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25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影
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イーリスクロムは疲れたと言って、ナヴァル家を後にした。その背中にシェリーは念押しをするように『第7師団が連れてくるマルス帝国の者達を尋問して、対処できるようにしておいてください』と言った。
その言葉にイーリスクロムは更に肩を落とし、去っていった。
「流石、シェリーさんです!あの兄をあれだけヘコますなんて!」
よくわからない褒め言葉を言いながらセーラはシェリーにお茶のおかわりを差し出す。
「セーラさん。まだユーフィアさんとの話が終わってないので、呼んで来てもらえませんか?師団長さんは連れてこなくていいです」
「了解しました!」
そう、シェリーとユーフィアが話をしているときに乱入者が入っていたので、まだ途中だったのだ。
セーラが出ていき、ルジオーネもクストの様子を見てくると言って出ていってしまったので、室内にはシェリーとカイルしか居なくなってしまった。
「シェリー。さっき言われたことを本気で受けるのか?」
「第0師団のことですか?」
先程、言われたこと。もちろん、対マルス帝国のために設立する第0師団のことだ。
「ええ、そうですね」
シェリーは肯定を示す言葉を言う。マルス帝国を潰すと決めたシェリーが率いる第0師団、いったいどんな恐ろしい集団になってしまうのだろうか。
「ただ、人選だけですよ。私が師団を率いることはありません」
どうやら恐ろしい集団となることは避けられるようだ。
「人選だけ?」
カイルはこれ以上シェリーに関わる者達を増やしたくなかったためホッと胸をなでおろすが、本当に人選だけで済むのかという疑問が口からこぼれ出た。
「ええ、クソ狐も言っていたではないですか、祭りで人を見つけて引き抜けばいいと」
確かにイーリスクロムはそのような事を言っていた。『祭りで人を引き抜く』と。改めて聞くとおかしな言葉だ。
「冬の祭りは一番盛り上がるからね。人は沢山集まってくると思うけど、そんな都合よく集まるかな?」
「カイルさん。一般ではなく、軍から引き抜くに決まっていますよ。第3師団。いい人材を抱えていて遊ばせているではないですか」
「うーん?第3師団って見たことないな」
____________
シェリーとカイルが第0師団をどうするか話している頃
「頭が痛い」
マリアの手によってソファに寝かされていたクストが起き上がり、頭を押さえていた。
「ひどくヤラれたのですか?」
「ああ、ルジオーネか」
クストの様子を見に行くと言っていたルジオーネがクストが寝かされていた部屋に入ってきていた。
「はぁ。全く爺様の動きが追えなかった。俺って弱いのか?」
「爺様がおかしいのですよ」
そう言ってルジオーネは苦笑いを浮かべる。そして、クストの向かい側に腰を降ろした。
「クストは知っていましたか?爺様が我々一族を恨んでいたことを」
ルジオーネは納得しきれないでいるのだろう。この国で英雄と称されたクロードが一族を恨み、戦地という死地に追いやったということが。
「知っていた」
クストは頭が痛いのか顔をしかめて答える。
「俺が小さい時に一度だけ話してくれた。この世界は理不尽だと。他者に虐げられたく無ければ強くなれと。弱いければ文句も言えず一族から捨てられると。その時に思った爺様はこの世界を憎んでいるんだろうって」
「我々一族を殺すために戦地に連れて行ったことは?」
ルジオーネは手を固く握りしめ、何かを耐えるようにクストに問う。
「一族を殺すため?ん?あのときルジオーネは居なかったのか?一族全員を集め、戦地に赴くかどうかの話し合いの時だ。『青狼族の誇りを持って戦地に赴くか、怯えた子犬の様に震えてココに留まるかは己で決めろ』と爺様は言っていたぞ」
確かにこの言葉には選択肢が自分にあるように思える。しかし、現実的にこの言葉を聞いて戦地に赴かない狼獣人はいないだろう。
どうやら、クストはクロードが一族の者達を誘導したとは思わないようだ。しかし、ルジオーネはこの言葉こそが一族を死に追いやった言葉だと確信した。
「爺様は笑っておられた。何事にも動じず表情を変えない爺様が、我々一族が両手にも満たない数まで減ったと知って笑った。そして、『俺を苦しめた青狼共を戦に引き連れていった甲斐はあった』と····。悔しい。俺は悔しい」
ルジオーネは悔しいと繰り返し言い続け、うつむいて膝の上の握った拳からは血が滴っていた。
「ルジオーネ。何が悔しいんだ?」
クストは不思議そうに聞いた。その言葉にルジオーネは憤る。
「クストは悔しくはないのですか!英雄と呼ばれた爺様が俺たちを殺したんだ!俺たち青狼族を!」
「違うぞ。それは違う。青狼族のみんなは誇り高く戦って死んだんだ。逃げずに戦った。戦い抜いた」
クストは一息を付いて話を続ける。
「なぁ、ルジオーネ。英雄の名を与えられようが俺たちは『裏切りのグロス』の血がこの身に流れている。この血は千年経とうが消えることはない。爺様は我ら一族に誇り持って生きるように言っただけだ。それに皆が応えた。だから、ルジオーネが悔しがることなんて何もない」
そう言って、クストは笑った。
クロードが与えた選択死。彼が言ったようにそれは優しい優しい復讐には程遠い、青狼族として生き抜く道を示しただけだったのだ。
補足
『裏切りのグロス』とは、水龍アマツのエルフ族からの独立戦と関わりがあります。千年以上前の話ですね。炎王の物語でも名前しか出てきません。
その言葉にイーリスクロムは更に肩を落とし、去っていった。
「流石、シェリーさんです!あの兄をあれだけヘコますなんて!」
よくわからない褒め言葉を言いながらセーラはシェリーにお茶のおかわりを差し出す。
「セーラさん。まだユーフィアさんとの話が終わってないので、呼んで来てもらえませんか?師団長さんは連れてこなくていいです」
「了解しました!」
そう、シェリーとユーフィアが話をしているときに乱入者が入っていたので、まだ途中だったのだ。
セーラが出ていき、ルジオーネもクストの様子を見てくると言って出ていってしまったので、室内にはシェリーとカイルしか居なくなってしまった。
「シェリー。さっき言われたことを本気で受けるのか?」
「第0師団のことですか?」
先程、言われたこと。もちろん、対マルス帝国のために設立する第0師団のことだ。
「ええ、そうですね」
シェリーは肯定を示す言葉を言う。マルス帝国を潰すと決めたシェリーが率いる第0師団、いったいどんな恐ろしい集団になってしまうのだろうか。
「ただ、人選だけですよ。私が師団を率いることはありません」
どうやら恐ろしい集団となることは避けられるようだ。
「人選だけ?」
カイルはこれ以上シェリーに関わる者達を増やしたくなかったためホッと胸をなでおろすが、本当に人選だけで済むのかという疑問が口からこぼれ出た。
「ええ、クソ狐も言っていたではないですか、祭りで人を見つけて引き抜けばいいと」
確かにイーリスクロムはそのような事を言っていた。『祭りで人を引き抜く』と。改めて聞くとおかしな言葉だ。
「冬の祭りは一番盛り上がるからね。人は沢山集まってくると思うけど、そんな都合よく集まるかな?」
「カイルさん。一般ではなく、軍から引き抜くに決まっていますよ。第3師団。いい人材を抱えていて遊ばせているではないですか」
「うーん?第3師団って見たことないな」
____________
シェリーとカイルが第0師団をどうするか話している頃
「頭が痛い」
マリアの手によってソファに寝かされていたクストが起き上がり、頭を押さえていた。
「ひどくヤラれたのですか?」
「ああ、ルジオーネか」
クストの様子を見に行くと言っていたルジオーネがクストが寝かされていた部屋に入ってきていた。
「はぁ。全く爺様の動きが追えなかった。俺って弱いのか?」
「爺様がおかしいのですよ」
そう言ってルジオーネは苦笑いを浮かべる。そして、クストの向かい側に腰を降ろした。
「クストは知っていましたか?爺様が我々一族を恨んでいたことを」
ルジオーネは納得しきれないでいるのだろう。この国で英雄と称されたクロードが一族を恨み、戦地という死地に追いやったということが。
「知っていた」
クストは頭が痛いのか顔をしかめて答える。
「俺が小さい時に一度だけ話してくれた。この世界は理不尽だと。他者に虐げられたく無ければ強くなれと。弱いければ文句も言えず一族から捨てられると。その時に思った爺様はこの世界を憎んでいるんだろうって」
「我々一族を殺すために戦地に連れて行ったことは?」
ルジオーネは手を固く握りしめ、何かを耐えるようにクストに問う。
「一族を殺すため?ん?あのときルジオーネは居なかったのか?一族全員を集め、戦地に赴くかどうかの話し合いの時だ。『青狼族の誇りを持って戦地に赴くか、怯えた子犬の様に震えてココに留まるかは己で決めろ』と爺様は言っていたぞ」
確かにこの言葉には選択肢が自分にあるように思える。しかし、現実的にこの言葉を聞いて戦地に赴かない狼獣人はいないだろう。
どうやら、クストはクロードが一族の者達を誘導したとは思わないようだ。しかし、ルジオーネはこの言葉こそが一族を死に追いやった言葉だと確信した。
「爺様は笑っておられた。何事にも動じず表情を変えない爺様が、我々一族が両手にも満たない数まで減ったと知って笑った。そして、『俺を苦しめた青狼共を戦に引き連れていった甲斐はあった』と····。悔しい。俺は悔しい」
ルジオーネは悔しいと繰り返し言い続け、うつむいて膝の上の握った拳からは血が滴っていた。
「ルジオーネ。何が悔しいんだ?」
クストは不思議そうに聞いた。その言葉にルジオーネは憤る。
「クストは悔しくはないのですか!英雄と呼ばれた爺様が俺たちを殺したんだ!俺たち青狼族を!」
「違うぞ。それは違う。青狼族のみんなは誇り高く戦って死んだんだ。逃げずに戦った。戦い抜いた」
クストは一息を付いて話を続ける。
「なぁ、ルジオーネ。英雄の名を与えられようが俺たちは『裏切りのグロス』の血がこの身に流れている。この血は千年経とうが消えることはない。爺様は我ら一族に誇り持って生きるように言っただけだ。それに皆が応えた。だから、ルジオーネが悔しがることなんて何もない」
そう言って、クストは笑った。
クロードが与えた選択死。彼が言ったようにそれは優しい優しい復讐には程遠い、青狼族として生き抜く道を示しただけだったのだ。
補足
『裏切りのグロス』とは、水龍アマツのエルフ族からの独立戦と関わりがあります。千年以上前の話ですね。炎王の物語でも名前しか出てきません。
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