番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

文字の大きさ
382 / 894
25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影

371

しおりを挟む
「あら、怖い。怖い。ここがモルディールのギルドよ。入って」

 カーラは後ろを振り向きながら、手招きをして、建物の中に入っていった。剣と盾が図柄の看板が掲げられた建物であり、そこが冒険者ギルドだということが、示されていた。

 ギルドの中の一室にシェリーとカイルが通された。会議室のように大きめのテーブルとそれを囲うように複数の椅子が置かれている部屋だ。

「まぁ、そこに座って。改めまして、モルディールのギルドマスターをしているカーラ・シャルールよ」

 やはり、カーラ・シャルールで間違いないようだ。
 しかし、見た目はどう見ても筋肉ウサギのグアトールの一族にしか見えない。そもそもウサギ族が冒険者ギルドのマスターをしている時点で普通ではないのだ。

「Sランクのカイルだ」

「Bランクのシェリーです」

 お互いが軽く自己紹介をして席に着いた。そして、カーラが神妙な顔をして話しだす。

「実はね。何があったか何もわからないのよ。気がついたら街の外にいたのよ。訳がわからないわ」

 何もわからないと言いたいが為にそこまで神妙な顔をしなくても、いいのではないのだろうか。

「だから、何が起こったのか教えて欲しいのよ。王都の本部から何か言われて来てくれたのでしょ?Sランクだなんて、こんな辺境にまで普通は来てくれないもの」

 カーラはカイルを見て言う。元々このモルディールは何も問題ないというぐらい、平和な街だった。魔物もスライムとかゴブリンとか低級な魔物ばかりしか見かけない地域だ。低級な魔物しかいない理由は隣国に関係するのだが、ここでは詳しくは語るまい。
 だから、わざわざSランクがこのモルディールに来る事態が非常事態だと。

「こっちは連絡が取れなくなったモルディールと連絡を取ってくれと言われただけだ。それ以外に言うことはない」

 カイルは今回の依頼の内容のみを答えた。何が起こったのかという質問をギルドマスターからされたにも関わらず。

「その説明じゃ何もわからないわ。私としても何が起こったか把握をしておかないと、これからどうするか決められないじゃない?」

 カーラの言うことは正論だ。何もわからないと対策も打てない。ポッカリと抜け落ちた記憶の期間に何が起こったか把握をしておかないといかない。

「何も言うことはない」

 しかし、カイルは同じ言葉を繰り返すのみ。
 これでは埒が明かないと思ったのだろう。カーラは室内でも外套のフードを深く被っているシェリーに視線を向け、今度はシェリーに尋ねる。

「じゃ、そこのお嬢さんに聞くわ。何が起こったか教えてもらえるかしら?」

 矛先を向けられたシェリーはカーラを見た。フードの奥からカーラの目を見て、とてもとても機嫌が悪く答える。

「ゴミムシがクズゴミを使っていただけです。燃やして廃棄すべきだと思いますが、これはクソ狐に始末をつけてもらわないといけませんので」

「全くわからないわ。できれば私にわかりやすく話して欲しいわ」

 何も知らないカーラからしてみれば、シェリーの言葉は理解不能だった。しかし、シェリーもカイルと同じくカーラに同じ言葉を返す。

「ゴミムシの所業です」

 この二人の態度にはカーラもお手上げのようだ。ため息を大きく吐き出し頭を抱えて、ピンと立っていた白く長い耳がへにょんと折れ曲がっていた。

 普通ならギルドマスターとして強く出ればいいのだが、カーラの前にいるのはSランクであり竜人族のカイルとラースの目を持ったシェリーだ。
 普通ならこの国には存在しない強者が目の前に存在しているのだ。
 下手すれば獣人族でしかないカーラなど一捻りだろう。

「お願いよ。あった事を教えて欲しいの」

 だから、カーラはただただ懇願する。教えてほしいと。

「マルス帝国の恐らく第十三部隊か新たに新設された部隊が関わっているのですけど、帝国と事を構えたいというなら、教えますが?」

「て、帝国!で、でも話を聞いただけで帝国と事を構える必要はないわよね?」

「ちっ!」

「舌打ち?!」

 今回の件はとてもとても面倒なことになっているので、シェリーは事後処理をすべて国王であるイーリスクロムに任せようと····いや、押し付けようと思っているのだ。
 しかし、ここでどう見ても脳筋ウサギの血族であるこのギルドマスターに話すと、グアトールの名を持つ者達に伝わってしまうことは明白だ。
 下手すると、統括師団長閣下が動きだしてしまうかもしれない。

 まだまだ、シェリーとしては手札が揃っていない状態で軍に動かれるのは、好ましくない。
 なので、イーリスクロムに内々で動いてもらおうと考えているのだ。

「ギルドマスターさん。今回の依頼はこのモルディールと連絡を取ることです。依頼を完遂しましたので、帰ります」

 そう言って、シェリーは立ち上がる。そして、隣のカイルも立ち上がって、シェリーの手を取って部屋の外に出ようとする。

「ちょっと待って!依頼はそうかもしれないけれど、まだ帰らないで!このまま帰るとじい様に言いつけてやるんだから」

 じい様。恐らく統括師団長閣下のことだろう。この国の者なら、子供のような脅し文句が効いたかもしれないが、シェリーもカイルもこの国の者ではない。だから、シェリーは振り返りカーラに答える。

「お好きにどうぞ」

 そう言って部屋の扉を閉めた。閉められた部屋の中ではカーラの奇声と物が壊れる音が響いていた。統括閣下の名で折れない者はきっといなかったのだろう。カーラにとってこれはよい教訓になったであろう。本物の力を持つ者は権力というものに跪かないということに。

しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜
恋愛
旧タイトル:五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです! フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...