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21 気になる存在(アオ視点)
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神殿には一年前から通っていたが、普段は討伐依頼を優先していたため、神殿に長居することはほとんどなかった。
しかし討伐中に足首を痛め、完治するまで討伐を休み、治療のため神殿の治療室に通うことになった。
ある日、珍しく担当の治癒師が急に呼び出された。そんなにはかからないというので、今日手に入れたばかりの本を持ち、人目の少ない木陰で読むことにした。
人の気配がして、反射的に髪と眼鏡を触れて確認し声をかける。
「……何か用か?」
「すみません。先客がいらっしゃるとは思わなくて。それに、その本……私、届くのを心待ちにしていたんです。つい、見入ってしまって」
視線の先に立っていたのは、眼鏡が印象的な少女。だがよく見ると眼鏡では隠しきれない可愛らしさがわかる。同年代だろう。丁寧な話し方と上品な雰囲気から、神守の家柄だろうと察したが、華美な飾り気がなく好感が持てた。
家の言いつけで神殿に来たものの、遊び半分に過ごす者もいる。が、この子はきちんと奉仕活動に来ているのだろう。話してみると、この本の作者・上月先生の愛読者だという。自分と同じ趣味を持つ同年代に出会えるとは思ってもみなかった。気分が高揚し、その子――みずは、と名乗った――と休憩時間いっぱい語り合った。
以来、治癒の順番を少し遅らせてでも、休憩時間に神殿の外で読書するのが日課になった。姿が見えると彼女が声をかけてくれるので、そのまま語り合う。おすすめの本を言い合い、持っていないと聞けば「今度持ってくる」と約束し、貸すようになった。
足の怪我で討伐に出られず苛立っていた日々が一変し、急に生き生きと神殿に通い出した俺を不審に思った従者の祥太朗が、ある日こっそり様子を見に来ていた。
彼女が休憩時間を終えて立ち去ると、祥太朗が木陰から姿を現した。
「ずいぶん楽しそうでしたね」
「……はあ。やめろよ、覗きなんて趣味が悪いぞ」
「女嫌いの碧人様が、珍しいですねぇ。彼女、おそらく碧人様と同じですよ」
「ああ、そうなんだ。上月先生の愛読者なんだ」
「いや、そのことじゃないです。あれは、碧人様と同じ眼鏡ですよ」
「えっ……でも、十分可愛らしいし、眼鏡の形も違うぞ?」
「そう…ですか?まあ、普通の眼鏡かもしれないですが、身バレ防止用です。あなたと同じく」
「……彼女のこと、調べてみてくれるか?名前は『みずは』だと言ってたが、偽名かもしれない」
「仰せのとおりに」
「やめろ、ばか」
「わかりました。それでは」
彼は清瀧家侍女長の息子で俺の十歳年上だ。年は離れているが兄弟のように育った。ふざけた男だが仕事は早い。すぐに調査結果を持ってくるだろう。
翌日、彼女に貸す約束をしていた本を手に、神殿前で待っていた。そこへ、彼女と一緒にいるところをよく見かける女性が、血相を変えて神殿に駆け込もうとしていた。
「どうした?何かあったのか?」
「人を集めてください!森の中で、女の子と孤児院の男の子三人が、岩毛熊十頭に襲われています!」
――みずはか?!
「俺が行く!」
神殿に声をかけることなく、一人で森へ駆け出した。足はまだ完治していないが、今だけはもってくれ。神気を巡らせ、強い禍憑と複数の人の気配がある方向へさらに加速する。
やがて視界に、十頭ほどの岩毛熊が、光り輝く半球状の結界を囲み、突進や打撃を繰り返す光景が飛び込んできた。
近づくと三頭がこちらに向かってきた。岩毛熊の隙間から結界の方を見やると、みずはと子どもたちの姿があった。その結界は美しく、岩毛熊の攻撃を完全に吸収していた。これなら守りを気にせず全力で戦えると判断し、苦戦しながらも、まず一匹を仕留める。
その時、先ほどの女性と神官が駆けつけてきた。正直もう一人くらい欲しかったが、討伐隊は出払っており、岩毛熊と戦える実力を持つ神官も数は少ない。一人来てくれただけでも御の字だ。女性の実力も十分で、三人で連携して戦うことで形勢は安定した。最後の一匹を倒すと、結界からみずはが飛び出してきて、傷ついた俺たちに治癒を施してくれた。
禍憑の傷は穢れを含み、自力で祓っても完全には消せない。放置すれば身体を蝕む。だが、みずはの暖かな神気が全身を巡ると、ものの数分で全ての異常が消えた。神殿に通い少しずつ治療をしていた足首までも完治していた。試しに跳ねてみるが、痛みは全くない。
彼女は神官に礼を言われ褒められても、
「これくらいしかできません」と自嘲気味に答えていた。しかし、これほどの治癒と結界の技術があれば、どこの討伐隊も喉から手が出るほど欲しがるだろう。
――皆に知られる前に、誘ってみるか。
そんなことを考えているうちに、気がつけば意識を失った子ども二人を抱え、神殿へ戻っていた。
その後の聞き取り調査にも立ち会い、ひとまず今日のところは彼女と別れることになった。
家に戻ってから、治癒のお礼を言い忘れていたことに気づき、ひどく落ち込んだ。しかし、明日になれば言えるだろうと、呑気に構えていた。
このときは、みずはが神殿にぱたりと来なくなり、しばらく会えなくなることなど、まだ知る由もなかった。
しかし討伐中に足首を痛め、完治するまで討伐を休み、治療のため神殿の治療室に通うことになった。
ある日、珍しく担当の治癒師が急に呼び出された。そんなにはかからないというので、今日手に入れたばかりの本を持ち、人目の少ない木陰で読むことにした。
人の気配がして、反射的に髪と眼鏡を触れて確認し声をかける。
「……何か用か?」
「すみません。先客がいらっしゃるとは思わなくて。それに、その本……私、届くのを心待ちにしていたんです。つい、見入ってしまって」
視線の先に立っていたのは、眼鏡が印象的な少女。だがよく見ると眼鏡では隠しきれない可愛らしさがわかる。同年代だろう。丁寧な話し方と上品な雰囲気から、神守の家柄だろうと察したが、華美な飾り気がなく好感が持てた。
家の言いつけで神殿に来たものの、遊び半分に過ごす者もいる。が、この子はきちんと奉仕活動に来ているのだろう。話してみると、この本の作者・上月先生の愛読者だという。自分と同じ趣味を持つ同年代に出会えるとは思ってもみなかった。気分が高揚し、その子――みずは、と名乗った――と休憩時間いっぱい語り合った。
以来、治癒の順番を少し遅らせてでも、休憩時間に神殿の外で読書するのが日課になった。姿が見えると彼女が声をかけてくれるので、そのまま語り合う。おすすめの本を言い合い、持っていないと聞けば「今度持ってくる」と約束し、貸すようになった。
足の怪我で討伐に出られず苛立っていた日々が一変し、急に生き生きと神殿に通い出した俺を不審に思った従者の祥太朗が、ある日こっそり様子を見に来ていた。
彼女が休憩時間を終えて立ち去ると、祥太朗が木陰から姿を現した。
「ずいぶん楽しそうでしたね」
「……はあ。やめろよ、覗きなんて趣味が悪いぞ」
「女嫌いの碧人様が、珍しいですねぇ。彼女、おそらく碧人様と同じですよ」
「ああ、そうなんだ。上月先生の愛読者なんだ」
「いや、そのことじゃないです。あれは、碧人様と同じ眼鏡ですよ」
「えっ……でも、十分可愛らしいし、眼鏡の形も違うぞ?」
「そう…ですか?まあ、普通の眼鏡かもしれないですが、身バレ防止用です。あなたと同じく」
「……彼女のこと、調べてみてくれるか?名前は『みずは』だと言ってたが、偽名かもしれない」
「仰せのとおりに」
「やめろ、ばか」
「わかりました。それでは」
彼は清瀧家侍女長の息子で俺の十歳年上だ。年は離れているが兄弟のように育った。ふざけた男だが仕事は早い。すぐに調査結果を持ってくるだろう。
翌日、彼女に貸す約束をしていた本を手に、神殿前で待っていた。そこへ、彼女と一緒にいるところをよく見かける女性が、血相を変えて神殿に駆け込もうとしていた。
「どうした?何かあったのか?」
「人を集めてください!森の中で、女の子と孤児院の男の子三人が、岩毛熊十頭に襲われています!」
――みずはか?!
「俺が行く!」
神殿に声をかけることなく、一人で森へ駆け出した。足はまだ完治していないが、今だけはもってくれ。神気を巡らせ、強い禍憑と複数の人の気配がある方向へさらに加速する。
やがて視界に、十頭ほどの岩毛熊が、光り輝く半球状の結界を囲み、突進や打撃を繰り返す光景が飛び込んできた。
近づくと三頭がこちらに向かってきた。岩毛熊の隙間から結界の方を見やると、みずはと子どもたちの姿があった。その結界は美しく、岩毛熊の攻撃を完全に吸収していた。これなら守りを気にせず全力で戦えると判断し、苦戦しながらも、まず一匹を仕留める。
その時、先ほどの女性と神官が駆けつけてきた。正直もう一人くらい欲しかったが、討伐隊は出払っており、岩毛熊と戦える実力を持つ神官も数は少ない。一人来てくれただけでも御の字だ。女性の実力も十分で、三人で連携して戦うことで形勢は安定した。最後の一匹を倒すと、結界からみずはが飛び出してきて、傷ついた俺たちに治癒を施してくれた。
禍憑の傷は穢れを含み、自力で祓っても完全には消せない。放置すれば身体を蝕む。だが、みずはの暖かな神気が全身を巡ると、ものの数分で全ての異常が消えた。神殿に通い少しずつ治療をしていた足首までも完治していた。試しに跳ねてみるが、痛みは全くない。
彼女は神官に礼を言われ褒められても、
「これくらいしかできません」と自嘲気味に答えていた。しかし、これほどの治癒と結界の技術があれば、どこの討伐隊も喉から手が出るほど欲しがるだろう。
――皆に知られる前に、誘ってみるか。
そんなことを考えているうちに、気がつけば意識を失った子ども二人を抱え、神殿へ戻っていた。
その後の聞き取り調査にも立ち会い、ひとまず今日のところは彼女と別れることになった。
家に戻ってから、治癒のお礼を言い忘れていたことに気づき、ひどく落ち込んだ。しかし、明日になれば言えるだろうと、呑気に構えていた。
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