番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

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27章 魔人と神人

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「そう言えば、ここにはマリーは入ってこないのだな」

 ラフテリアとロビンが魔女の家に入ってきたにも関わらず、マリートゥヴァの姿が見えず、モルテ王は扉の方に視線を向けた。
 しかし、その扉は既に閉まっており、扉が開く様子がない。いや、今までのことを見ると、エリザベートが出迎えない限り、扉は開くことはないのだろう。

 そして、エリザベートはラフテリアとロビンを迎え入れた時点で扉を閉めてしまったので、それ以上の客は居ないということだ。

 シェリーはモルテ王の言葉に身を固くする。一度死んで世界の楔と共につがいである絆は切れてしまった。だから、そこまでマリートゥヴァに想いは持ち合わせてはいないと思っていた。
 ただ、モルテ王とロビンとの関係性が分からず、ロビンに説明をさせようと思っていたのだ。

 ここにきて、ロビンがラフテリアを大切に思っていると同様に、モルテ王もマリートゥヴァに対し、『大切な人』と口にしたのだ。

 これは番としての重苦しい想いは無いが、今まで築き上げてきた関係性に変わりがなかったということなのだろうか。

 カウサ神教国を共に守って行こうとした二人。そして、変わり果てた国民に居場所を与えるために王になったモルテ王。贖罪のためにラフテリアに仕えることを決めたマリートゥヴァ。
 二人の道は別れてしまったが、全てが国のため変わり果てた国民のためだとすれば、互いに納得した形だったのだろう。



「マリーの全ては僕がもらったよ」

 ロビンが左の胸に手を当てて言った。モルテ王をまっすぐに見て言葉にしたのだ。

 言われたモルテ王はロビンが何を言っているのか、わからないという表情をしていた。

 だが、ロビンの姿を上から下に見て、再び下から上に食い入るように見て、唸り声を上げる。

 その唸り声にはどのような感情が込められているかわからない。いや、様々な感情が溢れ出し、唸り声として表に出てきてしまったのだ。

「この身体を与えられるには、誰かの犠牲が必要だったんだ。誰かを犠牲にしてまで元の姿に戻る意味はあるのか、でも元の姿に戻ればラフテリアの剣になれる。迷ったんだ。とても迷った。でもそれは駄目だと思った」

 やはり、ロビンとしては誰かを犠牲にしてまで身体を得ることに戸惑いがあったのだろう。しかし、身体を得れば今までできなかった事ができる。
 ロビンには人を犠牲にするという決断はできなかった。それを後押ししたのがマリートゥヴァだ。

「でもマリーが自分の身体を使って欲しいって言ってくれた。これが贖罪の形だって……」

 そう言葉にしたロビンは大きく息を吐いた。それはこれから言う言葉の重さを少しでも軽くするかのように。

「マリーの最後の言葉を言うよ
『もう心残りはないのです。エフィアルティス様がお幸せに暮らして行けるとわかったのです。長年の苦しみから解放され、今では番も傍らにおられる。でも本音を言えば、たとえエフィアルティス様のお姿がモルテ王になられているとしても、わたくし以外の者と幸せになることに嫉妬を覚えます。きっとこのままでは、その番をこの手にかけてしまうでしょう』
これは僕に気にする必要はないと言いたかったのかもしれない。だけど、マリーの本心でもあったと思う」

 ロビンの言葉を聞いている途中で、モルテ王は片手で顔を覆いうつむいてしまった。
 番であったマリートゥヴァの想いはどれほど年月が経とうとも、共に過ごすことはなくとも、変わることはなかったと。

「そうか」

 モルテ王の口からこぼれるような言葉が出てきた。マリートゥヴァが失われ、ロビンの身体へと変換された。普通であれば否定するべきところだ。そんなことはあり得ないと、魔人だろうとも、人の身体になれるはずがないと。

 だが、モルテ神とオスクリダー神、そして大魔女エリザベートから創らえたモルテ王は、そのような事が起こり得るとわかってしまった。
 一度その姿を目にすれば、理解させられる。白き神の手にかかれば、魔人の身体をロビンの身体に創り変えることなど、指先一つでできることだろうと。

「そうか。そうか。マリーは先に逝ってしまったのか……いや、先に死んだのは俺だが……だが納得はした」

 納得はしたと言って顔を上げたモルテ王の表情は、納得したというより、決意したと表現した方がいいだろう。何かを決めた顔をしていた。

「約束を守ったということだな。マリー。俺は国と民を守る。マリーは聖女と剣聖に仕え、過ちを繰り返さないようにする。それが聖女と民への贖罪。道は違えども、思いは一つ」

 これはマリートゥヴァとモルテ王との間に交わされた言葉なのだろう。マリートゥヴァはラフテリアに贖罪のために仕えていたが、それはラフテリアを見張り、カウサ神教国で起こった悲劇を三度みたび繰り返さないという意味だった。

 国を治める立場であった者たちの間で交わされた約束。

「マリー。俺も君が誰かと幸せになっている姿を見れば、良かったと思うだろうが、きっと嫉妬をしただろうな」

 最後の言葉は独り言のように、ここにはいないマリートゥヴァに向けられたのだった。



___________

長かった。300話以上かかって、マリートゥヴァの最後の言葉が伝えられました。
白き神の言葉を違えなければ、きっと二人はよい統治者になれたことでしょう。

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