40 / 894
2章 闇と勇者と聖女
35(挿絵あり)
しおりを挟む
シェリーはナオフミの家を出て、外を歩いていた。月が明るく草原を淡く照す。上を見ればまん丸な月が2つ群青の空に浮かんでいた。今日は2つとも満月なので空が明るい。この2つの月を見るたびに、ここが異世界だということを思い知らされる。
本当は勇者と聖女を訪ねたくなかったのだ。
わたしが私であったと思い知らされる。家族にならなかった家族がいることを思い知らされる。本当はもう少し子供として甘えることができる選択肢もあったのではないかと思わされる。
ここはシェリーとしても佐々木という女性にとっても鬼門である。
今回もひどく心を引っ掻き回された。夫の事まで引き出された。ああ嫌だ。
本当はまだあの病院のベットで眠り続けているのではないかと、目を開ければ夫が心配そうな顔で隣にいてくれるのではないかと。
ひどく心が乱れる。
シェリー自身、ルークに依存していることは分かっている。佐々木という女性の子供への執着。シェリーという子供の家族への憧れ、二人の女性のこの世界で生きるための存在意義。それがすべてルークへの愛情に変化していった。
不安定な心はルークのために行動することで安定性を保っていた。しかし、ここにルークはいない。
いつの間にか結界の端まで来てしまっていた。グレイによって壊された結界は直されていたが、足元の花畑は無惨な姿のままだ。
この花は知っている。ビアンカの好きな花だ。でもシェリーはこの花が嫌いだった。
まだ、自分で身の回りのことができない頃、オリバーとビアンカが花畑で二人の世界を作りシェリーを返り見なかった時を思い出す。
二人にとってシェリーは必要のない存在なんだろう。きっと、ばあやがいなければシェリーは生きていなかった。
「思いでの花を咲かせよう。今夜だけの。2つの月と私しか知ることはない一晩だけの宴の花」
シェリーは二つの月を見上げ、目を閉じる。もう、心の中でしか見ることのできない風景を思い出し、魔力に乗せる。
「『夢の残像』」
無惨な姿をした花畑はピンクの炎に包まれ、ピンクの光へ変わっていった。その光はひとつの大きな塊として形造り、大木へと変化した。その大木には薄いピンクの花を咲かせている。風によりヒラヒラと舞う花びらはなんとも幻想的だ。幼いころ佐々木家で毎年、見に行った樹齢400年の桜の木を再現したのだ。
木の下に赤い敷物を敷き、その上にあがる。シェリーは黒い着物姿になっていた。喪服ではなく、昔祖母が晴れの日に良く着ていた大島の着物である。黒い着物を凛と着こなす祖母に憧れた。この着物姿も幻影である。ここには祖母の着物なんて存在しないのだから。
赤い敷物の上に座り、炎国で手に入れた、米の酒と盃を取り出す。
シェリーに一杯、そして誰もいない向かい側に一杯、盃に酒を満たす。手にした盃を口に付け、酒を喉に通す。米の酒の独特の甘い香りが口の中を満たした。
「やぁ。なんとも楽しそうなことをしてるじゃないか。」
いつの間にかシェリーの目の前には胡座をかき、シェリーの着物に合わせたかのような白い着物を着て、先程の盃を手に持った白い人がいた。
桜の巨木の下に黒髪に黒い着物をきたシェリー、全てが白い謎の生命体。相反する色をまとった二人が幻想的な風景の中にいる。
「とても心が乱れているようだったから心配だからきてあげたよ。」
「あなたがいる方が乱れが酷くなりました。なぜ現実的に目の前に居るのですか。」
「ちょっと違うかな。さっき創って発動したスキル『夢の残像』に干渉したから目の前にいるように見えるだけだよ。」
「一人で楽しもうとしていたのに邪魔をしないでいただきたい。」
「お酒を二人分用意したくせに。」
「それは月に捧げた酒です。これはわたしと月だけの宴です。ただただ、見上げるしかないわたしと見下ろすしかない月との花見です。」
「ああ。そうだね。こんな風に世界を見上げることはなかった。美しい夜だね。僕はね本当は世界がどうなろうと構わないんだ。もし、世界が壊れてしまっても創り直せばいいだけだしね。だから、そんなに気を張らなくてもいいんだよ。」
「何となく分かっていましたよ。遊んでいるだけなんだろうなと。私、負けず嫌いなんです。」
「それ、知っているよ。」
「だから、やれることはやりますよ。」
「でも、君は一人じゃないよ。ほら、お迎えが来ているよ。呼んであげなよ。」
「それもわかってて放置しています。」
「悪い女だね。」
「あなたがいる空間に共に存在出来るほど、二人の位は高くないですよ。それを分かっていて誘うあなたはなんなのでしょうね。」
相反する色をまとった二人の間に花吹雪が舞い上がる。そこにある世界は白と黒のみが支配していた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
補足
晴れの日:大きな節目となるお正月やお盆や祭りなど、神様を迎え、災難を払い、豊作を祈るための日。この日に良い着物を着て祝うという風習。
大島の着物:大島紬。泥染めの黒褐色を基調としている。シェリーが着ているもののイメージは総柄ではなく、ほとんど黒褐色で一部に白い花模様という感じです。
挿絵(月夜の宴)
下に進むかは読者様にお任せします。
↓
↓
↓
↓
↓
本当は勇者と聖女を訪ねたくなかったのだ。
わたしが私であったと思い知らされる。家族にならなかった家族がいることを思い知らされる。本当はもう少し子供として甘えることができる選択肢もあったのではないかと思わされる。
ここはシェリーとしても佐々木という女性にとっても鬼門である。
今回もひどく心を引っ掻き回された。夫の事まで引き出された。ああ嫌だ。
本当はまだあの病院のベットで眠り続けているのではないかと、目を開ければ夫が心配そうな顔で隣にいてくれるのではないかと。
ひどく心が乱れる。
シェリー自身、ルークに依存していることは分かっている。佐々木という女性の子供への執着。シェリーという子供の家族への憧れ、二人の女性のこの世界で生きるための存在意義。それがすべてルークへの愛情に変化していった。
不安定な心はルークのために行動することで安定性を保っていた。しかし、ここにルークはいない。
いつの間にか結界の端まで来てしまっていた。グレイによって壊された結界は直されていたが、足元の花畑は無惨な姿のままだ。
この花は知っている。ビアンカの好きな花だ。でもシェリーはこの花が嫌いだった。
まだ、自分で身の回りのことができない頃、オリバーとビアンカが花畑で二人の世界を作りシェリーを返り見なかった時を思い出す。
二人にとってシェリーは必要のない存在なんだろう。きっと、ばあやがいなければシェリーは生きていなかった。
「思いでの花を咲かせよう。今夜だけの。2つの月と私しか知ることはない一晩だけの宴の花」
シェリーは二つの月を見上げ、目を閉じる。もう、心の中でしか見ることのできない風景を思い出し、魔力に乗せる。
「『夢の残像』」
無惨な姿をした花畑はピンクの炎に包まれ、ピンクの光へ変わっていった。その光はひとつの大きな塊として形造り、大木へと変化した。その大木には薄いピンクの花を咲かせている。風によりヒラヒラと舞う花びらはなんとも幻想的だ。幼いころ佐々木家で毎年、見に行った樹齢400年の桜の木を再現したのだ。
木の下に赤い敷物を敷き、その上にあがる。シェリーは黒い着物姿になっていた。喪服ではなく、昔祖母が晴れの日に良く着ていた大島の着物である。黒い着物を凛と着こなす祖母に憧れた。この着物姿も幻影である。ここには祖母の着物なんて存在しないのだから。
赤い敷物の上に座り、炎国で手に入れた、米の酒と盃を取り出す。
シェリーに一杯、そして誰もいない向かい側に一杯、盃に酒を満たす。手にした盃を口に付け、酒を喉に通す。米の酒の独特の甘い香りが口の中を満たした。
「やぁ。なんとも楽しそうなことをしてるじゃないか。」
いつの間にかシェリーの目の前には胡座をかき、シェリーの着物に合わせたかのような白い着物を着て、先程の盃を手に持った白い人がいた。
桜の巨木の下に黒髪に黒い着物をきたシェリー、全てが白い謎の生命体。相反する色をまとった二人が幻想的な風景の中にいる。
「とても心が乱れているようだったから心配だからきてあげたよ。」
「あなたがいる方が乱れが酷くなりました。なぜ現実的に目の前に居るのですか。」
「ちょっと違うかな。さっき創って発動したスキル『夢の残像』に干渉したから目の前にいるように見えるだけだよ。」
「一人で楽しもうとしていたのに邪魔をしないでいただきたい。」
「お酒を二人分用意したくせに。」
「それは月に捧げた酒です。これはわたしと月だけの宴です。ただただ、見上げるしかないわたしと見下ろすしかない月との花見です。」
「ああ。そうだね。こんな風に世界を見上げることはなかった。美しい夜だね。僕はね本当は世界がどうなろうと構わないんだ。もし、世界が壊れてしまっても創り直せばいいだけだしね。だから、そんなに気を張らなくてもいいんだよ。」
「何となく分かっていましたよ。遊んでいるだけなんだろうなと。私、負けず嫌いなんです。」
「それ、知っているよ。」
「だから、やれることはやりますよ。」
「でも、君は一人じゃないよ。ほら、お迎えが来ているよ。呼んであげなよ。」
「それもわかってて放置しています。」
「悪い女だね。」
「あなたがいる空間に共に存在出来るほど、二人の位は高くないですよ。それを分かっていて誘うあなたはなんなのでしょうね。」
相反する色をまとった二人の間に花吹雪が舞い上がる。そこにある世界は白と黒のみが支配していた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
補足
晴れの日:大きな節目となるお正月やお盆や祭りなど、神様を迎え、災難を払い、豊作を祈るための日。この日に良い着物を着て祝うという風習。
大島の着物:大島紬。泥染めの黒褐色を基調としている。シェリーが着ているもののイメージは総柄ではなく、ほとんど黒褐色で一部に白い花模様という感じです。
挿絵(月夜の宴)
下に進むかは読者様にお任せします。
↓
↓
↓
↓
↓
2
あなたにおすすめの小説
二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される
七海美桜
恋愛
旧タイトル:五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。
石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。
ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。
そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
