【完結】政略結婚はお断り致します!

かまり

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35話 久しぶりの社交界

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「マリーサ様、本当にいつもお綺麗ですわ。私にもぜひ秘訣を教えてくださいませんか?」

 月に2度行われている王家主催の社交パーティーで、重鎮たちと挨拶を交わし終え、少し休もうと端の方へ歩いてきたマリーサのそばへ、上等なドレスに身を包んだ金色の流れるような美しい髪をした若い女性が近寄って来ると、キラキラした目をしてそう言った。

「…あら?あなた初めて見るお顔ですわね?どちらのご令嬢かしら?」

「あっ、大変失礼致しました。私、ジルコニア公爵家のアイリスと申します。最近社交界にあまり顔を出していなかったものですから…

マリーサ様があまりにお綺麗で、ついお声がけしてしまいましたこと、どうかご容赦くださいませ」

 アイリスは丁寧にカーテシーをすると、申し訳無さそうに謝った。

 しかし、第二王子の婚約者とはいえまだ侯爵家令嬢のマリーサに、それより身分の高い公爵令嬢のアイリスが別に頭を下げる必要などないのだが、この後の計画を成功させるためにも、気位の高そうなマリーサを良い気分にしてやろうと、低姿勢な様子を貫いた。

「あら、いいのよ?ふふっ、可愛らしい方ね。でもジルコニア公爵家といえば、カイル殿下の婚約者候補なのが嫌で逃げていたと聞いておりましたけど?」

 マリーサは扇子を広げて口元を隠しながら、嫌味とも取れることを平気で言った。
 しかし、アイリスはそんな口撃くらい気にも留めない。計画遂行のことで頭がいっぱいなアイリスは、まるで子供のように純粋に鬼ごっこを楽しむような気持ちだった。

「お恥ずかしいことでございます。ですが、もう…その必要もなくなりましたので…」

 アイリスは照れたように微笑んだ。

 そう…本当に必要なくなったのだから、これは演技ではない。マリーサを追い詰めるために、もう小屋にいる場合ではなくなったのだから。

「あら。ああ、そうね?ごめんなさい。彼、どこにいるかわからないんですものね?それに…」

 マリーサは訳あり気にお腹を手でさすった。

 その様子を見て、第一王子派のジルコニア公爵家の人間に、さらに追い討ちをかけてやろうと思っているのだろうと趣旨が読めたアイリスは、そのまま話に付き合ってやる。

「…私も一応関係者ですから聞き及んでおります。大変なことでございましたね…
心中お察し致します」

「あっ、ごめんなさい…あなたは婚約者候補だったのに、こんなこと…」

 マリーサは取って付けたように、申し訳なさそうな顔をして見せた。
 アイリスはマリーサが本当に嫌な女だということをここまでの会話で痛感した。

「いいえ、私のことは気になさらないでください。もともとなんとも思っていない方ですから。

私は今自分が好きになれる方を探しているんですのよ?

マリーサ様はマクロス殿下ととても仲睦まじいとお聞きしました。
私もそういう関係に憧れて、毎夜探し歩く毎日ですわ」

「まぁ…毎夜⁇…じゃあ、もしかして…あなたも男好きなの?」

 マリーサの目の色が変わり、アイリスに顔を近づけて小声になる。
 アイリスも合わせて小さな声で話を続けた。

「…ふふっ、男好きだなんてそんな。ただ選んでいるだけのことですよ?だって一生涯に一人だけなんて、なかなか決めるのは大変ではございませんか?

…このこと…絶対、内緒にしてくださいね?
マリーサ様だけですよ?

でも…あなたも…ということはもしやマリーサ様も…?」

「ふふふっ、私も内緒よ?こんなこと話したのは初めてなんだから。本当に世の中お堅い人ばっかりで嫌になっちゃう。あなたとは気が合いそうでよかったわ」

 マリーサは嬉しそうに微笑んだ。
 アイリスは、釣れた!と、魚を釣ったかのように内心諸手を挙げて喜んだ。

「ありがとうございます。ぜひこれからもご指南くださいませ」

 アイリスは口の端を上げて、ニヤリと悪そうな顔をして見せる。

「あら?いいわよ?3日後の仮面舞踏会、あなたも来る?」

「仮面舞踏会には行ったことがないんですけれど、どういうパーティーなんでしょうか?」

 アイリスは不思議そうな顔をして尋ねた。そうくるとは思わず、仮面舞踏会に出たことがないので下調べを怠ったことに悔しくなったが、ここは素直に聞いてみた。

「そう、初めてなのね?楽しいわよ?気に入った男性がいれば、お互い顔も身分も知られることなく、『いろいろ』できるところなの。あなたいくつ?」

「はい、18歳です」

「そう、じゃあ問題ないわ。そういうの経験しておくのも悪くないわよ?じゃあ一緒に行きましょ?」

 マリーサはニコニコしながらアイリスを誘った。

「よろしいのですか?マリーサ様と一緒にお供させて頂けるなんて嬉しいです!」

 アイリスは、知らないところに行けるということに対して好奇心が沸々と湧き、演技ではなく心底表情が輝いた。

「ふふっ、いい子ね。じゃあ招待状はなくても私と行けば大丈夫だから、3日後の夜に迎えに行くわね?」

「ありがとうございます!」

「いいのよ、私もそういうお友達が欲しかったから、じゃあね」

 マリーサはそう言ってウインクすると、また他の人たちの輪の中へと入って行った。

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