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22 騒動の結末と宴の準備
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神殿から家に帰ると、すでに両親の耳に今日の騒動のことが伝えられていた。
「瑞葉……子どもたちの命を救ったなんて、ほんとうに誇らしいわ」
お母様は直前まで泣いていたような目で、強く抱きしめてくれた。
お父様も大きな手で頭を撫でてくれる。
「よく頑張ったな」
佳乃にも視線が向けられる。
「佳乃も感謝する」
「ありがたきお言葉にございます」
佳乃は深く頭を下げた。
お父様が改めて口を開く。
「神殿からの使者によれば、笠原綾乃は無期限の神殿立入禁止になったそうだ」
──私の中で怒りが込み上げてくる。
回帰前、私と佳乃は神殿に関わっていなかったので、大輔たちはきっとあの時命を失っていた。
私は思わず唇を噛む。
「……あそこで私と佳乃がいなければ、大輔たちはきっと命を落としていました。かなり重い処分ですけれど、彼女は命までは取られません。心から悔い改めて、改心すればやり直せるんですから」
お父様は静かに頷いた。
私は意を決して口を開いた。
「あの……お父様。大輔のことなのですが、水無瀬家の討伐隊の訓練生に入れていただけないでしょうか」
「ほう?」
「彼は小さな採取用のナイフ一本で、年下の子を二人庇いながら戦っていました。岩毛熊が現れたときも落ち着いていて、私の言うことをよく聞いてくれたんです」
「ふむ」
「それに……わずかですが、神気があるように思えました。ナイフを振り回しただけで、穢牙兎が攻めあぐねていたように見えたので……」
お父様は少し考え込み、やがて言った。
「本人が望むなら、連れて来なさい」
「はい!」
水無瀬家の討伐隊といえば、毎年多くの応募者が殺到する狭き門だ。
次に孤児院へ行くとき、大輔に提案してみよう。
そしてその日、夕餉の席でお父様が新たな話を切り出した。
「一ヶ月後の神月の宴に、家族全員で出席することになった」
(神月の宴とは、上位の神守と、この一年で優れた活躍をした神守だけが出席を許される、天璽家主催の格式高い会である)
「まぁ、もうそんな時期なのね!」
お母様はぱっと顔を明るくし、私と光矢を見比べる。
「大変。今年はやることが多くて、すっかり忘れていたわ。光矢は初めての公の場ね。二人の衣装を考えなくちゃ」
私は小さく呟いた。
「……もしかして、今までもお母様が用意してくださっていたのですか?」
お母様は少し照れたように微笑む。
「そうよ。佳乃と相談して、あなたの好みと私が着てほしいものを擦り合わせて選んでいたの。……気に入らなかった?」
「いいえ! いつもほんとうに素敵だと思っていました」
「そう……よかったわ」
お母様は少し涙目になりながら、笑顔を浮かべる。
「今年は一緒に相談して決めましょうね。光矢も」
「ぼくは母様に任せるよ」
「ふふ、じゃあ瑞葉。一緒に決めましょう」
「はい!」
「父様、叔父さんも出席なさるのですか?」
「ああ。克己は毎年呼ばれているよ。功績を重ねているからな」
「そうですか。会えるのが楽しみです」
「もっとも、あいつは宴に出るのをいつも嫌がっていたんだ。この宴だけはどうしても参加しなければならないから、しぶしぶ顔を出していた。もちろん、家族といえどあの愚か者どもの参加は許されていなかったから一人でな。だが、今年からは光矢も一緒だ。少しは気が楽になるだろう」
「ふふっ、叔父様らしいですね」
その後も食卓には和やかな会話が続き、温かな雰囲気のまま食事を終えた。
胸の奥がじんわりと、心地よいぬくもりに満たされていくのを感じた。
勇気を出してみて、ほんとうによかった。それにお母様と一緒に衣装を決められるなんて。これまでただ言われるがまま会に出席をしていた。仲良しの友人に会えるのだけは嬉しかったが、準備から楽しみに思えるのは初めてだ。
それからの日々は慌ただしく過ぎていった。衣装の準備に加えて、所作の復習、出席する神守の家々の勉強。神殿での活動はお休みした。
あの騒動以来、アオ君には会えていない。どうしているのだろう。また神殿へ行く日が、少し楽しみになっていた。
「瑞葉……子どもたちの命を救ったなんて、ほんとうに誇らしいわ」
お母様は直前まで泣いていたような目で、強く抱きしめてくれた。
お父様も大きな手で頭を撫でてくれる。
「よく頑張ったな」
佳乃にも視線が向けられる。
「佳乃も感謝する」
「ありがたきお言葉にございます」
佳乃は深く頭を下げた。
お父様が改めて口を開く。
「神殿からの使者によれば、笠原綾乃は無期限の神殿立入禁止になったそうだ」
──私の中で怒りが込み上げてくる。
回帰前、私と佳乃は神殿に関わっていなかったので、大輔たちはきっとあの時命を失っていた。
私は思わず唇を噛む。
「……あそこで私と佳乃がいなければ、大輔たちはきっと命を落としていました。かなり重い処分ですけれど、彼女は命までは取られません。心から悔い改めて、改心すればやり直せるんですから」
お父様は静かに頷いた。
私は意を決して口を開いた。
「あの……お父様。大輔のことなのですが、水無瀬家の討伐隊の訓練生に入れていただけないでしょうか」
「ほう?」
「彼は小さな採取用のナイフ一本で、年下の子を二人庇いながら戦っていました。岩毛熊が現れたときも落ち着いていて、私の言うことをよく聞いてくれたんです」
「ふむ」
「それに……わずかですが、神気があるように思えました。ナイフを振り回しただけで、穢牙兎が攻めあぐねていたように見えたので……」
お父様は少し考え込み、やがて言った。
「本人が望むなら、連れて来なさい」
「はい!」
水無瀬家の討伐隊といえば、毎年多くの応募者が殺到する狭き門だ。
次に孤児院へ行くとき、大輔に提案してみよう。
そしてその日、夕餉の席でお父様が新たな話を切り出した。
「一ヶ月後の神月の宴に、家族全員で出席することになった」
(神月の宴とは、上位の神守と、この一年で優れた活躍をした神守だけが出席を許される、天璽家主催の格式高い会である)
「まぁ、もうそんな時期なのね!」
お母様はぱっと顔を明るくし、私と光矢を見比べる。
「大変。今年はやることが多くて、すっかり忘れていたわ。光矢は初めての公の場ね。二人の衣装を考えなくちゃ」
私は小さく呟いた。
「……もしかして、今までもお母様が用意してくださっていたのですか?」
お母様は少し照れたように微笑む。
「そうよ。佳乃と相談して、あなたの好みと私が着てほしいものを擦り合わせて選んでいたの。……気に入らなかった?」
「いいえ! いつもほんとうに素敵だと思っていました」
「そう……よかったわ」
お母様は少し涙目になりながら、笑顔を浮かべる。
「今年は一緒に相談して決めましょうね。光矢も」
「ぼくは母様に任せるよ」
「ふふ、じゃあ瑞葉。一緒に決めましょう」
「はい!」
「父様、叔父さんも出席なさるのですか?」
「ああ。克己は毎年呼ばれているよ。功績を重ねているからな」
「そうですか。会えるのが楽しみです」
「もっとも、あいつは宴に出るのをいつも嫌がっていたんだ。この宴だけはどうしても参加しなければならないから、しぶしぶ顔を出していた。もちろん、家族といえどあの愚か者どもの参加は許されていなかったから一人でな。だが、今年からは光矢も一緒だ。少しは気が楽になるだろう」
「ふふっ、叔父様らしいですね」
その後も食卓には和やかな会話が続き、温かな雰囲気のまま食事を終えた。
胸の奥がじんわりと、心地よいぬくもりに満たされていくのを感じた。
勇気を出してみて、ほんとうによかった。それにお母様と一緒に衣装を決められるなんて。これまでただ言われるがまま会に出席をしていた。仲良しの友人に会えるのだけは嬉しかったが、準備から楽しみに思えるのは初めてだ。
それからの日々は慌ただしく過ぎていった。衣装の準備に加えて、所作の復習、出席する神守の家々の勉強。神殿での活動はお休みした。
あの騒動以来、アオ君には会えていない。どうしているのだろう。また神殿へ行く日が、少し楽しみになっていた。
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