559 / 894
25章-4 冬期休暇-悪魔という存在
546
しおりを挟む
シェリーは目の前の状況に目を据わらせていた。東京という大都市を模した場所に、3メルはあろうかと思われる巨大な黒い球体。それが歪に中から何かが出てこようと蠢いている。
見た目はもう特撮と言っていい状態だ。
「出てくる寸前みたいだね」
赤いテレビ塔を模した背景の下で、この場の雰囲気とは合わない者たちが4人、黒い球体の前に立っていた。カイルは既に大剣を抜き構えている。
ナーガのユールクスは顎を撫ぜながら、フムと唸って黒い球体を観察している。その後ろには同じくナーガのスイがユールクスを盾にするように隠れている。
シェリーはというと、この情景に嫌気が差していた。だから、目を細めてこの黒い球体を見ている。
「確かに何も違和感を感じぬ。実際に目の前にあっても信じられない」
ユールクスはこの状況に理解はできるが、自分の能力と目の前にある異物の存在の差に不快感を感じているようだ。
その観察している黒い球体から突如として手が生えた。いや、黒い皮膚に青い血管が這うように見える紋様の腕が突き出てきたのだ。
そこから押し出るようにもう一本の腕が出てくる。
「どうします?」
シェリーはこの状況下でユールクスに尋ねた。こちらで対処していいのか。ユールクスが始末するのかと。
いや、今すぐ始末するのか。それとも、中身を確認してから始末するのかと。
「これは我が手を下そう。ラースには魔核の浄化を頼みたい。残りの4つも配下に始末させている」
いつの間にかユールクスは配下の者に悪魔の揺り籠の処理を命じていたようだ。しかし、ユールクスの部下と言ってもシェリーはスイ以外のモノたちがユールクスの側にいるところを見たことがないので、頷くしかない。
そして、ユールクスの言葉を聞いたカイルは構えていた剣を鞘に戻す。
同じくらいユールクスの言葉を聞いていた。シェリーが頷いたと同時に黒き殻から、黒き存在が出てきた。
「うぷっ。気分悪りー」
その存在は殻から外に出て黒いアスファルトの地面にしゃがみ込んでうずくまってしまった。
出てきた早々死にかけなのだろうか。
「あー。あ?」
黒い存在はシェリー達の存在に気が付き、顔を上げた。漆黒の髪に闇を塗り込めたような皮膚。その皮膚の上を血管のように這う青い紋様。そして、シェリーたちを見る目は血のように真っ赤だった。
「人族と憎き竜人はわかるけど。あんたたち何者?」
しゃがみ込んだままの黒き存在がユールクスとスイに視線を向けて疑問を口にした。この者の言葉は理解できる言葉だった。
しかし、ユールクスもスイもその質問には答えない。答える意味がないのだ。このまま死すべき存在に名乗ることなど無駄なことだと。
「まぁー、いいけど」
そう言って黒き存在は立ち上がった。そして、次の瞬間その姿がブレて消え去った。シェリーはすぐさま常時展開しているマップ視線を向けるが、マップには黒い丸がシェリーたちの側にいることには変わらない。
次いで爆音が空を模した天井で鳴り響いた。
「もしかして逃げたのか!」
ユールクスが天井に視線を向け、手の平を上に掲げた。そして、ぐしゃりと手を握り込む。
暫し待つと、ユールクスは大きくため息を吐き、腕を下ろした。
「逃げられた」
「逃げられた?!」
シェリーは驚いたように声を上げた。ユールクスのダンジョンの中で、それもダンジョンマスターであるユールクスを目の前にして逃げ切れるとは、普通は思えない。
「我が知る完全体の悪魔はすべて好戦的だったので、あやつも向かってくるものばかり思っていたが、まさか逃げるとは」
ユールクスは再び大きく溜息を吐いた。
確かに、完全体の悪魔の姿が消えてから、少し間があったのは事実。そして、爆音でユールクスが気づき、何かしらの攻撃を加えていたと思えるが、初動動作が遅れたことは否めない。
いや、そもそも油断をしていたのだ。姿は異形であったが、その態度は人間臭いと言っていいものだった。
そう、オリバーの記憶から再現された悪魔も、ユールクスのダンジョンで再現された悪魔も、その目には全てを否定する色を映していた。
そして、人をさげすみ暴力で全てを壊そうをする狂気。
だから、余りにも人間臭い態度に油断していたのだ。この悪魔は出来損ないだと。
「ユールクスさん。逃げられたなんて嘘ですよね」
シェリーは信じられないと、もう一度確認する。絶好の機会を逃すなんてありえないということだ。
「開けられた縦穴を閉じて、外と階層の間で閉じ込めようとしたが、閉じた穴を再び破壊して出ていってしまった」
「見つけた瞬間、たたき切ればよかったね」
その時は、剣を構えていたカイルが言う。
「いや、あれは我が知っている悪魔ではなかった。何というか、魔人と呼ばれる存在と似ている気がした」
ユールクスは青い晴れ渡った偽物の空を見上げながら言葉を漏らしたのだった。
_________
待っていなかったかもしれませんが、おまたせしました。
連日4時起きで色々書いていたのが、祟ったのかひじょーに眠たいです。誤字脱字の取りこぼしは後日訂正します。
見た目はもう特撮と言っていい状態だ。
「出てくる寸前みたいだね」
赤いテレビ塔を模した背景の下で、この場の雰囲気とは合わない者たちが4人、黒い球体の前に立っていた。カイルは既に大剣を抜き構えている。
ナーガのユールクスは顎を撫ぜながら、フムと唸って黒い球体を観察している。その後ろには同じくナーガのスイがユールクスを盾にするように隠れている。
シェリーはというと、この情景に嫌気が差していた。だから、目を細めてこの黒い球体を見ている。
「確かに何も違和感を感じぬ。実際に目の前にあっても信じられない」
ユールクスはこの状況に理解はできるが、自分の能力と目の前にある異物の存在の差に不快感を感じているようだ。
その観察している黒い球体から突如として手が生えた。いや、黒い皮膚に青い血管が這うように見える紋様の腕が突き出てきたのだ。
そこから押し出るようにもう一本の腕が出てくる。
「どうします?」
シェリーはこの状況下でユールクスに尋ねた。こちらで対処していいのか。ユールクスが始末するのかと。
いや、今すぐ始末するのか。それとも、中身を確認してから始末するのかと。
「これは我が手を下そう。ラースには魔核の浄化を頼みたい。残りの4つも配下に始末させている」
いつの間にかユールクスは配下の者に悪魔の揺り籠の処理を命じていたようだ。しかし、ユールクスの部下と言ってもシェリーはスイ以外のモノたちがユールクスの側にいるところを見たことがないので、頷くしかない。
そして、ユールクスの言葉を聞いたカイルは構えていた剣を鞘に戻す。
同じくらいユールクスの言葉を聞いていた。シェリーが頷いたと同時に黒き殻から、黒き存在が出てきた。
「うぷっ。気分悪りー」
その存在は殻から外に出て黒いアスファルトの地面にしゃがみ込んでうずくまってしまった。
出てきた早々死にかけなのだろうか。
「あー。あ?」
黒い存在はシェリー達の存在に気が付き、顔を上げた。漆黒の髪に闇を塗り込めたような皮膚。その皮膚の上を血管のように這う青い紋様。そして、シェリーたちを見る目は血のように真っ赤だった。
「人族と憎き竜人はわかるけど。あんたたち何者?」
しゃがみ込んだままの黒き存在がユールクスとスイに視線を向けて疑問を口にした。この者の言葉は理解できる言葉だった。
しかし、ユールクスもスイもその質問には答えない。答える意味がないのだ。このまま死すべき存在に名乗ることなど無駄なことだと。
「まぁー、いいけど」
そう言って黒き存在は立ち上がった。そして、次の瞬間その姿がブレて消え去った。シェリーはすぐさま常時展開しているマップ視線を向けるが、マップには黒い丸がシェリーたちの側にいることには変わらない。
次いで爆音が空を模した天井で鳴り響いた。
「もしかして逃げたのか!」
ユールクスが天井に視線を向け、手の平を上に掲げた。そして、ぐしゃりと手を握り込む。
暫し待つと、ユールクスは大きくため息を吐き、腕を下ろした。
「逃げられた」
「逃げられた?!」
シェリーは驚いたように声を上げた。ユールクスのダンジョンの中で、それもダンジョンマスターであるユールクスを目の前にして逃げ切れるとは、普通は思えない。
「我が知る完全体の悪魔はすべて好戦的だったので、あやつも向かってくるものばかり思っていたが、まさか逃げるとは」
ユールクスは再び大きく溜息を吐いた。
確かに、完全体の悪魔の姿が消えてから、少し間があったのは事実。そして、爆音でユールクスが気づき、何かしらの攻撃を加えていたと思えるが、初動動作が遅れたことは否めない。
いや、そもそも油断をしていたのだ。姿は異形であったが、その態度は人間臭いと言っていいものだった。
そう、オリバーの記憶から再現された悪魔も、ユールクスのダンジョンで再現された悪魔も、その目には全てを否定する色を映していた。
そして、人をさげすみ暴力で全てを壊そうをする狂気。
だから、余りにも人間臭い態度に油断していたのだ。この悪魔は出来損ないだと。
「ユールクスさん。逃げられたなんて嘘ですよね」
シェリーは信じられないと、もう一度確認する。絶好の機会を逃すなんてありえないということだ。
「開けられた縦穴を閉じて、外と階層の間で閉じ込めようとしたが、閉じた穴を再び破壊して出ていってしまった」
「見つけた瞬間、たたき切ればよかったね」
その時は、剣を構えていたカイルが言う。
「いや、あれは我が知っている悪魔ではなかった。何というか、魔人と呼ばれる存在と似ている気がした」
ユールクスは青い晴れ渡った偽物の空を見上げながら言葉を漏らしたのだった。
_________
待っていなかったかもしれませんが、おまたせしました。
連日4時起きで色々書いていたのが、祟ったのかひじょーに眠たいです。誤字脱字の取りこぼしは後日訂正します。
12
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
魔王の娘に転生した私は、恐れられるどころか世界一の美貌で恋愛ルート確定でした
月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、私は異世界で――
恐怖と絶望の象徴・魔王の娘として生まれていた。
この世界で魔王の血を引く者は、恐れられ、忌み嫌われる存在。
孤独な運命を覚悟していたはずなのに、なぜか周囲の反応がおかしい。
父である魔王は超美形で娘に激甘。
魔族たちは命がけで守ってくる。
さらに人間側の勇者や王子、騎士までもが、次々と私に惹かれていき――。
どうやら私は、世界一の美貌を持って生まれてしまったらしい。
恐れられるはずだった魔王の娘・セラフィナ・ノワールの人生は、
気づけば溺愛と恋愛フラグだらけ。
これは、
魔王の血と世界一の美貌を持つ少女が、
数多の想いの中から“運命の恋”を選ぶ、
甘くて危険な異世界恋愛ファンタジー。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる