けて?」
アクアは素人が採るキノコの怖さは知っていた。自分に関する環境や人物は思い出せなくても、培ってきた知識は覚えているらしい。
かなり心配になったが、せっかく作ってくれたし、文句は言わないと言った手前覚悟を決める。
「あ、自分で食べられるよ?貸して?…あっ、っつぅ」
手を動かそうとしたが、傷口から痛みが響いてアクアは顔を顰めた。
「ほら、無理しちゃだめよ?私が食べさせてあげるから、嫌でも今は我慢して?ね?」
「…はぁ。…ごめん、…お願いします」
「ふふっ、素直でよろしい。…なんてね?」
アイリスは小さな舌を覗かせてウインクする。可愛いく心配してくれるアイリスに脱力したアクアは、諦めて素直に身を任せることにした。
アイリスはアイリスで、自分より歳上っぽい男性が素直に言うことを聞いてくれるのが可愛く思えて、妙にお世話したい気持ちが掻き立てられ、食べさせ終わる頃にはなんだか不思議と愛おしい気持ちにさせられた。
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