【完結】政略結婚はお断り致します!

かまり

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45話 公爵の笑顔

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「協力してくれて本当に助かったよ、ジルコニア公」

 久しぶりに自分の執務室のソファに座るカイルは、目の前に座るジルコニア公爵にそう言った。

「いや、全て丸く収まって何よりです」

 仮面舞踏会の会場の手配や、アルバートが調査したマリーサの過去の相手の男たちを買収して舞踏会に参加させてくれた公爵に、カイルは礼を言った。

「あー!私も見たかったな、カイルの仮面姿!」

「こらっ、アイリス、カイル殿下とお呼びせぬか!」

 隣に座るアイリスに公爵は小声で叱った。
 しかし、しっかり聞こえたカイルがすぐに助け舟を出す。

「ああ、僕がそう呼ぶように頼んだからいいんだよ。怒らないであげて?

それにしてもアイリス?それはこっちの台詞だな。僕も見たかったよ?アイリスの仮面姿」

 カイルは微笑んで言った。

「まぁ!カイルったら。カイルのを見るのはいいけど、自分のを見られるのは嫌よ」

「ふふっ、勝手だな、アイリスは」

 そう言いながらも、ニコニコしてアイリスを眺めているカイル見て、公爵は平和が戻ってきたことにほっとした。

「殿下が無事に王宮に戻られて本当に安堵致しました」

 公爵が思わずそう言って、いつも難しい顔をしているのに珍しく笑顔を見せたので、アイリスとカイルは目を合わせて笑った。

「はははっ、ああ、悪い。公の笑顔は珍しくてつい…

でも僕だけじゃなく、みんなが笑顔になれてこんなに幸せなことはないな。

本当にありがとう…ジルコニア公には本当に世話になった。あなたの協力なしに今の僕はない。感謝してもしきれないよ」

「いいえ、こちらこそアイリスを取り戻してくださったこと、心より感謝申し上げます」

 公爵は改まって礼を言った。

「いや、アイリスには辛い思いをさせてしまって、本当に申し訳なかった。あんな牢に入れられるなんて、本当に今思い出しても許せないよ…」

 カイルは牢に入れられていた時のアイリスを思い出すだけで、悔しさが蘇った。

「辛くなんてなかったですよ?なかなか出来ない貴重な体験でしたわ」

 アイリスはウインクして微笑んだ。

 しかしカイルは震えていたアイリスを思い出すと、きっと強がっているだけなんだろうと思った。

 そしてその強がりは、カイルに罪の意識を背負わせたくないと思うアイリスの配慮なのだろうと思うと、切ないようなでも心が温まるような不思議な気持ちにさせられた。

「アイリス、本当に君って子は…僕はいつも元気を貰ってばかりだよ」

 そう言ったカイルは困ったように笑った。

「それにしても…」

 と、公爵が真剣な顔で口を開いた。

「2人は仲が良さそうだが、アイリス?もう逃げる必要などないのではないか?」

 顎に手を当て首を傾げて2人を見る公爵を、目を丸くしてアイリスは見る。

「え?」

「殿下との婚約から逃げていただろう?殿下は他の候補者を探すことなく、待ってくださっているのだぞ?」

「あ、ああ、そうでした…」

 アイリスは痛いところを突かれて急にしょんぼりとした。

「いいんだ、ジルコニア公。
アイリスにはゆっくり考えてもらいたい。
本当に心から僕がいいと思ってくれた時でいいんだ。

だからアイリス、もう山小屋に戻らなくても、公爵家でゆっくり考えてほしい。

君の思うようにしていいんだ。
君の人生は君だけのものなんだからね?」

「ありがとうございます…あの、私、その、カイルのこと嫌いなんかじゃない…です。

噂を信じたりしてごめんなさい。
あなたはそんな人じゃなかった……

戦争でのことも、それはこの国のためだったんだと、今のカイルを見ていればよくわかります。

だから、私、カイルのそばでもう少しカイルのことを知りたい…」

「それは、…僕と婚約してもいいということかい?」

 カイルは恐る恐る聞いた。

 アイリスは今まで逃げていた申し訳なさがあって、素直に言葉で返事は出来なかったが、小さく頷いて答えを返した。

「よし!そうと決まれば気が変わらぬうちに善は急げ!すぐに陛下に報告だ!私はちょっと行ってくる!」

 公爵はアイリスが、やっぱり…などと言い出す前に慌てて部屋を出ると、王のもとへと急いだ。
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