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20 救出2
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やがて、岩毛熊たちが四方から結界に体当たりしてきたが、衝撃は吸収され、びくともしない。
倒れている二人を守りながら、大輔と私は助けを待った。
攻撃魔法がまだ満足に使えない私は、結界を張り続け、子どもたちを守るしかなかった。
そんなとき、森の奥から、風を切るような勢いで誰かが駆けてくるのが見えた。
「アオ君?!」
声を上げた瞬間、彼は三頭の岩毛熊に取り囲まれた。
しかし、彼は微塵も慌てず、敵の動きを冷静に見極め、あえて身を晒して誘い込みながら、巧みに立ち回っていた。
岩毛熊たちは威嚇と突進を繰り返すが、彼は跳躍や回転を交え、神気で刃を走らせる。体力は削られ、汗が額を伝う。熊の一頭が急に突進してきた瞬間、彼は冷静に体をかわし、刃で胸部を斬り、一頭目を倒した。
「くっ……よし、これで一頭!」
息つく暇もない。まだ残りの熊たちは周囲にいる。戦いの気配が森に張り詰めていた。
そのとき、佳乃と神官様も駆けつけた。二人が加わると、彼は一頭に集中しつつ、残りを二人に任せることができた。三人は手分けして岩毛熊の群れを攻撃し、神気や体術を駆使して一頭ずつ確実に倒していく。
しばらく戦い続け、アオ君が最後の一頭を斬り伏せ、岩毛熊の群れは沈黙した。森に満ちていた緊張が、急速に解けていく。
「……ふぅ……終わったな」
息を整えながらアオ君が呟く。その右腕には深い傷があり、血が滲んでいた。
佳乃も肩で息をしている。左腕には大きな裂傷、服も泥と血で汚れている。
神官様は脇腹を押さえていたが、表情は穏やかだ。
私は結界から出て、三人のもとへ駆け寄った。
「すぐに治します」
まずはアオ君の全身に神気を巡らせ、状態をざっと診る。
ぱっと見では右腕の深い傷だけだと思ったが、足首の状態も良くない。
戦闘で負荷がかかったのだろう。
掌に神気を集め、右腕の穢れを祓い、傷口を修復していく。いつものように思いを込めて。そして、足首のほうが少し厄介だった。強い穢れをすぐに祓えなかったのだろう。少し呪いのようになっている。より強い神気と思いを込めて治していく。なんとか成功したようだ。
続けて神官様と佳乃にも同じように治癒を施していく。神官様は少し肩も痛めていたので、そこも治しておいた。
アオ君は不思議そうな顔をしながら、両足で軽く跳ねて感触を確かめている。
神官様は、感激した様子でお礼を言ってくださった。
「あなたの治癒はとても速く正確ですね。この年齢で相当な努力をしたのでしょう。しかも長年痛めていた肩も治してくれたのですね。とっても軽くなりましたよ。ありがとう」
――嬉しかった。私でも役に立てた。けど……
「いいえ、私にはこれくらいしかできませんから。神官様もアオ君も、本当に来てくださってありがとうございます。私は戦えません……お二人が佳乃と共に戦ってくださったおかげで、岩毛熊を倒せました。心から感謝します」
そう言って、深く頭を下げてお礼をした。
「それから神官様、この二人は傷は治しましたが、まだ目を覚ましません。休ませられる場所はありますか?」
「もちろんです。神殿の救護室へ運びましょう」
二人はおぶられて神殿へ運ばれ、大輔も念のため診てもらうことになった。
その後、私と佳乃、アオ君は事情聴取のため神殿の小部屋に通された。
「さて、聞かせてください。どうしてあのような事態に?」
「孤児院で、大きい子が少ないことに気づいたんです。聞けば、ある人物が『おこづかいをあげるから』と薬草採取を頼んできて、朝から出かけたと……それにしては帰りが遅いので森に探しに行くと、穢牙兎と戦っていました」
佳乃が続ける。
「その後、人の血の匂いを嗅ぎつけ岩毛熊の群れが接近しました。私は瑞葉様に子どもたちを任せ、増援を呼びに走ったところ、アオ様が事情を聞いて助けに向かってくださったのです」
神官様は深くうなずいた。
「あなたたちが気づいて動かなければ、こどもたちの命が危なかったでしょう。……それで、薬草を頼んだのは……」
「『ひらひらの服でくるくるの髪』と言っていましたので、おそらく笠原綾乃嬢です」
「……普段の行いは把握していましたが……人命に関わることをした以上、見過ごせません。そして神官長との協議にはなりますが、おそらく神殿の無期限立入禁止でしょう」
その場の全員が息を呑んだ。
神殿立入禁止は重い処分だ。神殿は、子どもの誕生、命名式、成人の儀、結婚の儀、季節ごとの大祭(春詣・夏祭・秋礼・冬祈)など、人生の節目や行事で必ず訪れる場所だ。神守が出入り禁止となれば、社会的にも白い目で見られ、まともな嫁ぎ先は望めない。
だが、まだ九歳だ。重い罰だが、命を奪われるよりかははるかにましだ。これからの行い次第で処分が解ける可能性もあるのだから。
倒れている二人を守りながら、大輔と私は助けを待った。
攻撃魔法がまだ満足に使えない私は、結界を張り続け、子どもたちを守るしかなかった。
そんなとき、森の奥から、風を切るような勢いで誰かが駆けてくるのが見えた。
「アオ君?!」
声を上げた瞬間、彼は三頭の岩毛熊に取り囲まれた。
しかし、彼は微塵も慌てず、敵の動きを冷静に見極め、あえて身を晒して誘い込みながら、巧みに立ち回っていた。
岩毛熊たちは威嚇と突進を繰り返すが、彼は跳躍や回転を交え、神気で刃を走らせる。体力は削られ、汗が額を伝う。熊の一頭が急に突進してきた瞬間、彼は冷静に体をかわし、刃で胸部を斬り、一頭目を倒した。
「くっ……よし、これで一頭!」
息つく暇もない。まだ残りの熊たちは周囲にいる。戦いの気配が森に張り詰めていた。
そのとき、佳乃と神官様も駆けつけた。二人が加わると、彼は一頭に集中しつつ、残りを二人に任せることができた。三人は手分けして岩毛熊の群れを攻撃し、神気や体術を駆使して一頭ずつ確実に倒していく。
しばらく戦い続け、アオ君が最後の一頭を斬り伏せ、岩毛熊の群れは沈黙した。森に満ちていた緊張が、急速に解けていく。
「……ふぅ……終わったな」
息を整えながらアオ君が呟く。その右腕には深い傷があり、血が滲んでいた。
佳乃も肩で息をしている。左腕には大きな裂傷、服も泥と血で汚れている。
神官様は脇腹を押さえていたが、表情は穏やかだ。
私は結界から出て、三人のもとへ駆け寄った。
「すぐに治します」
まずはアオ君の全身に神気を巡らせ、状態をざっと診る。
ぱっと見では右腕の深い傷だけだと思ったが、足首の状態も良くない。
戦闘で負荷がかかったのだろう。
掌に神気を集め、右腕の穢れを祓い、傷口を修復していく。いつものように思いを込めて。そして、足首のほうが少し厄介だった。強い穢れをすぐに祓えなかったのだろう。少し呪いのようになっている。より強い神気と思いを込めて治していく。なんとか成功したようだ。
続けて神官様と佳乃にも同じように治癒を施していく。神官様は少し肩も痛めていたので、そこも治しておいた。
アオ君は不思議そうな顔をしながら、両足で軽く跳ねて感触を確かめている。
神官様は、感激した様子でお礼を言ってくださった。
「あなたの治癒はとても速く正確ですね。この年齢で相当な努力をしたのでしょう。しかも長年痛めていた肩も治してくれたのですね。とっても軽くなりましたよ。ありがとう」
――嬉しかった。私でも役に立てた。けど……
「いいえ、私にはこれくらいしかできませんから。神官様もアオ君も、本当に来てくださってありがとうございます。私は戦えません……お二人が佳乃と共に戦ってくださったおかげで、岩毛熊を倒せました。心から感謝します」
そう言って、深く頭を下げてお礼をした。
「それから神官様、この二人は傷は治しましたが、まだ目を覚ましません。休ませられる場所はありますか?」
「もちろんです。神殿の救護室へ運びましょう」
二人はおぶられて神殿へ運ばれ、大輔も念のため診てもらうことになった。
その後、私と佳乃、アオ君は事情聴取のため神殿の小部屋に通された。
「さて、聞かせてください。どうしてあのような事態に?」
「孤児院で、大きい子が少ないことに気づいたんです。聞けば、ある人物が『おこづかいをあげるから』と薬草採取を頼んできて、朝から出かけたと……それにしては帰りが遅いので森に探しに行くと、穢牙兎と戦っていました」
佳乃が続ける。
「その後、人の血の匂いを嗅ぎつけ岩毛熊の群れが接近しました。私は瑞葉様に子どもたちを任せ、増援を呼びに走ったところ、アオ様が事情を聞いて助けに向かってくださったのです」
神官様は深くうなずいた。
「あなたたちが気づいて動かなければ、こどもたちの命が危なかったでしょう。……それで、薬草を頼んだのは……」
「『ひらひらの服でくるくるの髪』と言っていましたので、おそらく笠原綾乃嬢です」
「……普段の行いは把握していましたが……人命に関わることをした以上、見過ごせません。そして神官長との協議にはなりますが、おそらく神殿の無期限立入禁止でしょう」
その場の全員が息を呑んだ。
神殿立入禁止は重い処分だ。神殿は、子どもの誕生、命名式、成人の儀、結婚の儀、季節ごとの大祭(春詣・夏祭・秋礼・冬祈)など、人生の節目や行事で必ず訪れる場所だ。神守が出入り禁止となれば、社会的にも白い目で見られ、まともな嫁ぎ先は望めない。
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