神守の少女、二度目の人生は好きに生きます〜因縁相手は勝手に自滅〜

雪水砂糖

文字の大きさ
33 / 97

32 瑞葉を探して(碧人視点)

しおりを挟む
 孤児院の子が岩毛熊に襲われたーあの事件以降、瑞葉は神殿に姿を見せなくなった。

 俺の足はもうすっかり治っている。だから神殿に長く留まる理由はない。
 それでも、今日は来るのではないかと、つい期待してしまい、いつもの木陰で本を開いて待つようになっていた。

 そんな折、祥太朗がやって来た。
「みずはちゃん、来なくなりましたねぇ」

「……それで、何か分かったのか」

「彼女の名は水無瀬瑞葉。本名で間違いありません。年齢は碧人様より一つ年下です」

「水無瀬家の令嬢か?」

「はい。水無瀬透子様の遠縁ということになっていましたが、実際は実の娘です」

「……そうか」

「特に悪い噂もありません。むしろ優秀なお嬢さんです。教養も礼儀作法も身についていて、神気の制御もこの年にして群を抜いているそうです」

 祥太朗は続ける。
「少なくとも碧人様と話して、昨日まで神殿に通っていたということは、うちの調査部のお眼鏡にかなっています。怪しい人物ではありません」

「俺は、変な人物と交流は持たない。……見る目はあるつもりだ」

「はは、そうですね」

 一呼吸置いて、祥太朗がふと思い出したように言った。
「推測ですが……一ヶ月後に《神月の宴》があります。その準備に忙しいんじゃないですか?」

「……なるほど。彼女も上位の家格だ。なら、出席するはず。そこで会えるかもしれないな」
 そう独りごちると――

「でも、碧人様は名前も姿も隠したままだったでしょ?どうやってそこで会うつもりなんですか?」

「……そうだったな」

「ははっ、ほんと変なとこで抜けてますね」

「うるさい」

「おお、怖い。退散退散」

「……ああ、ありがとう」

 祥太朗は軽く片手を上げ、笑みを残して去っていった。

 それから俺は、足を怪我する前の日常に戻った。討伐依頼に赴き、日々を過ごす。
 どうやって彼女に会うかまでは思いつかなかったが、とにかく《神月の宴》でその姿を目にすることはできるはずだ。

 そして迎えた宴当日。

 上大位の家は、他の神守たちが会場入りしてからしばらく時間を置いて入場する。

 父は当主として舞台に上がる。今年は神裂家の当主が開会の挨拶を務めていた。
 
 その後は天璽家の方々に対し、神守たちが順に挨拶をする。
 これは神月の宴だけの特別な習わしで、他の場では神守の数が多すぎて叶わない。
 上大位の家々は事前に前室にて天璽家への挨拶を済ませているため、宴の場で改めて挨拶をする必要はない。
 そのため、宴での挨拶は上中位から始まる。

 俺は瑞葉の姿を探そうと目を凝らした。
 水無瀬家の当主の顔は知っている。並ぶ列の中からすぐに見つけ出した。

「!!!」

 ――瑞葉だ!

 神殿でも可愛らしいと思っていたが、着飾った姿はさらに可憐だった。
 周囲の男たちが彼女を盗み見るのが、ひどく気に食わない。

 薄桃色のドレスは一見シンプルだが質が良く、瑞葉の清楚な雰囲気に映えている。
 さりげなく取り入れている花紋の桔梗も美しいが、もし蓮の花を添えたら――きっとそれもよく似合うだろう。
 家族の仲も良さそうだ。和やかな空気の中で、順番を待っている。

 やがて水無瀬家の挨拶の番となった。
 当主が挨拶を述べ、家族を紹介する。すると皇太子殿下が瑞葉に声をかけられた。
 瑞葉は困惑しつつも答え、皇太子一家は楽しそうに笑っておられた。
 さらに後方に控えている父へと皇太子殿下はいたずらな笑みを向ける。――何を言われたのだろうか。後で父に聞いてみよう。

 和やかな雰囲気で挨拶を終える。
 よし、近づいてみよう――そう思った、その瞬間だった。

 空気がざわりと揺らぎ、次の瞬間、会場の外から禍憑が雪崩れ込んできた。

「結界が……破られた!?」

 人々の間にどよめきが広がる。
 父を含む御三家の当主たちは同時に立ち上がり、凄烈な神気を解き放った。

「慌てるな!まずは家族を守れ!」
「討伐に向かえる者は、ただちに前へ!」

 天璽家の護衛が現れ、天璽家の方々を別々に手際よく保護して連れ出していく。
 父はこちらを一瞥し、すぐさま禍憑の群れへ駆け出した。

 母はその場に留まり、采配を振るう。
 水無瀬家も当主は前線へ、夫人は結界を張りながら子どもたちと、戦えない周囲の人を守っていた。
 瑞葉は弟と共にその中にいる――俺はそう見て、ひとまず安堵する。

 だが、しばらく戦い続け、数が減ったところで周囲を見回すと、異変に気づいた。
 夫人の結界の中に、二人の姿がない。

「……っ!」

 視線を巡らすと、彼女の弟と叔父が必死の形相で廊下へ駆けていくのが見えた。
 だが、その傍らに瑞葉の姿はなかった。

 まさか――瑞葉に何か……

 そう思うと居ても立ってもいられず、俺はその後を追って駆け出していた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?

キーノ
ファンタジー
 私はゲームの世界に転生したようです。主人公なのですが、前世の記憶が戻ったら、なんという不遇な状況。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか。  ある日、我が家に勝手に住み着いた平民の少女が私に罵声を浴びせて来ました。乙女ゲーム? ヒロイン? 訳が解りません。ここはファーミングゲームの世界ですよ?  自称妹の事は無視していたら、今度は食事に毒を盛られる始末。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか?  私はどんな辛いことも頑張って乗り越えて、ゲーム開始を楽しみにいたしますわ! ※紹介文と本編は微妙に違います。 完結いたしました。 感想うけつけています。 4月4日、誤字修正しました。

無能だと捨てられた第七王女、前世の『カウンセラー』知識で人の心を読み解き、言葉だけで最強の騎士団を作り上げる

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
エルミート王国の第七王女リリアーナは、王族でありながら魔力を持たない『無能』として生まれ、北の塔に長年幽閉されていた。 ある日、高熱で生死の境をさまよった彼女は、前世で臨床心理士(カウンセラー)だった記憶を取り戻す。 時を同じくして、リリアーナは厄介払いのように、魔物の跋扈する極寒の地を治める『氷の辺境伯』アシュトン・グレイウォールに嫁がされることが決定する。 死地へ送られるも同然の状況だったが、リリアーナは絶望しなかった。 彼女には、前世で培った心理学の知識と言葉の力があったからだ。 心を閉ざした辺境伯、戦争のトラウマに苦しむ騎士たち、貧困にあえぐ領民。 リリアーナは彼らの声に耳を傾け、その知識を駆使して一人ひとりの心を丁寧に癒していく。 やがて彼女の言葉は、ならず者集団と揶揄された騎士団を鉄の結束を誇る最強の部隊へと変え、痩せた辺境の地を着実に豊かな場所へと改革していくのだった。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

【完結】どうやら時戻りをしました。

まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。 辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。 時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。 ※前半激重です。ご注意下さい Copyright©︎2023-まるねこ

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。 第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。 生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。 その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。 「加護縫い」 (縫った布に強力な祝福を込められる) 「嘘のほころびを見抜く力」 (相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする) を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。 さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王太子が近付いて来て……?

処理中です...