神守の少女、二度目の人生は好きに生きます〜因縁相手は勝手に自滅〜

雪水砂糖

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33 終息と幕開け(碧人視点)

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 瑞葉の弟と叔父を追い、廊下の先へ駆け抜けたその瞬間、目に飛び込んできたのは――瑞葉が結界の中で皇女殿下を抱きしめ、必死に防御を維持している姿だった。その周囲では、皇女殿下の護衛だと思っていた者たちが、逆に攻撃を仕掛けている。

 ――皇女殿下を狙った誘拐か。

 こちらに気付いた誘拐犯たちが一斉に襲いかかってきた。

 瑞葉の叔父は、優秀な研究者として知られるだけでなく、戦闘の腕も一流のようだ。弟はその後方から神気の矢を正確に射ち、薄い結界を纏いながらも見事な制御を見せている。六歳にしてこの技量――将来が恐ろしいほどだ。

 自分も刀に神気を込め、次々と敵を斬り伏せる。数こそ多いが、この布陣なら突破はたやすい。

 激戦ののち、敵はすべて地に伏した。

 瑞葉と皇女殿下のもとへ駆け寄り、二人の無事を確かめる。臣下として皇女殿下に声をかけたが、瑞葉には――神殿で出会った「アオ」だと分からないだろうと思い、言葉を飲み込んだ。後ろ髪を引かれる思いで、その場を後にする。

 会場に戻ると、御三家をはじめ各家の神守たちが総力を挙げて戦っており、禍憑の数はすでに大きく削がれていた。最後の一体が討たれると、重苦しい気配は嘘のように霧散した。

 本来、このような宴の席では剣帯は許されていない。しかし、上位の家に属する者だけは例外として許可されている。その決まりがあったからこそ、今回の襲撃にも迅速に対処することができたのだ。

 息を整える間もなく、戦場から父が戻ってきた。衣の裾は裂け、神気は荒ぶっていたが、その瞳は鋭く冴えている。

「碧人、無事か」
「はい……父上。ご報告がございます」
「何だ」
「皇女殿下が護衛に狙われ、誘拐されかける事態となりました。ですが、水無瀬家の長女・嫡男、叔父の浅井殿と共に応戦し、未然に防ぐことができました。殿下はすでに妃殿下が迎えに来られ、無事に保護されております」

 父は一瞬目を細め、静かに頷いた。
「よくやった……妃殿下が来られたということは、すでに伝わっているだろう。だが碧人が関わった以上、当主として話し合いに出ねばなるまい」

 そう言って踵を返す父の背を見送る。

 戦闘で負傷した者たちは治療師のもとに集まり、手当を受けていた。瑞葉も治療師として忙しそうに立ち働いている。大した怪我ではなかったが、自分も彼女のもとに並んだ。

 だが、いざ目の前に立つと、何を話せばよいのか言葉が出てこない。

 そんな自分に、瑞葉が柔らかく微笑んだ。
「……もしかして、アオくん?」

 気づいてもらえた。戦い方を見て、そう思ったらしい。

 瑞葉が俺の両手を取った。突然のことで胸が高鳴ったが、全身を診るにはこれが最も効率的なのだと、穏やかに説明してくれた。神気が流れ込むと同時に、温かな気配が指先から伝わり、鼓動が速くなるのを抑えきれない。
 皇女殿下を抱きかかえ、必死に結界を維持していたときの凛とした姿を思い出す。あの強さと優しさを併せ持つ姿は、思わず見惚れるほどに美しかった。
 そんなことを考えているうちに治療はあっという間に終わり、彼女は柔らかく笑みを浮かべた。神殿でまた会えると約束し、名残惜しいがその場を後にした。

 その日、父は帰宅せず、翌日ようやく家に戻ると、家族全員が呼び集められた。父は重々しい面持ちで告げる。

「先日の禍憑の騒動はおとりに過ぎなかった。本命は皇女殿下の誘拐である」

 そして続けた。

 ―近いうちに、水無瀬家と共に呼び出され、事情聴取を受けること。
 ―犯行は、おそらく全人教の信者によるものだということ。

 全人教。人は皆平等であると掲げ、この国の根幹である天璽家を頂点とし神守が領地を治める仕組みに反発する組織。事あるごとに天璽家や神守に攻撃を仕掛けてくる。

 下層の信者は捕らえられるが、多くが自害し、上層部の正体は依然として不明。神気を扱えることから神守の中に潜伏している可能性も高い――父の言葉に、場は一層の緊張に包まれた。

 これが、俺と瑞葉が全人教と深く関わっていく、長い物語の幕開けとなった。
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