神守の少女、二度目の人生は好きに生きます〜因縁相手は勝手に自滅〜

雪水砂糖

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5 侍女長の話

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 光矢はさっそく執事長に話しに行ってくれると言った。
 私のスケジュール調整は侍女長が責任者なので、他の教育との兼ね合いもあることから、佳乃を呼んで侍女長に話を通してもらうことにした。

「佳乃、侍女長に話があるから、時間を取ってもらえるか聞いてくれない?」

 佳乃はすぐに部屋を出て行き、しばらくして戻ってきた。

「すぐにでも大丈夫だそうです」

「では、こちらに来ていただきましょうか?」

「私が行くわ」

 佳乃に案内されて侍女長の部屋へ向かった。

 佳乃がノックし、「瑞葉様をお連れしました」と告げると、
「入ってちょうだい」と侍女長の声が聞こえた。

 部屋に入ると、侍女長は笑顔で迎えてくれた。

「忙しいのに、ごめんなさい。ちょっとお願いがあるの」

「まあまあ、お嬢様。どうされたんですか?ささっ、座ってください。佳乃、お茶をお願いね」

 佳乃がすぐにお茶を準備しに向かう。
 侍女長は嬉しそうに微笑みながら言った。

「どんなお願いですか?」

「私、光矢と一緒に体術の訓練がしたいの」

 侍女長は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに目尻を下げて理解した様子だった。

「そうですか。お嬢様が自分で必要だと思われたのですね」

「ええ。スケジュールの調整をお願いできるかしら?もちろん、他のことも手を抜かないわ」

 侍女長は感慨深げに言った。

「お嬢様、雰囲気が変わりましたね。今までも小さな体で必死に頑張ってこられましたが、なんだか吹っ切れたように感じますよ」

「このまま、与えられたことだけをやるのはだめだと思ったの」

 侍女長は微笑みながら、
「フフッ、血は争えませんね。お母様も同じくらいの年頃に自分からお兄様の訓練に混ざりたいと言われたんですよ」

「えっ……知らなかった……」

 侍女長は母の幼少期からの付き人で、この家についてきた人だ。

「お母様って戦えるの?あんなに深層のご令嬢みたいな方が?」

「ええ、それはもう」

 考えてみれば、私はお母様のことを何も知らなかった。
 こんなに近くに詳しい人がいるのに、自分から知ろうともしなかった。
 ただただ、自分が愛されていないと悲観し、まるで悲劇の主人公のように振る舞っていた。

 今日はちょうど家族で食事をする日だった。
 私は思い切って、父と母に体術を習うことを伝えようと決めた。

「お母様に体術を習うことを報告したら、喜んでくださるかしら?」

 侍女長は微笑みながら答えた。
「ええ、もちろんです。お嬢様、いえ、お母様は表に感情を出されないので誤解されやすいのです。昔からそうなんですよ」

 佳乃が元気よく手を打ち鳴らし、
「では今日は、気合を入れてお支度しましょうね」と張り切っていた。

 侍女長との話を終える頃には、先生がいらっしゃる時間が迫っていた。私は慌てて部屋へ戻る。

 午前中は、先生の指導のもと、読み書きの復習、算術、そして歴史の学習をこなした。
 昼は一人で軽く食事をとり、午後からは別の先生による礼儀作法のレッスンが始まる。
 父の意向で、上大位の家でも通用する最高水準の礼儀作法だ。その分、覚えるべき作法は数え切れないほどある。
 けれど、どれも十六歳までに履修済みの内容なので、今の私にとっては難なくこなせた。

 勉強が終わると、夕食会に向けての支度が始まる。
 これまでの私は、やる気なく髪はただ邪魔にならないよう適当にまとめ、服も動きやすいワンピースでいいと佳乃に言っていた。
 だが今日は違う。佳乃とあれこれ相談しながら、子供らしく高い位置で二つに結い、誕生日にお母様からいただいた青玉の付いた水色のリボンを飾る。
 ワンピースも、同じく水色で裾に少しフリルのついた可愛らしいものを選んだ。
 胸には、お父様から贈られたウサギのブローチをそっと留める。

 そのプレゼントたちは、いつも心から気に入っていた。
 けれど、あの女が「執事や侍女長に選ばせたものらしいわ、かわいそうに」と笑ったせいで、私はそれらを仕舞い込み、身につけることをやめていた。
 今思えば、それもあの女の作り話だったのかもしれない。

 ふと、胸の奥に黒いもやのような感情がゆらめく。
 もし今の私を光矢が見たら、そのもやをすぐに感じ取るだろう。
 でも、大丈夫。そんな私でも、光矢は見捨てない。そう確信できる。
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