32 / 96
31 決意の夜(父、母視点)
しおりを挟む
(父視点)
話を終え、子どもたちを部屋へ戻した後、重苦しい雰囲気が立ち込めていた。胸の奥が重く、息苦しい。
(娘と息子を私は死なせてしまったのだ……守れなかった。不甲斐ないにも程がある)
悔恨が繰り返し押し寄せる。瑞葉も光矢も、あんなに小さな体で背負わなくてもよい苦しみを背負わされてきた。父親である自分は何をしていたのか。
「蒼一さん」
「兄さん」
二人の顔に浮かぶのは、やはり同じ苦しみと後悔の色だった。
「あの子たちに……こんな重荷を背負わせてしまったのね。私も母として、どうして気づいてあげられなかったのかと……」
「すべては俺が元凶を引き入れたせいだ。そのせいで瑞葉や光矢があんな悲惨な未来に」
三人で言葉を交わすうちに、胸の奥の痛みはますます鋭くなる。けれど、逃げてはいけない痛みだとわかっていた。
「……あの親子だけは許せないわ」
妻の言葉に、私は深くうなずいた。
「当然だ。あの親子がどれほどの禍根をもたらしたか……。許すつもりはない。あの者たちの動向は、常に監視させる。二度とあの子たちの前に立たせはしない」
弟が低く言う。
「それと、チエという侍女……一体どこの者か、徹底的に調べよう。花蓮の差し金か、それとも他の勢力が絡んでいるのか。必ず突き止めるべきだ」
「うむ。佳乃の件も含めて、徹底して見張らねばならぬ。もう二度と、隙を見せてはならない」
私は拳を強く握りしめた。
「瑞葉と光矢を、今度こそ守る。どんな犠牲を払ってでも……今度は決して手放さない。あの子たちは私たちのすべてだ」
その言葉に、妻も弟もうなずいた。
私は静かに決意を固めた。
もう二度と、過ちは繰り返さない。
(母視点)
部屋に戻ると、すかさず恭子が入ってきた。
「透子様。お茶をお持ちいたしましょうか?」
「ありがとう。今は結構よ。それより、あの女狐たちはどうしているのかしら」
「はい、辺境の地で、仕事を任されるわけでもなく、茶会などに招待されることもなく、商人を呼びつけ使う予定の無いドレスや装飾品を買い漁っています。見る目はないようで、粗悪品を高価な値段で買い、いいカモだと思われているようです。ただ、克己様が夫であったときと違い予算はさほど多くはないようです」
「そう。でも、なんだか対した罰にはなってないようね」
「手のものに監視はさせていますが、辺境伯領主夫人に手紙を出します。彼女ならこちらの意図を組んで上手くやってくれるでしょう」
「彼女ね……結果を楽しみに待ちましょう」
「はい」
今までの私は、上位の家に生まれた者として、常に気高くあらねばならないと自負していた。下位の家の者を決して見下さず、何を言われても穏やかに受け流す――それが正しいあり方だと信じていたのだ。
けれど未来で、愛する娘と息子が無残に命を奪われる光景を知ってしまった今、悟らざるを得なかった。私の態度は、上位の家の者の矜持とは違っていたのだ。本来なら、愚か者には決して侮らせず、逆らえばどうなるかと恐れられるほどの存在感を示さなければならなかった。
私は何もかも間違えていた。子どもたちへの接し方すら分からず、彼らを不安にさせ、寄り添うこともできていなかったのだ。
それでも――瑞葉と光矢のおかげで、私は再びやり直す機会を与えられた。
もう二度と同じ過ちを繰り返さない。母として、そして一族を導く立場として、今度こそすべてを賭けてこの子たちを守り抜こう。
話を終え、子どもたちを部屋へ戻した後、重苦しい雰囲気が立ち込めていた。胸の奥が重く、息苦しい。
(娘と息子を私は死なせてしまったのだ……守れなかった。不甲斐ないにも程がある)
悔恨が繰り返し押し寄せる。瑞葉も光矢も、あんなに小さな体で背負わなくてもよい苦しみを背負わされてきた。父親である自分は何をしていたのか。
「蒼一さん」
「兄さん」
二人の顔に浮かぶのは、やはり同じ苦しみと後悔の色だった。
「あの子たちに……こんな重荷を背負わせてしまったのね。私も母として、どうして気づいてあげられなかったのかと……」
「すべては俺が元凶を引き入れたせいだ。そのせいで瑞葉や光矢があんな悲惨な未来に」
三人で言葉を交わすうちに、胸の奥の痛みはますます鋭くなる。けれど、逃げてはいけない痛みだとわかっていた。
「……あの親子だけは許せないわ」
妻の言葉に、私は深くうなずいた。
「当然だ。あの親子がどれほどの禍根をもたらしたか……。許すつもりはない。あの者たちの動向は、常に監視させる。二度とあの子たちの前に立たせはしない」
弟が低く言う。
「それと、チエという侍女……一体どこの者か、徹底的に調べよう。花蓮の差し金か、それとも他の勢力が絡んでいるのか。必ず突き止めるべきだ」
「うむ。佳乃の件も含めて、徹底して見張らねばならぬ。もう二度と、隙を見せてはならない」
私は拳を強く握りしめた。
「瑞葉と光矢を、今度こそ守る。どんな犠牲を払ってでも……今度は決して手放さない。あの子たちは私たちのすべてだ」
その言葉に、妻も弟もうなずいた。
私は静かに決意を固めた。
もう二度と、過ちは繰り返さない。
(母視点)
部屋に戻ると、すかさず恭子が入ってきた。
「透子様。お茶をお持ちいたしましょうか?」
「ありがとう。今は結構よ。それより、あの女狐たちはどうしているのかしら」
「はい、辺境の地で、仕事を任されるわけでもなく、茶会などに招待されることもなく、商人を呼びつけ使う予定の無いドレスや装飾品を買い漁っています。見る目はないようで、粗悪品を高価な値段で買い、いいカモだと思われているようです。ただ、克己様が夫であったときと違い予算はさほど多くはないようです」
「そう。でも、なんだか対した罰にはなってないようね」
「手のものに監視はさせていますが、辺境伯領主夫人に手紙を出します。彼女ならこちらの意図を組んで上手くやってくれるでしょう」
「彼女ね……結果を楽しみに待ちましょう」
「はい」
今までの私は、上位の家に生まれた者として、常に気高くあらねばならないと自負していた。下位の家の者を決して見下さず、何を言われても穏やかに受け流す――それが正しいあり方だと信じていたのだ。
けれど未来で、愛する娘と息子が無残に命を奪われる光景を知ってしまった今、悟らざるを得なかった。私の態度は、上位の家の者の矜持とは違っていたのだ。本来なら、愚か者には決して侮らせず、逆らえばどうなるかと恐れられるほどの存在感を示さなければならなかった。
私は何もかも間違えていた。子どもたちへの接し方すら分からず、彼らを不安にさせ、寄り添うこともできていなかったのだ。
それでも――瑞葉と光矢のおかげで、私は再びやり直す機会を与えられた。
もう二度と同じ過ちを繰り返さない。母として、そして一族を導く立場として、今度こそすべてを賭けてこの子たちを守り抜こう。
0
あなたにおすすめの小説
復讐は、冷やして食すのが一番美味い
Yuito_Maru
ファンタジー
3度目の人生を生きるピオニー・レノドン。
1度目の人生は、愛した幼馴染と家族に裏切られ、無垢で無力のまま命を落とした。
2度目は、剣を磨き、王太子の婚約者となるも、1度目より惨めに死んでいった。
3度目は、微笑の裏で傭兵団を率い、冷たく復讐の刃を研ぐ。
狙うは、レノドン伯爵家、そして王家や腐った貴族たち。
「復讐とは、怒りを凍らせて成就する歪んだ喜びだ」――ピオニーは今、その意味を体現する。
-----
外部サイトでも掲載を行っております
私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい
しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。私というコマを、貴族と結婚させることによって。
でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。悪態をつく姑。私を妻と扱わない夫。夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。
結婚して三年。私は流行り病である『バラ病』にかかってしまう。治療費は金貨たった一枚。しかし夫も父も私のためにお金を出すことはなかった。その価値すら、もう私にはないというように。分かっていたはずの現実が、雨と共に冷たく突き刺さる。すべてを悲観した私は橋から身を投げたが、気づくと結婚する前に戻っていた。
健康な体。そして同じ病で死んでしまった仲間もいる。一度死んだ私は、すべてを彼らから取り戻すために動き出すことを決めた。もう二度と、私の人生を他の人間になど奪われないために。
父の元を離れ計画を実行するために再び仮初の結婚を行うと、なぜか彼の愛人に接近されたり、前の人生で関わってこなかった人たちが私の周りに集まり出す。
白い結婚も毒でしかない父も、全て切り捨てた先にあるものは――
無能だと捨てられた第七王女、前世の『カウンセラー』知識で人の心を読み解き、言葉だけで最強の騎士団を作り上げる
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
エルミート王国の第七王女リリアーナは、王族でありながら魔力を持たない『無能』として生まれ、北の塔に長年幽閉されていた。
ある日、高熱で生死の境をさまよった彼女は、前世で臨床心理士(カウンセラー)だった記憶を取り戻す。
時を同じくして、リリアーナは厄介払いのように、魔物の跋扈する極寒の地を治める『氷の辺境伯』アシュトン・グレイウォールに嫁がされることが決定する。
死地へ送られるも同然の状況だったが、リリアーナは絶望しなかった。
彼女には、前世で培った心理学の知識と言葉の力があったからだ。
心を閉ざした辺境伯、戦争のトラウマに苦しむ騎士たち、貧困にあえぐ領民。
リリアーナは彼らの声に耳を傾け、その知識を駆使して一人ひとりの心を丁寧に癒していく。
やがて彼女の言葉は、ならず者集団と揶揄された騎士団を鉄の結束を誇る最強の部隊へと変え、痩せた辺境の地を着実に豊かな場所へと改革していくのだった。
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
【第2部開始】ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜
月森かれん
ファンタジー
中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。
戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。
暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。
疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。
なんと、ぬいぐるみが喋っていた。
しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。
天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。
※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる