【完結】政略結婚はお断り致します!

かまり

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30話 アクアの記憶ラスト 小屋まであと少し

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 マクロスが地下牢に来る少し前、カイルの体は熱くなり始めていた。

(まずい…狼に…変わる)

 そう思っているうちに、カイルの体は美しい銀狼の姿に変わっていた。
 人間の3倍はあると思われたその巨体は、軽々と繋いでいた鎖を砕き、柵に体当たりすると、簡単に歪んだ。
 その歪になった柵の隙間に体を入れると、まるでそこに柵などないかのように、自分の体の形に合わせて簡単に鉄の棒が曲がり、牢の外に出ることができた。

(やはり普通の狼ではないんだな。…精霊というのが本物だと、こんな形で知ることになるとはな)

 そう思いながら廊下を歩いて出ようとすると、
見張りの兵士たちが襲いかかってきた。

 カイルは殺してしまわないよう気をつけながら体当たりをして切り抜けようとしたが、一人、すぐに気を失わなかった者に斬りつけられ、深手を追ってしまった。

 しばらく王宮近くに身を潜めて、どうするか考えたが、そのうち大勢の歩兵と騎馬隊が出てきた。

 その後ろでマクロスが指揮をとっているのが見え、自分を追ってきたのだと分かったカイルはその場にいてはまずいと思い、行く当てもないまま、とにかく走った。

 …気づけばいつもの森に差し掛かっていた。

(ここへ来てしまったか… アイリス…君の顔が見たいな…今はまだ…寝てるか…もうすぐ夜が明けそうだな…)

 そう思って森の中に入ったところで朝日が登り始め、カイルは人の姿に戻ってしまった。

「つっ…ぅ」

 カイルは肩を押さえて唸った。

 精霊姿の時はそんなに感じなかった痛みが、人の姿になると急に激しく襲ってきた。
 咥えてきた服を着て、なんとか森の中の小屋を目指すが、動けば動くほど傷から血は溢れ、どんどん体力が奪われていく。

 少し寒くなってきた。

(まずいな…人間の体だとあの山小屋はこんなに遠かったのか…辿り着く前に倒れそうだ。

しかし倒れたらそのまま獣にやられるか、それとも村人に見つかって追っ手に差し出されてしまえば、それはそれで罪人扱い、最悪は処刑だ。

どっちにしても状況は最悪だな…

頼む…小屋までもう少し…もってくれ…)

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