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32 瑞葉を探して(碧人視点)
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孤児院の子が岩毛熊に襲われたーあの事件以降、瑞葉は神殿に姿を見せなくなった。
俺の足はもうすっかり治っている。だから神殿に長く留まる理由はない。
それでも、今日は来るのではないかと、つい期待してしまい、いつもの木陰で本を開いて待つようになっていた。
そんな折、祥太朗がやって来た。
「みずはちゃん、来なくなりましたねぇ」
「……それで、何か分かったのか」
「彼女の名は水無瀬瑞葉。本名で間違いありません。年齢は碧人様より一つ年下です」
「水無瀬家の令嬢か?」
「はい。水無瀬透子様の遠縁ということになっていましたが、実際は実の娘です」
「……そうか」
「特に悪い噂もありません。むしろ優秀なお嬢さんです。教養も礼儀作法も身についていて、神気の制御もこの年にして群を抜いているそうです」
祥太朗は続ける。
「少なくとも碧人様と話して、昨日まで神殿に通っていたということは、うちの調査部のお眼鏡にかなっています。怪しい人物ではありません」
「俺は、変な人物と交流は持たない。……見る目はあるつもりだ」
「はは、そうですね」
一呼吸置いて、祥太朗がふと思い出したように言った。
「推測ですが……一ヶ月後に《神月の宴》があります。その準備に忙しいんじゃないですか?」
「……なるほど。彼女も上位の家格だ。なら、出席するはず。そこで会えるかもしれないな」
そう独りごちると――
「でも、碧人様は名前も姿も隠したままだったでしょ?どうやってそこで会うつもりなんですか?」
「……そうだったな」
「ははっ、ほんと変なとこで抜けてますね」
「うるさい」
「おお、怖い。退散退散」
「……ああ、ありがとう」
祥太朗は軽く片手を上げ、笑みを残して去っていった。
それから俺は、足を怪我する前の日常に戻った。討伐依頼に赴き、日々を過ごす。
どうやって彼女に会うかまでは思いつかなかったが、とにかく《神月の宴》でその姿を目にすることはできるはずだ。
そして迎えた宴当日。
上大位の家は、他の神守たちが会場入りしてからしばらく時間を置いて入場する。
父は当主として舞台に上がる。今年は神裂家の当主が開会の挨拶を務めていた。
その後は天璽家の方々に対し、神守たちが順に挨拶をする。
これは神月の宴だけの特別な習わしで、他の場では神守の数が多すぎて叶わない。
上大位の家々は事前に前室にて天璽家への挨拶を済ませているため、宴の場で改めて挨拶をする必要はない。
そのため、宴での挨拶は上中位から始まる。
俺は瑞葉の姿を探そうと目を凝らした。
水無瀬家の当主の顔は知っている。並ぶ列の中からすぐに見つけ出した。
「!!!」
――瑞葉だ!
神殿でも可愛らしいと思っていたが、着飾った姿はさらに可憐だった。
周囲の男たちが彼女を盗み見るのが、ひどく気に食わない。
薄桃色のドレスは一見シンプルだが質が良く、瑞葉の清楚な雰囲気に映えている。
さりげなく取り入れている花紋の桔梗も美しいが、もし蓮の花を添えたら――きっとそれもよく似合うだろう。
家族の仲も良さそうだ。和やかな空気の中で、順番を待っている。
やがて水無瀬家の挨拶の番となった。
当主が挨拶を述べ、家族を紹介する。すると皇太子殿下が瑞葉に声をかけられた。
瑞葉は困惑しつつも答え、皇太子一家は楽しそうに笑っておられた。
さらに後方に控えている父へと皇太子殿下はいたずらな笑みを向ける。――何を言われたのだろうか。後で父に聞いてみよう。
和やかな雰囲気で挨拶を終える。
よし、近づいてみよう――そう思った、その瞬間だった。
空気がざわりと揺らぎ、次の瞬間、会場の外から禍憑が雪崩れ込んできた。
「結界が……破られた!?」
人々の間にどよめきが広がる。
父を含む御三家の当主たちは同時に立ち上がり、凄烈な神気を解き放った。
「慌てるな!まずは家族を守れ!」
「討伐に向かえる者は、ただちに前へ!」
天璽家の護衛が現れ、天璽家の方々を別々に手際よく保護して連れ出していく。
父はこちらを一瞥し、すぐさま禍憑の群れへ駆け出した。
母はその場に留まり、采配を振るう。
水無瀬家も当主は前線へ、夫人は結界を張りながら子どもたちと、戦えない周囲の人を守っていた。
瑞葉は弟と共にその中にいる――俺はそう見て、ひとまず安堵する。
だが、しばらく戦い続け、数が減ったところで周囲を見回すと、異変に気づいた。
夫人の結界の中に、二人の姿がない。
「……っ!」
視線を巡らすと、彼女の弟と叔父が必死の形相で廊下へ駆けていくのが見えた。
だが、その傍らに瑞葉の姿はなかった。
まさか――瑞葉に何か……
そう思うと居ても立ってもいられず、俺はその後を追って駆け出していた。
俺の足はもうすっかり治っている。だから神殿に長く留まる理由はない。
それでも、今日は来るのではないかと、つい期待してしまい、いつもの木陰で本を開いて待つようになっていた。
そんな折、祥太朗がやって来た。
「みずはちゃん、来なくなりましたねぇ」
「……それで、何か分かったのか」
「彼女の名は水無瀬瑞葉。本名で間違いありません。年齢は碧人様より一つ年下です」
「水無瀬家の令嬢か?」
「はい。水無瀬透子様の遠縁ということになっていましたが、実際は実の娘です」
「……そうか」
「特に悪い噂もありません。むしろ優秀なお嬢さんです。教養も礼儀作法も身についていて、神気の制御もこの年にして群を抜いているそうです」
祥太朗は続ける。
「少なくとも碧人様と話して、昨日まで神殿に通っていたということは、うちの調査部のお眼鏡にかなっています。怪しい人物ではありません」
「俺は、変な人物と交流は持たない。……見る目はあるつもりだ」
「はは、そうですね」
一呼吸置いて、祥太朗がふと思い出したように言った。
「推測ですが……一ヶ月後に《神月の宴》があります。その準備に忙しいんじゃないですか?」
「……なるほど。彼女も上位の家格だ。なら、出席するはず。そこで会えるかもしれないな」
そう独りごちると――
「でも、碧人様は名前も姿も隠したままだったでしょ?どうやってそこで会うつもりなんですか?」
「……そうだったな」
「ははっ、ほんと変なとこで抜けてますね」
「うるさい」
「おお、怖い。退散退散」
「……ああ、ありがとう」
祥太朗は軽く片手を上げ、笑みを残して去っていった。
それから俺は、足を怪我する前の日常に戻った。討伐依頼に赴き、日々を過ごす。
どうやって彼女に会うかまでは思いつかなかったが、とにかく《神月の宴》でその姿を目にすることはできるはずだ。
そして迎えた宴当日。
上大位の家は、他の神守たちが会場入りしてからしばらく時間を置いて入場する。
父は当主として舞台に上がる。今年は神裂家の当主が開会の挨拶を務めていた。
その後は天璽家の方々に対し、神守たちが順に挨拶をする。
これは神月の宴だけの特別な習わしで、他の場では神守の数が多すぎて叶わない。
上大位の家々は事前に前室にて天璽家への挨拶を済ませているため、宴の場で改めて挨拶をする必要はない。
そのため、宴での挨拶は上中位から始まる。
俺は瑞葉の姿を探そうと目を凝らした。
水無瀬家の当主の顔は知っている。並ぶ列の中からすぐに見つけ出した。
「!!!」
――瑞葉だ!
神殿でも可愛らしいと思っていたが、着飾った姿はさらに可憐だった。
周囲の男たちが彼女を盗み見るのが、ひどく気に食わない。
薄桃色のドレスは一見シンプルだが質が良く、瑞葉の清楚な雰囲気に映えている。
さりげなく取り入れている花紋の桔梗も美しいが、もし蓮の花を添えたら――きっとそれもよく似合うだろう。
家族の仲も良さそうだ。和やかな空気の中で、順番を待っている。
やがて水無瀬家の挨拶の番となった。
当主が挨拶を述べ、家族を紹介する。すると皇太子殿下が瑞葉に声をかけられた。
瑞葉は困惑しつつも答え、皇太子一家は楽しそうに笑っておられた。
さらに後方に控えている父へと皇太子殿下はいたずらな笑みを向ける。――何を言われたのだろうか。後で父に聞いてみよう。
和やかな雰囲気で挨拶を終える。
よし、近づいてみよう――そう思った、その瞬間だった。
空気がざわりと揺らぎ、次の瞬間、会場の外から禍憑が雪崩れ込んできた。
「結界が……破られた!?」
人々の間にどよめきが広がる。
父を含む御三家の当主たちは同時に立ち上がり、凄烈な神気を解き放った。
「慌てるな!まずは家族を守れ!」
「討伐に向かえる者は、ただちに前へ!」
天璽家の護衛が現れ、天璽家の方々を別々に手際よく保護して連れ出していく。
父はこちらを一瞥し、すぐさま禍憑の群れへ駆け出した。
母はその場に留まり、采配を振るう。
水無瀬家も当主は前線へ、夫人は結界を張りながら子どもたちと、戦えない周囲の人を守っていた。
瑞葉は弟と共にその中にいる――俺はそう見て、ひとまず安堵する。
だが、しばらく戦い続け、数が減ったところで周囲を見回すと、異変に気づいた。
夫人の結界の中に、二人の姿がない。
「……っ!」
視線を巡らすと、彼女の弟と叔父が必死の形相で廊下へ駆けていくのが見えた。
だが、その傍らに瑞葉の姿はなかった。
まさか――瑞葉に何か……
そう思うと居ても立ってもいられず、俺はその後を追って駆け出していた。
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