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10話 初めての安眠
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「……ア、アクア?」
半信半疑のアイリスは恐る恐る呼んでみる。
ワフっ
大きな銀狼は大人しく座って尻尾をパタパタさせながら喜んだ。
「……全然意味がわからないけど…あなた、本当にあのアクアなのね?」
ワフっ
「……どうしてそんな姿になっちゃったのよ…
ずっとそのままなの?…また元に戻れるの?」
ワフっ
「……それじゃわからないわよ…」
アイリスが困った顔をすると、その狼はまた悲し気にクゥーンと啼いた。
しばらく、大人しく座る狼を眺めながら考えていたアイリスは、
「…まぁ、…もう考えたって仕方ないわね!」
と、持ち前の明るさで開き直り、腰に手を当てて狼を覗き込んだ。
「あなたがアクアだろうがただの狼だろうが、とにかく行くところがないなら一緒にここで暮らす?」
ワフっ
「ふふっ。言葉がわかる狼なんて可愛い。わかったわ、じゃあ絶対私のこと食べたりしないでよ?」
アイリスはそう言いながら目を細めて優しく笑うと、ワフっと狼は返事を返した。
狼はすくっと四つ足をついて立ち上がり、アイリスに前足で飛びつくと、顔に鼻先を擦り寄せて喜んだ。
「や、やめてよっ、ふふっ、くすぐったいでしょ」
そう言いながらも、アイリスはふわふわな毛の誘惑に負けて、喉の下の方の毛の中に顔を埋めた。
「ふわぁ、柔らかくて気持ちいい!お布団みたいね?」
アイリスはそう言って大きな大きな狼に、さらに体まで埋もれさせると、ギュッと強く抱きしめた。その途端——
キャインッ
と狼は小さく悲鳴を上げるように鳴いて、アイリスから離れた。
「あっ!もしかして傷が痛かったのかしら…ごめんなさい。ついふかふかで気持ちよくて」
アイリスは申し訳なさそうにしながらも、名残惜しそうにその毛を見つめた。
狼はその気配を感じて少し後退る。
「ごめんなさい、大丈夫、もう抱きしめたりしないから、許して?」
アイリスは申し訳無さそうに言ったが、狼はあまり信用していないようだったので、「そうだ、あなたお腹は減ってない?」と機嫌をとるように聞いた。
狼はぶんぶんと首を横に振る。
「そう…じゃあベッドに戻りましょうか?寝ている途中に私が起こしちゃったんだものね?ごめんなさい」
アイリスはベッドの下にいた狼を踏みつけてしまったことを思い出した。
ワフっ
狼は尻尾を振りながらそう吠えると、またベッドの下の床に寝そべって体を丸め、尻尾で顔を隠した。
「…そこで寝るの?床冷たいでしょ?…傷に良くないから、ほら、ベッド使っていいわよ?私はそっちのソファで寝るから」
そう言って抱き上げようとしたが、アイリスの力ではびくともしなかった。
狼は狼で、どうしてもベッドに上がるつもりはないらしい。
「…しょうがないわね…じゃあちょっと待ってて?」
アイリスは部屋の奥から毛布を2枚持ってくると、一枚を床に敷いた。
「この上にどうぞ?」
ワフッ
狼は喜んで、毛布の上にまた同じように丸まった。アイリスはその上からもう一枚の毛布をかけてやると、狼は何も言わずにゆっくりと目を閉じた。
アイリスもそれを見ると安心して、自分もベッドに入った。
敵じゃない大きな狼が近くで寝ているのを見ていると、いつも一人のその部屋が、とても心強く感じて、アイリスはこの森に来てから初めて安心しながら眠りについた。
半信半疑のアイリスは恐る恐る呼んでみる。
ワフっ
大きな銀狼は大人しく座って尻尾をパタパタさせながら喜んだ。
「……全然意味がわからないけど…あなた、本当にあのアクアなのね?」
ワフっ
「……どうしてそんな姿になっちゃったのよ…
ずっとそのままなの?…また元に戻れるの?」
ワフっ
「……それじゃわからないわよ…」
アイリスが困った顔をすると、その狼はまた悲し気にクゥーンと啼いた。
しばらく、大人しく座る狼を眺めながら考えていたアイリスは、
「…まぁ、…もう考えたって仕方ないわね!」
と、持ち前の明るさで開き直り、腰に手を当てて狼を覗き込んだ。
「あなたがアクアだろうがただの狼だろうが、とにかく行くところがないなら一緒にここで暮らす?」
ワフっ
「ふふっ。言葉がわかる狼なんて可愛い。わかったわ、じゃあ絶対私のこと食べたりしないでよ?」
アイリスはそう言いながら目を細めて優しく笑うと、ワフっと狼は返事を返した。
狼はすくっと四つ足をついて立ち上がり、アイリスに前足で飛びつくと、顔に鼻先を擦り寄せて喜んだ。
「や、やめてよっ、ふふっ、くすぐったいでしょ」
そう言いながらも、アイリスはふわふわな毛の誘惑に負けて、喉の下の方の毛の中に顔を埋めた。
「ふわぁ、柔らかくて気持ちいい!お布団みたいね?」
アイリスはそう言って大きな大きな狼に、さらに体まで埋もれさせると、ギュッと強く抱きしめた。その途端——
キャインッ
と狼は小さく悲鳴を上げるように鳴いて、アイリスから離れた。
「あっ!もしかして傷が痛かったのかしら…ごめんなさい。ついふかふかで気持ちよくて」
アイリスは申し訳なさそうにしながらも、名残惜しそうにその毛を見つめた。
狼はその気配を感じて少し後退る。
「ごめんなさい、大丈夫、もう抱きしめたりしないから、許して?」
アイリスは申し訳無さそうに言ったが、狼はあまり信用していないようだったので、「そうだ、あなたお腹は減ってない?」と機嫌をとるように聞いた。
狼はぶんぶんと首を横に振る。
「そう…じゃあベッドに戻りましょうか?寝ている途中に私が起こしちゃったんだものね?ごめんなさい」
アイリスはベッドの下にいた狼を踏みつけてしまったことを思い出した。
ワフっ
狼は尻尾を振りながらそう吠えると、またベッドの下の床に寝そべって体を丸め、尻尾で顔を隠した。
「…そこで寝るの?床冷たいでしょ?…傷に良くないから、ほら、ベッド使っていいわよ?私はそっちのソファで寝るから」
そう言って抱き上げようとしたが、アイリスの力ではびくともしなかった。
狼は狼で、どうしてもベッドに上がるつもりはないらしい。
「…しょうがないわね…じゃあちょっと待ってて?」
アイリスは部屋の奥から毛布を2枚持ってくると、一枚を床に敷いた。
「この上にどうぞ?」
ワフッ
狼は喜んで、毛布の上にまた同じように丸まった。アイリスはその上からもう一枚の毛布をかけてやると、狼は何も言わずにゆっくりと目を閉じた。
アイリスもそれを見ると安心して、自分もベッドに入った。
敵じゃない大きな狼が近くで寝ているのを見ていると、いつも一人のその部屋が、とても心強く感じて、アイリスはこの森に来てから初めて安心しながら眠りについた。
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