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25章-4 冬期休暇-悪魔という存在

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「愚弄などしていません。それにダンジョンマスターである陽子さんの言葉を代弁しただけです」

 大陸最大のダンジョンマスターであるユールクスの殺気を受けながらもシェリーはいつも通り淡々と言葉にする。

「これも陽子さんが言っていたことですが、その原因物はダンジョンポイントというエネルギーを己の中に溜めていっていたようです」

 ユールクスと同じダンジョンマスターの言葉と聞いて、殺気は押さえられたものの、依然としてユールクスはシェリーの言葉を疑っているように怪訝な表情をしている。

「その原因ブツとはなんだ」

 シェリーのまどろっこしい話し方に苛立ってきたのか、結論を求めるユールクス。

「『悪魔の揺り籠』と言えばいいでしょうか。私の視えるものでは正確な文字が読みきれず『揺り籠』としかわかりませんでしたが、中にはアーク族が悪魔に成り変わろうとしている途中の者が存在していました」

 シェリーの言葉にユールクスは驚いたように目を見開いた。そして、その後ろに控えているスイも信じられないと口をぽかんと開けてシェリーの言葉を聞いている。

「ラース。言いたいことは、この我のダンジョンにもその悪魔の揺り籠があるのではないのかと、言っているのか?」

「そうですね」

 シェリーはユールクスの言葉を肯定する。そして、そのまま続けて話し出す。

「ユールクスさんのダンジョンは広いので実際の目を使っての管理がされていないですよね」
「ああ」
「陽子さんは実際の『悪魔の揺り籠』を見てやっと認識したようです。ですから、第1階層だけでも、配下の方にお願いして見て回ったほうがいいと思います」

 シェリーのその言葉に半信半疑であるユールクスは低く唸っているような声をあげる。そして、後ろを振り返ってスイに視線を向ければ、スイは了解したと頷いて、この場から消え去った。ダンジョン内を移動したのだろう。

 そして、ユールクスは挑発するような笑みを浮かべて言った。

「我はてっきり未だに間隔を開けてやってくる次元の悪魔について、何かわかったのかと思ったのだが?」

 今、ユールクスにとって一番煩わしいことは、帝国からやってくる次元の悪魔だろう。それも間隔を開けてということは、定期的にギラン共和国に侵入してきているということなのだ。

「そのことですが、恐らく帝国は何らかの実験を行っており人を次元の悪魔に変えるすべを手に入れていると思われます」

「人を次元の悪魔にだと!」

 ユールクスが表情を一転させて驚いた表情をした。長年ここでダンジョンマスターをしているユールクスには寝耳に水の話だった。

「それからエルフ族の奴隷を媒体にして転移門を作りだしました」

「ラース。ちょっと待て話が飛び過ぎだ。そもそも転移門は黒のエルフでさえ、設置に苦慮してものだ。それを帝国はいとも簡単にやってのけたというのか?」

 黒のエルフとはアリスのことだ。神に一矢報いるために、ワザとダンジョンの側に転移門を設置して、街を作り出したアリス。そのアリスでさえ転移門の設置には細心の注意を払っていたのだろう。

「いとも簡単にというか、何も考えずに転移門の固定を行っただけです。ただその場所が特殊な環境でありましたから、建物一つが吹っ飛んだだけですみました」

「それは被害が出たと言うべき事柄であろう?しかし、エルフの奴隷か……今のところ5人か」

 ユールクスによるとギラン共和国内にいるエルフの奴隷は5人いるらしい。このような場合はユールクスのような存在が国を守護していることにメリットを感じる。

「そして、その転移門を使って帝国は次元の悪魔を王都の中心部に送り付けてきました。それも操られた状態のモノです」

 シェリーの言葉に『ふむ』と唸ったまま、ユールクスは黙り込んでしまった。恐らく今、共和国内にいるエルフの奴隷が転移門を発動させ次元の悪魔を送り込んで来たときの被害と迅速な対応を頭の中で巡らせているのだろう。

 その時に静まり返った空間にユールクスの配下であるスイの声が響き渡った。

「マスターさま!大変ですー!!」

 とても慌てたような感じで応接室のような部屋の壁から飛び出てきたナーガの女性は、ユールクスに縋りついて、口をパクパクしている。あまりの動揺に言葉が出てこないようだ。

「落ち着きなさい」

「はい。申し訳ございません」

 そう言って深呼吸をするスイを見てみると、姿かたちは異形であるが、人らしい姿であった。これもまた、水龍アマツや炎王が与えた影響なのかもしれない。

「第1階層を手分けして調べたところ、見たことがない大きな黒い球体が5つ存在しておりました」

 なんとユールクスのダンジョン内には5つもの悪魔の揺り籠が存在していた。
 そのスイの言葉にユールクスは固まってしまっている。己の支配下にあるダンジョンでは、絶対に有り得ないことが、配下であるスイから報告されたのだった。




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